【行政書士監修】民泊新法(住宅宿泊事業法)とは?成立の背景や対象事業者を解説

民泊を利用されたことはありますか?よく利用するという方、利用してみたいけど不安があるという方、またご自身で民泊を始めたいという方もいらっしゃると思いますが、注目すべきは「民泊新法」。法律が成立したことで民泊がどのように変わったのかをご説明します。
民泊を利用したい方も、始めたい方も必見の内容です。
目次
民泊新法(住宅宿泊事業法)の概要
はじめに民泊の基本についてや、民泊を始めるために必要なことについて確認していきましょう。
そもそも「民泊」とは?
民泊とは、一般的に「住宅の全部または一部を活用して旅行者等に宿泊サービスを提供すること」をいいます。近年世界各地で急増している宿泊形態であり、日本でも注目を集めています。
民泊に対するニーズを受け、平成30年6月に民泊新法(住宅宿泊事業法)が施行されました。その結果、日本国内で民泊サービスを提供するためには次のいずれかの手続きを行う必要があります。
・旅館業法の許可を得る
・国家戦略特区法(特区民泊)の認定を得る
・住宅宿泊事業法の届出を行う
出典:はじめに「民泊」とは|minpaku
http://www.mlit.go.jp/kankocho/minpaku/overview/minpaku/index.html
民泊新法(住宅宿泊事業法)の届出と旅館業法の許可はどう違うの?
旅館業は「宿泊料を受けて人を宿泊させる営業」と定義されています。宿泊とは「寝具を利用して施設を利用すること」をいいます。旅館業法は旅館業の適正な運営を確保するための法律であり、旅館業を営む場合は旅館業法に基づく営業許可を得ることとなっています。
民泊は旅館業に該当するため、従来は旅館業法に基づく許可を取得するしかありませんでした(特区民泊が認められている一部地域を除く)が、民泊新法の施行により、その選択肢が増えました。つまり、旅館業の許可を取得する方法以外に住宅宿泊事業法の届出を行うことによって民泊サービスを提供することができるようになりました。
旅館業には「旅館・ホテル営業」「簡易宿所営業」「下宿営業」の種別があり、民泊の場合は簡易宿所営業で許可を得るのが一般的です。
出典:旅館業法について|minpaku
http://www.mlit.go.jp/kankocho/minpaku/overview/minpaku/law2.html
民泊新法(住宅宿泊事業法)の届出と簡易宿所はどう違うの?
住宅(戸建住宅やマンションなど)を提供して民泊(住宅宿泊事業)を行おうとする方は、都道府県知事等への届出が必要です。条例により、騒音やゴミ出しなどの近隣住民とのトラブルがある点から民泊を実施する期間等の制限を定めている場合もあるので、確認しておくことが大切です。
出典:1.住宅宿泊事業者に係る制度の創設|minpaku
http://www.mlit.go.jp/kankocho/minpaku/overview/minpaku/law1.html
また国家戦略特区法(特区民泊)とは、国内外の方の旅行やビジネス等多様な宿泊ニーズに対応するため、国家戦略特区において政令で定める要件に該当することで旅館業法の適用が除外されるという事業のことをいいます。外国人旅行者等の滞在に適したサービス(外国語による施設案内等)を提供する事業とされていますが、日本人の旅行者も同じように利用できます。
平成30年6月30日現在、東京都大田区、大阪府、大阪市、北九州市などで取り組みがあり、これらの国家戦略特区において要件に該当し都道府県知事等の認定を受けることで、旅館業法の適用を除外されます。
