【税理士監修】所得とは?税率は?所得税法で定められた所得税について詳しく

目次
所得とは何か? 所得税の基本的な知識について
サラリーマンが会社で働いて得た給料や自営業の方が商売で得た収入のもうけには、原則として所得税がかかり、税金を納めなければなりません。特にサラリーマンは給与から天引きされるため、何の疑問も抱かず、所得税を支払っている方が多いのではないでしょうか。
この記事では、収入と所得の違いや所得税の種類などについて解説をいたします。また納税者のそれぞれの事情に考慮した所得税控除についても説明しますので、損をしない納税をしていただきたいと思います。
年収と所得は同じではない
年収は会社員であれば、働いた対価として会社からもらった1年間の給与やボーナスの合計であり、個人事業主であれば、商売をして得た1年間の売り上げを指します。所得とは、年収から必要経費を控除して残ったもうけの金額を指します。収入と所得を混同している方がいますが、同一ではありません。
年収とは
それでは年収を、給与所得者・年金生活者・個人事業者に分けてご説明いたします。
・給与所得者の場合
給与所得者の場合の年収とは、1年間に得た給与やボーナスなどの合計であり、給与所得控除額を引いて所得を計算します。
・年金生活者の場合
公的年金には、国民年金や厚生年金・障害者年金などがありますが、源泉徴収票の支払額が収入となります。公的年金の控除額は年齢および収入額により決まってきます。収入から公的年金の控除額を引いた所得は雑所得となります。
・個人事業者の場合
原則として、1年間の売り上げが年収となりますが、所得は年収から必要経費および青色申告の方は青色申告の特典である青色申告特別控除などを引いて計算します。必要経費は、事業の種類や形態によって多少の違いがあります。
所得税の計算の元となる課税所得とは
課税所得とは、所得から配偶者控除や基礎控除・社会保険料控除除などの各種控除を引いた金額で、この金額に対して税率をかけて所得税の金額を出します。
課税所得=所得-必要経費-各種控除
所得税の対象になるものとは
所得税の対象となる所得は、所得税法第34条により10種類に分類できます。その主な内容は次の通りです。
事業所得
農業や漁業・製造業・卸売業・小売業・サービス業などを営んでいる人の事業から生じた所得です。個人事業者の所得の大部分はこの事業所得に該当します。事業所得は、次の式により算出します。
事業所得=総収入金額–必要経費(売上原価・給与・地代・家賃・減価償却費)
また、青色申告の場合は以下のようになります。
事業所得=総収入所得–必要経費–青色申告特別控除
総収入には売り上げのほかに金銭以外の権利・リベート・保険金や損害賠償金なども含まれます。
給与所得
企業から得る給料や賃金・歳費・ボーナス・住宅手当・家族手当・残業代などの収入金額から給与所得控除をした残額を指します。現物支給なども給与所得に含まれます。なお、非課税の範囲内の通勤手当や旅費規定に従った出張旅費・一定の要件を満たす資格取得費などは非課税ですので含まれません。
給与所得=給与収入∔現物-給与所得控除額
・2017年~2018年分の給与所得控除
給与等の収入金額 | 給与所得控除額 |
180万円以下 | 収入金額×40% 65万円未満は65万円 |
180万円~360万円以下 | 収入金額×30%+18万円 |
360万円円~660万円以下 | 収入金額×20%+54万円 |
660万円円~1,000万円以下 | 収入金額×10%+120万円 |
1,000万円超 | 220万円(上限) |
出典:国税庁
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1410.htm
退職所得
退職所得は、退職の際に勤務先から得る退職手当や一時金・生命保険会社や信託会社などから受け取る退職一時金などがあります。
退職所得は次の計算式で表されます。
退職所得=収入金額- 退職所得控除額 × 1/2
・退職所得控除額
勤続年数 | 退職所得控除額 |
20年以下 | 40万円 × A (80万円に満たない場合には、80万円) |
