賃貸物件に入居するとき必ず必要になる手続きが「賃貸借契約書の締結」。といっても、初めてのことだとどんな点に注意したらわからず、専門用語の読み方や意味が分からない場合があります。しかし、賃貸物件に居住するなら賃貸借契約書賃貸借契約書の中身を理解しておくことはです。そうでないとあらぬトラブルに巻き込まれる恐れもあるかもしれません。

賃貸借契約書とは?重要事項説明書との違い

気に入った賃貸物件に申し込みをして、審査に無事通過したら次はいよいよ賃貸契約の手続きに入ります。その際に登場する書類は「賃貸借契約書」と「重要事項説明書」です。賃貸契約を理解するには、まずこの2つの書類の違いから学ぶ必要があります。

賃貸借契約書の役割

賃貸借契約書は、文字のとおり賃貸物件に入居するうえでの「契約書」の役割を果たします。

賃貸借契約書は貸主と借主の双方の権利と義務の内容を明確にすることを目的として、あらかじめ条件等を細かく指定し、書面にした契約書です。

賃貸借契約書に盛り込まれる内容は多岐にわたります。のちに詳しく解説していきますが、見落としがちですが気を付けたいのは特記事項である「特約」です。退去時の敷金返還ルールなど、知っておかないと借主に不利になるような内容が盛り込まれている場合もあるため、必ず目を通すようにしましょう。

「重要事項説明書」との違い

実務的には、不動産会社を通して賃貸契約を結ぶ際に、「契約内容の最終確認をするための書類」ということになります。

賃貸契約に際しては、仲介する不動産会社はその賃貸物件の概要について契約者に説明する義務があります。また説明する者にも条件があり、「宅地建物取引士」の資格を有した者でない限りその義務を果たすことはできません。そして、その説明する内容が書面としてまとめられているものが「重要事項説明書」です。

賃貸借契約書で絶対にチェックしておくべき7つのポイント

次に、数ある項目の中で特に慎重に確認しておきたいポイントについて、解説していきます。なお、ここでは国土交通省の提供する「賃貸住宅標準契約書(改訂版)」をもとに進めていきます。

参考:国土交通省「賃貸住宅標準契約書(改訂版)

①特約事項

先に触れましたが、この「特約事項」は後々のトラブルに繋がりやすい部分です。契約締結前に必ず確認しないと損をしてしまうリスクもあります。

賃貸借契約書では、特約にいろんな追加条件が付加されているケースが多々あります。

国土交通省が定めた「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」があります(参考:国土交通省「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」)。その内容と照らし合わせ、不当と判断できる場合は不動産会社を通して確認するといいでしょう。

②物件情報

次に基本として確認しておきたいのが、賃貸借契約書の冒頭にある「物件情報」です。

賃貸借契約書には、必ず冒頭に「どの物件に対する賃貸借契約書か」明らかにするため、物件情報には下記のようなものがあります。

  • 所在地
  • 建物の構造(木造・RC造等)
  • 間取り
  • 部屋番号
  • 物件の工事完了年

ここで、間違いなく自分が借りようとしている賃貸物件か、またこれまで参照していた不動産サイトや、不動産会社から提供された物件情報と相違がないか確認しましょう。

③設備について

次に専有部分およびにおける設備環境にも目を通します。

専有部分においては、浴室や洗面台といった大きなものから調理器具(ガスコンロ)なども記載があります。ここで注意したいのは「冷暖房設備(エアコン)」と「照明設備」。昨今の賃貸物件では、この場合は自分でエアコンを購入して設置する必要が出てきます。

また照明器具も備え付けのないケースがあり、これは入居時にないと非常に不便ですので忘れずに確認し、設置がないようであれば入居までに調達しておきましょう。

④契約期間、家賃、敷金、礼金

次に確認したいのが、賃貸契約の「契約期間」と諸費用についてです。

契約期間においてははずです。なお、この契約期間内で退去することも可能な場合が多いです。(一部、一定期間まで居住しない限り違約金が発生する物件も存在するため、後述する違約金事項を確認するといいでしょう)。