政令で定める要件には、宿泊日数2泊3日以上、滞在者名簿の設置、施設周辺住民に対する説明・苦情処理等が適切に行われること、居室の床面積、などがあります。
出典:国家戦略特区 特区民泊について(PDF)|内閣府http://www.kantei.go.jp/jp/singi/tiiki/kokusentoc/tocminpaku.html
簡易宿所営業とは、「宿泊する場所を多人数で供用し、宿泊料を受けて宿泊させる営業」とされています。例としてペンションや山小屋、ユースホステルなどがあります。
住居専用地域での営業ができないことや、営業日数の制限・施設基準などの点で住宅宿泊事業と要件が異なります。簡易宿所営業の許可を得るためには、民泊サービスを行う住宅等がある都道府県の保健所に申請が必要です。
出典:旅館業法について|minpaku
http://www.mlit.go.jp/kankocho/minpaku/overview/minpaku/law2.html
民泊(住宅宿泊事業法)や特区民泊と簡易宿所の届出に係る要件を比較すると次の表のようになります。
出典:はじめに「民泊」とは|minapaku
http://www.mlit.go.jp/kankocho/minpaku/overview/minpaku/index.html
民泊新法(住宅宿泊事業法)成立の背景
不適切なサービスを提供することで民泊トラブルが増加したことを受け、民泊に一定のルールを定めることとし、民泊新法(住宅宿泊事業法)が平成29年6月に制定(平成30年6月施行)されました。課題となったことやその改善法として定められた内容をご紹介します。
出典:住宅宿泊事業法(民泊新法)とは?|minpaku
http://www.mlit.go.jp/kankocho/minpaku/overview/minpaku/law1.html
民泊で、安全面・衛生面の確保がなされていないこと
狭いスペースを多くの宿泊者が利用することで感染症など衛生面の問題が生じやすくなったり、災害時の避難方法が分からなかったりと問題のある民泊もあります。民泊新法では宿泊者1人当たりの居室面積や感染症に対する対応、避難経路の表示など宿泊者が安全かつ衛生的に民泊を利用できるよう、法的なガイドラインが定められています。
民泊で、騒音やゴミ出しなどによる近隣トラブルが社会問題となっていること
不特定多数の宿泊者が出入りする民泊では、騒音や不適切なゴミ出しなどで近隣住民とのトラブルが起こりがちです。
民泊新法では、宿泊者が近隣住民等に迷惑をかけないために必要なことを説明し、周辺地域からの苦情等があれば速やかに対応するようにと定めています。また民泊の届出を行うときは、事前に近隣住民に説明することが望ましいとされています。
観光旅客の宿泊ニーズが多様化していること
世界各地で民泊が増えていることや、年々外国人旅行者が増加している実情、また2020年の東京オリンピックに向けて宿泊施設不足に対応するなどの点から、適切に運営されている民泊が必要とされています。
民泊新法(住宅宿泊事業法)の対象となる事業者
民泊サービスが円滑に行われるために3種類の事業者がそれぞれの役割を担っています。民泊新法の対象となる事業者の業務や届出について詳しくご説明します。なお届出や申請などは、厚生労働省・国土交通省・観光庁が運営する民泊制度ポータルサイト「minpaku」からオンラインで手続きできます。
出典:民泊制度運営システムのご案内|minpaku
http://www.mlit.go.jp/kankocho/minpaku/business/system/index.html
住宅宿泊事業者
旅行者等に宿泊するための住宅を提供するのが住宅宿泊事業者です。
住宅宿泊事業者とは?