20年超 | 800万円 + 70万円 × (A – 20年) |
出典:国税庁
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1410.htm
不動産所得
不動産所得とは、自己が所有する不動産を貸したときに得られる所得を指します。主な不動産所得には土地の貸付けや建物の貸付け・広告宣伝用の看板の使用料などがあります。なお同じ不動産関連の所得でも、不動産売買時に発生する所得は、譲渡所得、あるいは事業所得になります。
不動産所得額の算出は次の式によります。
不動産所得額 =収入金額 - 必要経費 -青色申告特別控除
必要経費とは、収入を得るため要した費用や販売費・一般管理費などで、主なものには固定資産税・事業税・不動産の修繕費・損害保険料・減価償却費・賃貸管理代行の費用・税理士の費用などがあります。
利子所得
利子所得には、預貯金の利子や公社債の利子・信託会社で運用した利子・国債や地方債の利子などがあります。確定申告不要制度を選択すれば、源泉徴収だけで済ませることがきます。
配当所得
配当所得とは利益の分配金で、企業から受ける配当金や投資信託の収益分配金・保険会社の剰余金の配当などがあります。配当所得は、確定申告の対象になりますが、確定申告不要制度を選ぶことができるものもあります。
山林所得
自己が所有する山林を、伐採したり譲渡したりした際に生じる所得を山林所得と呼びます。山林を購入して5年以内に伐採や譲渡して得た利益は事業所得あるいは雑所得となり、山林全体を売却するときの土地部分は譲渡所得となります。
山林所得は次の式により算出します。
山林所得=収入-必要経費-特別控除額(最高50万円)
必要経費には、植林費や下刈費・維持管理に必要な管理費・伐採費・搬出費・仲介手数料などがあります。
譲渡所得
譲渡所得とは、土地や建物・株式・船舶・宝石・ゴルフ会員権などの資産 を譲渡することによって得られる所得を指します。商品等の棚卸資産や山林などの譲渡については対象となりません。
譲渡所得は次の式により算出します。
譲渡所得=収入金額 - (取得費 + 譲渡費用) - 特別控除
譲渡費用は譲渡のために直接要した費用を指し、仲介手数料や印紙税・測量費・取り壊し費用などがあります。特別控除には、マイホームを売却した際の3,000万円の控除などがあります。
一時所得
一時所得とは、事業を営むことにより発生した所得以外の一時的な所得を指します。一時所得には、懸賞や福引きの賞金品・競馬や競輪の払戻金・損害保険の満期返戻金等・遺失物拾得の報労金等があります。
一時所得は次の式により算出します。
一時所得=収入-収入を得るために支出した金額-特別控除額(最高50万円)
雑所得
雑所得とは、今まで述べてきた項目のいずれにも当てはまらない所得を指します。年金や書籍に関する印税・セミナー講師謝礼・個人的な貸金に対する利子・FXでの収入・ネットショップで得た収入などがあげられます。
雑所得の計算方法は、下記の2つを合計したものとなります。
・公的年金等=収入金額-公的年金等控除額
・その他の雑所得=収入金額-必要経費
公的年金や原稿料・講演料などは、源泉徴収にて所得税の徴収がなされます。
公的年金等控除額は次に計算する公的年金等に係る雑所得の速算表から計算します。
・65歳未満の方(1959年1月2日以後に生まれた方)
公的年金等の収入金額 | 公的年金等に係る雑所得の金額 |
70万円以下 | 0円 |
70万円超130万円未満 | 収入金額-70万円 |
130万円以上410万円未満 | 収入金額×0.75-37万5千円 |
410万円以上770万円未満 | 収入金額×0.85-78万5千円 |
770万円以上 | 収入金額×0.95-155万5千円 |
・65歳以上の方(1959年1月1日以前に生まれた方)
公的年金等の収入金額 | 公的年金等に係る雑所得の金額 |
120万円以下 | 0円 |
120万円超330万円未満 | 収入金額-120万円 |
330万円以上410万円未満 | 収入金額×0.75-37万5千円 |
