【投資コラム】大塚家具倒産の危機から株式投資を考える~資産の内容と業績の推移に注意しよう

高級家具ブランドとして有名な「大塚家具」が過去最大の赤字を続け、経営危機に立たされています。この難局を主要な店舗を閉店し、家具を大幅に安売りすることで乗り切ろうとしています。2018年12月には、中国の大手家具販売店との業務提携も発表されました。
ところでこの企業は以前から安い株価で取引されていることでも知られていました。私も投資候補として調査したことがありました。しかし同社の業績や資産の内容を調べると、「うかつに投資できない」と判断せざるを得なかったのです。結果的には、その判断は間違いなかったと言えます。
そこで、今回の記事ではこれまでの大塚家具のあらましについて解説します。そして同社を事例として株価が安いと思われる企業への投資をする上で注意するポイントとお勧めする手法ついて解説します。
目次
- 1 大塚家具は「高級家具と知識のある店員」がウリでした
- 2 リーマンショック後の低迷と久美子社長による業績回復
- 3 経営方針の対立から勝久氏と久美子氏が対立
- 4 売上の低下が加速し資産が削られていく
- 5 継続前提の疑義注記とは倒産リスクが高いということ
- 6 高い自己資本比率と低いPBRで取引されていた
- 7 企業の資産は様々な種類に分けられる
- 8 商品の比率が高い資産内容
- 9 商品の価値は本当に正しいのか
- 10 消費者としてお店を訪ねてみる
- 11 ニトリ水準まで値下げをすることはできない
- 12 赤字+衰退産業への投資は控える
- 13 自分の脚でビジネスを観察しよう
- 14 今後の大塚家具について
- 15 まとめ
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大塚家具は「高級家具と知識のある店員」がウリでした
大塚家具は1969年、埼玉県春日部市に「大塚家具センター」として創業しました。次に1972年には販売専門会社を設立し営業を強化し、埼玉県から関東一円に店舗網を広げていきました。そして1993年には会員制を導入し、高級家具店としてのブランド化に取り組みました。
その当時から家具業界は激しい競争になっていました。創業者である大塚勝久氏は創業する前から桐タンス職人であった父親の製品を営業していました。そこで同氏は顧客を会員制にすることと、商品知識の高い従業員がマンツーマンの接客を行うことで差別化を図りました。
この方式が結婚や引越しなどで家具をまとめて買いたい顧客の需要と一致し、業績を伸ばしていきました。また、ホテルなど法人向けの販売にも力を入れたことも業績に貢献しました。その結果売上を1993年の約207億円から2007年には約728億円まで伸ばすことができました。
リーマンショック後の低迷と久美子社長による業績回復
ところがリーマンショックによる不況が同社の雲行きを怪しくさせました。2009年には売上が600億円を下回り営業利益、純利益ともに赤字に転落しました。それと合わせるように同社は社長の座を勝久氏の娘である大塚久美子氏に譲りました。
久美子氏はこれまでの会員制は新規顧客獲得のボトルネックだと考えました。そのため、より気軽に入りやすい店舗開発や運営を導入しました。その結果、2011年には黒字化することに成功しました。
経営方針の対立から勝久氏と久美子氏が対立
しかし、急激な経営方針の転換に創業者である勝久氏は納得できず2014年7月、久美子氏を社長から解任し自ら社長に復帰しました。ところが業績は再び低迷し、2015年に入って取締役会と株主総会で久美子氏が社長に復帰することが決まりました。そして勝久氏は同社を離れ自ら家具店を起業することになったのです。
売上の低下が加速し資産が削られていく
久美子氏の復帰で安泰したと思われましたが、事態はさらに悪化していきました。久美子氏が就任した2009年以降黒字化はしたものの売上は伸びず、経費の削減で乗り切っていました。復帰した2015年も黒字化に成功したものの売上はさらに低迷していったのです。
そして2017年は売上高約411億円、営業利益約51億円の赤字、そして純利益は約73億円の赤字となったのです。そして2018年8月に同社は「継続前提の疑義注記」を発表しました。
継続前提の疑義注記とは倒産リスクが高いということ
企業は通常、ビジネスに問題が無ければ継続的に存在することができます。創業から100年を超える企業があるのはこのためです。しかし何らかの理由で継続が不能になる可能性が高まった時、企業は会計を監査する法人などと協議して「継続できないかもしれない」という警告をしなければならないのです。
簡潔に言うと「倒産危機の状態」だということです。
【大塚家具の業績推移概要】
※単位は「億円」1千万円単位で四捨五入
※▲は赤字
高い自己資本比率と低いPBRで取引されていた
大塚家具はこのような状態になってしまったのですが、2011年頃私は投資先候補の一つとして同社を調べたことがありました。その理由は「高い自己資本比率と低いPBR」という条件がそろっていたからです。
この条件がそろっている株式に投資することで、倒産するリスクを抑えてリターンを得ることができる目安だと考えたからです。
※「高い自己資本比率と低いPBR」に関する記事はこちらをご覧ください。
https://manekatsu.com/blog/investment/20181205_19368.html
2011年当時、同社の株価は600円から700円台を前後していました。一方で同年第2四半期の純資産(一株当たり)は1670円程度でした。ザックリ計算しても純資産の半値以下の株価です。
また、同時期の自己資本比率は78.4%でした。これも十分な数値だと言えます。そこで私は同社の業績や資産の内容を調べてみたのです。すると、投資を躊躇する内容だったのです。