住宅宿泊事業者とは「都道府県知事等に届出をして住宅宿泊事業を営む者」のことをいいます。住宅宿泊事業は、旅行者等を宿泊させる日数が1年間で180日を超えないものとされています。
対象となる住宅は「台所」「浴室」「便所」「洗面設備」が備えられていて、居住のために使用されていることないしは入居者の募集が行われている家屋であることが必要です。
出典:住宅宿泊事業者編|minpaku
http://www.mlit.go.jp/kankocho/minpaku/business/host/index.html
住宅宿泊事業者の届出内容
住宅宿泊事業届出書に必要な内容を記入します。氏名(法人の場合は商号または名称)・住所・住宅の所在地・住宅の実態(戸建・共同住宅など)・居室等の面積・マンション等の場合規約で住宅宿泊事業が禁止されていないこと、などが届出事項となっています。
また届出の際に必要書類を添付することとされています。個人と法人で多少異なりますが、住宅の登記事項証明書や図面・区分所有建物の場合は規約の写し・成年被後見人及び被保佐人に該当しない旨の後見等登記事項証明書・欠格事由に該当しないことを制約する書面、などがあります。
これらの書類を住宅の所在地を管轄する都道府県知事に届け出ます。
出典:住宅宿泊事業者の届出に必要な情報、手続きについて|minpaku
http://www.mlit.go.jp/kankocho/minpaku/business/host/procedure.html
住宅宿泊事業者の業務
住宅宿泊事業者の業務としては次のようなものがあります。
1.宿泊者の衛生の確保(居室の最低面積の確保、設備や備品の清掃・換気等、感染症への対応、など)
2.宿泊者の安全の確保(非常用照明器具・避難経路の表示・その他の安全措置を住宅規模等に合わせて講じる)
3.外国人宿泊者の快適性・利便性の確保(外国語を用いた設備使用方法・交通手段・災害時の連絡先等の案内、その他必要な措置)
4.宿泊者名簿の備付け(宿泊者氏名・住所・職業・宿泊費・外国人の場合国籍及び旅券番号を記載、3年間保存の必要、都道府県知事の要求があったときは提出すること)
5.周辺地域の生活環境への悪影響の防止(宿泊者に対して、騒音・ごみ処理・火災防止・その他の周辺地域の生活環境への悪影響を防止するために必要な事項を説明する)
6.苦情等への対応(周辺住民からの苦情・問い合わせに適切かつ迅速に対応すること)
出典:事業者の業務[1]|minpaku
http://www.mlit.go.jp/kankocho/minpaku/business/host/responsibility01.html
7.住宅宿泊事業を行う住宅である標識を門扉・玄関等の分かりやすい場所に掲示すること
8.都道府県知事への定期報告(宿泊者数、宿泊させた日数、国籍別宿泊者数の内訳)
9.住宅宿泊サービスの提供に係る契約の締結の代理・媒介を委託するときは、住宅宿泊仲介業者または旅行業者に委託しなければならない。
出典:事業者の業務[2]|minpaku
http://www.mlit.go.jp/kankocho/minpaku/business/host/responsibility02.html
住宅宿泊管理業者
住宅宿泊事業者は、届出住宅の居室の数が5を超える場合または届出住宅に人を宿泊させる間不在(日常生活範囲の不在を除く)となる場合は、住宅宿泊管理業務を住宅宿泊管理業者に委託する必要があります。(ただし住宅宿泊業者が住宅宿泊管理業者として住宅宿泊管理業務を行う場合は委託不要)
出典:住宅宿泊管理業務の委託|minpaku
http://www.mlit.go.jp/kankocho/minpaku/business/host/entrust.html
住宅宿泊管理業者とは?
「住宅宿泊事業者から委託を受け、報酬を得て住宅宿泊管理業務を行う者」を住宅宿泊管理業者といいます。住宅宿泊管理業務とは、住宅宿泊事業の適切な実施のために必要な届出住宅の維持保全に関する業務のことです。
住宅宿泊管理業者として事業を行うためには、国土交通大臣の登録を受け、5年ごとに登録の更新を受ける必要があります。
出典:住宅宿泊管理業者とは?|minpaku
http://www.mlit.go.jp/kankocho/minpaku/business/acting/index.html
住宅宿泊管理業者の届出内容
住宅宿泊管理業者の届出事項は、商号・名称または氏名、住所、役員の氏名等(法人の場合)、法定代理人の氏名住所等(未成年の場合)、営業所・事務所の名称と所在地、となっています。
添付書類は個人と法人でやや異なりますが、成年被後見人及び被保佐人に該当しない旨の後見等登記事項証明書、登録申請者等の略歴を記載した書面、財産に関する調書、欠格事由に該当しないことを誓約する書面、住宅宿泊管理業を的確に行うための必要な体制が整備されていることを証する書類、などがあります。
住宅宿泊管理業者登録申請書と必要な添付書類を国土交通大臣に提出し、住宅宿泊管理業者としての登録を受けます。登録免許税9万円の支払(初回登録時のみ)と、5年ごとの登録更新が必要です。
出典:住宅宿泊管理業者の登録|minpaku
http://www.mlit.go.jp/kankocho/minpaku/business/acting/registration.html
住宅宿泊管理業者の業務
住宅宿泊事業者から委託を受け、住宅宿泊業務(上記住宅宿泊事業者の業務の1~6)を住宅宿泊管理者の責任の下に行います。業務に関する帳簿を備え付け・記載し・事業年度の末日から5年間保存する必要があります。
また管理の委託を受けた住宅の管理状況を、住宅宿泊事業者に定期報告します。その他業務に関する誇大広告や不当な勧誘等の禁止、管理受託契約の書面交付の義務、受託管理業務の再委託禁止、などの措置を講じることとされています。
出典:住宅宿泊管理業者の業務|minpaku
http://www.mlit.go.jp/kankocho/minpaku/business/acting/index.html
住宅宿泊仲介業者
住宅宿泊事業者から物件情報の提供を受け、宿泊者から仲介サイト等を通じて宿泊サービスの提供契約等を行うのが住宅宿泊仲介業者です。
住宅宿泊仲介業者とは?