410万円以上770万円未満 | 収入金額×0.85-78万5千円 |
770万円以上 | 収入金額×0.95-155万5千円 |
出典:国税庁
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1410.htm
所得税がかからない、非課税所得について
税金がかからないものをご説明いたします。
障害者のためのマル優制度
身体障害者手帳の交付を受けている方などは、マル優制度が利用でき元本350万円までの預金や郵便貯金、公債の利子が非課税となります。ほかに遺族年金を受けている妻・寡婦、母子年金を受けている方・児童扶養手当を受けている児童の母・障害厚生年金等の障害年金を受けている方なども該当します。
現物支給や実費で精算されるようなもの
現物支給や実費で精算されるようなものについても所得税がかかりません。代表的なものとしては給与所得者の出張旅費や転勤旅費・通勤手当などがあります。
社会政策として配慮されるべきもの
社会政策として配慮される所得に関しても非課税になります。代表的なものを次に列挙します。
・損害保険金や損害賠償金・見舞金
・雇用保険や健康保険などの保険給付金
・生活保護などの給付金
・遺族年金や増加恩給など
・授業料等の学費に当てるための給付金
・生活に必要な家具や衣服などの譲渡による所得
相続や贈与の場合の二重課税防止
相続や遺贈・贈与などで得た所得については、二重課税防止の観点から課税対象外となります。
その他の非課税所得
オリンピックやパラリンピックに表彰される際の交付金や文化功労者年金・NISAなどの配当所得などは課税対象外となります。また宝くじの当選金・Totoの払戻金は法律で定められているため非課税ですが、福引や懸賞の当選金は所得税の対象となります。
所得税の税率は超過累進課税
所得税は、所得が多くなればなるほど税率が高くなる超過累進課税です。所得が、195万円までは5%の税率ですが、4,000万円を越えると最大の45%の税率が適用となります。
課税される所得金額 | 税率 | 控除額 |
195万円以下 | 5% | 0円 |
195万円以上330万円以下 | 10% | 97,500円 |
330万円以上695万円以下 | 20% | 427,500円 |
695万円以上900万円以下 | 23% | 636,000円 |
900万円以上1,800万円以下 | 33% | 1,536,000円 |
1,800万円以上4,000万円以下 | 40% | 2,796,000円 |
4,000万円超 | 45% | 4,796,000円 |
出典:国税庁
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/2260.htm
所得が600万円の方ですと、195万円以下部分に対して5%の税率、195万円~330万円以下の部分に対しては10%、330万円~600万円までの部分にたいしては20%の税金がかかることになります。
これを計算式で表すと次のようになります。
(195万円×5%)+((330万円-195万円)×10%)+((600万円-330万円)×20%)=772,500円
居住者と非居住者について
我が国の課税制度は属地主義をとっていますので、日本に住んでいる人に対して課税されます。居住者の定義は、国内に住所を持ち現在まで引き続き1年以上住んでいる人です。
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税負担の能力によってさまざまな所得控除がある
所得控除とは
人は扶養しなければならない子どもや親がいたり、障害者や病気を持つ家族がいたり、それぞれ事情を持っています。所得控除とは、所得税を算出する際に、それぞれの家庭の事情を考え所得から一定の金額を控除する仕組みです。所得控除には、物的控除と人的控除があるので説明をします。
支出や損失に関係する、物的控除とは
物的控除とは、財産が損害を受けたり、病気などで支出があったりした場合に認められる控除のことを指します。物的控除には下記の7種類があります。