賃料以外に、共益費、敷金、礼金があるのであれば「その他一時金」に記載がなされていますので、確認してください。

⑤管理会社の連絡先

入居後に万が一のトラブルが起こった際、窓口になる連絡先の記載があるため、必ず控えておきましょう。なお、用件によって窓口が異なることも多いです。物件のトラブルの連絡先と契約に関する連絡先など、分けてメモするようにしてくださいね。

余談ですが、設備に関するトラブルの連絡先が「共用部分」か「専有部分」かによって異なる物件もあります。

⑥解約や更新について

は、これまで記載された内容に関する条件等について事細かに記載がされています。文字ばかりで難しい印象がありますが、大事なことなので一度は目を通しておきたい内容です。

特に「禁止事項」「解約事項」「違約金事項」に関してはトラブルの火種になり得るため、必ず確認しておいてください。

⑦原状回復

解約時の原状回復義務と敷金の精算に関してですが、修繕内容によって「貸主負担」か「借主負担」か、細かく区分けがされています。前述の国土交通省「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」を参考に、自分に不利がないか確認をするようにしてください。

不明点がある場合は、締結前に不動産会社へ相談してみてくださいね。

賃貸借契約書を紛失してしまった時の対処法

これだけ大事なことを盛り込まれている賃貸借契約書。大切に保管していたつもりが、なぜか見当たらない…!なんてことも、あり得なくはありませんよね。

でも大丈夫。そんなもしもの事態における対処法をまとめてみました。

原則、再発行はできない

まず原則として「賃貸借契約書の再発行はできない」と覚えておくといいでしょう。貸主・借主双方の調印を必要とする賃貸借契約書は、手続きにひと手間あります。それを借主の落ち度が原因で、再発行し直すというのは考えづらいです。

「では内容の確認のしようがないじゃないか!」と思われるかもしれませんが、確認方法はあります。

管理会社、大家さんから賃貸借契約書のコピーをもらう

賃貸借契約書は貸主・借主の双方間で1部ずつ保管するのが一般的です。つまり、貸主側に同じ内容の契約書が存在する理屈になります。「紛失してしまったから複写が欲しい」と依頼すれば、渋る会社は少ないでしょう。

もし貸主側も紛失をしていたとしたら、次に訪ねる相手は「仲介業者」です。賃貸契約の仲介を果たした不動産会社では、契約に関する書類を保管しておく義務があります。そこで事情を説明すれば、快く応じてくれるはずです。

契約締結後の注意

  1. 無くさないようにファイルにする
  2. 念のためコピーをとる
  3. コピーも原本も無くしたら貸主に聞く

貸主もだめなら仲介業者に聞く【番外編】賃貸借契約書を提出する際に必要な書類

最後に、賃貸契約締結時に必要な書類について言及しておきます。

住民票

契約者本人の住所証明に「住民票」が必要です。契約者だけでなく、入居者全員のものが必要になることもあります。通常は有効ケースが多く、古いものでは証明になりません。

収入証明書

契約者本人に安定した収入があることの証明になる「収入証明書」は、家賃の支払い能力をみる指標です。

会社員:源泉徴収票

会社員(給与所得者)の場合は、年末に勤務する会社から発行してもらう「源泉徴収票」で収入が分かります。

自営業:確定申告書

自営業者の場合は、確定申告時に発行される「納税証明書」等が該当します。

最後に

賃貸物件に住むためには必ずとおることになる「賃貸契約」。それにまつわる書類には、重要な意味があることが分かったかと思います。

「賃貸借契約書」は、普段の日常ではあまり意識することはありませんが、もしものタイミングで効力を発揮します。いざという時に慌てることのないよう、ぜひ細かい条項まで目を通しておきましょう。

監修者:田井 能久(不動産コンサルタント)