住宅宿泊仲介業とは、報酬を得て宿泊者に宿泊サービスの情報を提供したり、宿泊者や住宅宿泊事業者に代わって宿泊サービスの提供の契約を結んだりする事業です。観光庁長官の登録を受けて住宅宿泊仲介業を営む者」が住宅宿泊仲介業者です。
出典:住宅宿泊仲介業者編|minpaku
http://www.mlit.go.jp/kankocho/minpaku/business/mediation/index.html
住宅宿泊仲介業者の登録要件
住宅宿泊仲介会社の届出事項は、商号・名称または氏名、住所、役員の氏名等(法人の場合)、法定代理人の氏名住所等(未成年の場合)、営業所・事務所の名称と所在地です。
必要な添付書類には、成年被後見人及び被保佐人に該当しない旨の後見等登記事項証明書、財産に関する調書、欠格事由に該当しないことを誓約する書面、住宅宿泊仲介業を的確に行うための必要な体制が整備されていることを証する書類、などがあります。
住宅宿泊仲介業者の登録を受けようとするときは、住宅宿泊仲介業登録申請書と必要な添付書類を観光庁長官に提出します。登録免許税9万円の支払(初回登録時のみ)と5年ごとの登録更新が必要です。
出典:住宅宿泊仲介業者として登録するには?|minpaku
http://www.mlit.go.jp/kankocho/minpaku/business/mediation/registration.html
住宅宿泊仲介業者の業務
住宅宿泊仲介業務を行うために必要な措置等をとる必要があります。
・宿泊者との住宅宿泊仲介契約に関する約款を定めること
・仲介業務に関する料金の表示
・宿泊者に対する不当な勧誘や違法行為のあっせん等禁止
・住宅宿泊仲介契約に関して書面を交付すること
・民泊仲介サイト掲載物件の適法性の確認・観光庁への定期報告 など
出典:住宅宿泊仲介業者の業務|minpaku
http://www.mlit.go.jp/kankocho/minpaku/business/mediation/index.html
まとめ
・民泊とは住宅を活用して旅行者等に宿泊サービスを提供すること
・民泊サービスを提供するためには、旅館業法に基づく許可を得るか住宅宿泊業の届出をすることが必要
・民泊新法(住宅宿泊事業法)は、一定のルールのもとに健全な民泊を提供することを目的として平成29年6月に制定された
・民泊新法の対象事業者は、住宅宿泊事業者・住宅宿泊管理業者・住宅宿泊仲介業者
・住宅宿泊事業者は住宅に旅行者等を宿泊させる事業者。都道府県知事に届出が必要
・住宅宿泊管理業者は住宅宿泊事業者の委託で住宅宿泊業務を行う事業者。国土交通大臣の登録が必要(5年更新)
・住宅宿泊仲介業者は宿泊者に代わり民泊サービス契約などを行う事業者。観光庁長官の登録が必要(5年更新)
監修:田島 充(行政書士 四条烏丸法律事務所・所長)