医療費控除
医療費控除とは、本人および生計を同一にする配偶者や親族が病気やけがをした場合に、一定の金額を所得から引くことができる制度を言います。医療機関に支払った医療費が原則年間10万円以上場合に、確定申告することで控除されます。
社会保険料控除
社会保険料控除とは、本人および生計を一にする配偶者や親族の社会保険料を支払った場合には、所得からその金額を引くことができる制度です。社会保険控除の対象となるのは、健康保険料・厚生年金保険料・国民健康保険料・国民年金保険料・後期高齢者医療保険・介護保険料・雇用保険料・国民年金基金掛け金・厚生年金基金掛け金などがあります。
生命保険料控除
生命保険料控除は、一般生命保険料控除・介護医療保険料控除・個人年金保険料控除の3種類があり、契約者が払い込んだ保険料に対して、一定の金額がその年の所得から差し引くことができます。
小規模企業共済等掛金控除
個人事業者が小規模企業共済法の共済系契約の掛金や確定拠出年金法の個人型年金加入者掛金・地方公共団体が実施する心身障害者共済制度の掛金を支払った場合に、掛金を所得から控除できます。
雑損控除
自然による災害や人為的な災害・盗難・横領などにより、資産が損害を受けた際には、一定の金額の所得控除を受けることができます。
地震保険料控除
保険契約者が地震保険の保険料や掛金を支払った場合には、一定の金額の所得控除を受けることができます。
寄附金控除
国や地方公共団体などに寄付をした場合に、所得控除を受けることができます。所得税の寄付金控除の対象になる団体には国や地方公共団体・公益社団法人・公益財団法人・学校法人・社会福祉法人・NPO法人などがあります。なお寄附金控除は所得控除を選択する場合と、税額控除を選択する場合の2つの方式があります。
それぞれの事情に配慮するための、人的控除とは
本人や妻・子どもなど家族の状況に基づいて、1人あたりの控除額が定められた所得控除のことを指し、下記の7種類があります。
基礎控除
基礎控除は、所得のあるすべての方に一律適用されるもので、定額で38万円を所得から控除できます。
配偶者控除
所得のない配偶者や所得の少ない配偶者を持つ方の税金を安くする制度です。2018年分以降については納税者本人の所得が1,000万円以上の場合には控除を受けることはできません。また配偶者の年間の合計所得金額が38万円以下であることが必要です。
配偶者特別控除
配偶者控除で決められている所得よりも高い所得の配偶者の場合に、税金を安くする制度です。従来は年収が141万円以下でなければ対象になりませんでしたが、2017年の税制改正により年収201万円以下までに控除の対象が広がりました。配偶者特別控除の金額は配偶者および納税者本人の所得に応じて細かく定められています。
扶養控除
配偶者以外の親族で、納税者と生計を一にしていて、年間合計所得が38万円以下である場合に適用されます。控除額は、扶養親族の年齢や同居の有無等により決まってきます。
寡婦(寡夫)控除
原則としてその年の12月31日現況において、夫または妻と死別、あるいは離婚後婚姻をしていない方が対象となり、所得が500万円以下で扶養親族の子がいる人場合に適用になります。控除額は一般の寡婦(寡夫)で27万円、特別の寡婦で35万円と定まっています。
障害者控除
納税者本人や配偶者・扶養親族が所得税法上の障害者に該当する場合には、定額の所得控除を受けられます。控除額は、障害者控除額は障害者で27万円・特別障害者で40万円・同居特別障害者で75万円となっています。
勤労学生控除
納税者が勤労学生である場合には、27万円の控除を受けることができます。
所得税はそれぞれの事情に合うよう配慮されている
所得税は、所得が多いほど税率が高くなる累進課税です。しかし、世の中には家族が多くいる方・学校に行っている子どもを持つ方・障害者を抱えている方などそれぞれの事情を持って生活をしている方がいます。所得税はさまざまな事情を持つ方を考慮して、その方の能力に応じて税負担をできるだけ公平にしようとする税制です。その1つである所得控除を有効に活用してください。
監修者:添田 裕美(税理士)