企業の資産は様々な種類に分けられる
ここで企業における「資産」について解説します。資産とはその企業が所有するもの全てを指します。そして資産の内容によって大きく2つに分けられます。1つは「流動資産」もう1つを「固定資産」と呼びます。
流動資産はビジネス上で比較的すぐに取引されやすい資産を指します。現金や売掛金、在庫の商品などがこれに当たります。
固定資産は通常はお金に換えない資産を指します。会社の運営のために必要な設備や土地、長期保有目的の株式などが当てはまります。」
商品の比率が高い資産内容
そして大塚家具の資産の内容はどのようなものだったのでしょうか。当時同社は約413億円の資産を計上していました。そしてそのうち商品に約132億円を計上してました。総資産のうち30%以上が商品で占めています。この比率の高さに私は疑問を感じたのです。
商品の価値は本当に正しいのか
同社は高級家具を専門にしたビジネスを展開しています。したがって商品の価格が高くなるのは当然だと言えます。しかし同社が希望する金額で商品が売れなければ、価格を下げなければなりません。同社の家具が売れなければ計上した資産額が合わなくなるかもしれません。
また価格を下げて利益が減り、赤字になるようであれば投資するには危険です。私はその決め手を探るためにあることを行うことにしました。
消費者としてお店を訪ねてみる
実は当時、我が家では家具の買い替えが話題になっていました。家族の希望もあったので、様々な家具屋さんを見てから買うことになりました。そして私にとってこの機会は家具業界を評価する良い機会になると考えました。家具販売店は低価格を前面に出すスタイルから、同社のような高級家具店まであります。
高級家具店の家具は非常に質が良く、いつまでも使える感触がありました。店員の接客も懇切丁寧でした。しかし金額は高めです。家具にお金をかけられる人でないと手が出ないと感じました。
次にディスカウント系の店舗に行きました。高級家具店と比べて価格の安さに驚きました。ところが品質も価格相応の印象だったのです。
そして最後に「ニトリ」に行ったのですが、品質と価格のバランスが程よく取れていました。そして検討の結果ニトリで家具を買うことにしたのです。
ニトリ水準まで値下げをすることはできない
私は改めて大塚家具の投資について検討しました。同社は当時から会員制の高級家具販売からより気軽に入店できる店に作り替えるという方針を策定していました。
しかしそれで来店する人が増えても価格が高いと買うことができません。また2009年に久美子氏が社長に就任したあとも来店数は増え黒字化したものの売上は回復していませんでした。これでは大幅な利益の回復は難しいと私は考え、同社への投資を見送ることにしたのです。その後の結果は先述した通りです。
赤字+衰退産業への投資は控える
この件では、株式投資における注意すべきポイントがあります。先日の記事にて「高い自己資本比率と低いPBR」の銘柄を検討するうえで、「赤字の企業」と「衰退するビジネス」への投資は控えることを解説しました。
今回の大塚家具でもこの2点を確認することができます。まず不況の影響とはいえ赤字を出していること。そして黒字化しても売上が回復していないためビジネス自体の衰退が疑われたことです。
※「高い自己資本比率と低いPBR」に関する記事はこちらをご覧ください。
https://manekatsu.com/blog/investment/20181205_19368.html
自分の脚でビジネスを観察しよう
また個人が株式投資をする上でお勧めするポイントがあります。それは「投資先の店舗や商品を見学・体験してみる」ことです。同社の場合製品を直接見学し、購入することができます。
さらにライバル企業についても同じことができます。こうすることで今消費者の需要に応えている企業はどこなのか?を実感することができます。
今後の大塚家具について
このような結果になった同社ですが、私は生き残るチャンスはあったと考えています。同社は経営改革の手順を「新規顧客の獲得」に偏り過ぎたと言えます。その結果、新規顧客は思うように集まらない上に、既存顧客からは見放されてしまったのです。このような失敗は過去の企業にも数多くありました。
本来最初に取るべき手順は「既存の顧客を確保すること」と「逃げた顧客を呼び戻す」ことだったのです。
実際、勝久氏が独立して起業した家具店は旧来の顧客が徐々に集まってきているようです。高級家具は「良い家具を長く使いたい」という人達に一定の需要があります。そういった顧客の声をくみ取ったビジネスを行うことを同社に期待します。
※投資はあくまでも自己責任となります。利益を保証するものではありませんので、ご注意ください。
まとめ
今回は大塚家具の事例を通して、赤字や衰退産業への投資には注意することを解説してきました。株式投資は「大きく儲ける」ことが注目されます。
しかし株式投資で良い結果を出すにはこのような「大きな損失を防ぐ」方法をマスターすることが大切です。この記事をきっかけに皆様が株式投資でできる結果を出されることを願っています。

記事筆者
湯川 国俊 Kunitoshi Yukawa
保有資格
MBA(名古屋商科大学ビジネススクール)、ビジネス検定2級
企業価値に基づいた株式投資を10年以上実践。2008年からビジネススクールに通いMBAを取得する。
「スーパーで食料品を買うように株式を買う」というバリュー投資の考え方を多くの方に知ってもらう活動を行っている。

記事筆者
湯川 国俊 Kunitoshi Yukawa
保有資格
MBA(名古屋商科大学ビジネススクール)、ビジネス検定2級
企業価値に基づいた株式投資を10年以上実践。2008年からビジネススクールに通いMBAを取得する。
「スーパーで食料品を買うように株式を買う」というバリュー投資の考え方を多くの方に知ってもらう活動を行っている。