会社を退職した際に、雇用保険に加入していた方は、基本手当(一般には「失業手当」と言われていますが、こちらが正式な名前です。)が支給されます。当然ですが、加入していた期間などによって、もらうことができる金額が異なります。

60歳以降になり、定年退職を迎えることになった場合でも、この「基本手当」は支給されますが、同時に、老齢年金の受給を受けることができる方も出てきます。

今回は、定年を迎えた方が、基本手当と老齢年金のいずれも受給するための要件を満たした場合において、老齢年金と雇用保険の基本手当はどのような調整をされるかを説明します。

基本手当の仕組み

雇用保険の基本手当は、雇用保険に加入している方が、会社を退職(自己都合退職なのか、会社都合退職なのかは問いません)をした場合に、基本手当を受給することができます。

そのため、定年を迎えた方についても、定年を理由に会社を退職したことになるため、基本手当の受給要件を満たしています。なお、定年を理由とする退職は一般退職扱いとなります。

用語の意義

・一般都合退職
自己都合による退職や定年退職など、自分の意志で、または、会社の規定により事前に決められていた理由による退職をいいます。ほとんどの人は、こちらに該当します。自己都合退職の場合は、待期期間満了の翌日から、給付制限期間の3ヶ月が経過しなければ、基本手当を受給することが出来ません。

・会社都合退職
会社の倒産、解雇(自分が直接の原因となる重大な過失が原因である場合を除く)など、会社が予期しないような状況になった場合などによって、次の職場への就職に向けた準備ができないような状態での退職となった場合を言います。

会社都合退職として、職業安定所が処理をした場合は、原則として待期期間を経過した時点から、基本手当を受給することができ、また受給期間についても優遇されることがあります。

・待期期間
基本手当の受給の申し込みを行った後に設けられている期間で7日間とされています。なお、この待機期間中は、基本手当等の支給は一切行われません。

・給付制限期間
基本手当を支給するまでの調整期間として設けられているもので、雇用保険法上は「1ヵ月から3ヵ月の間」とされていますが、現在では、全国の職業安定所が共通して「3ヵ月」としています。

基本手当

・基本手当の受給要件

基本手当は、会社を退職した日から2年前までの期間において、雇用保険に12か月以上加入している必要があります。

期間の計算については、継続して12か月なければならないわけではなく、通算して、12か月以上あればよいということです。

ただし、倒産・解雇により離職した場合、期間のある労働契約の更新がない場合、やむを得ない理由での離職は、退職した日から1年前までに通算して、6ヶ月以上あればよいとしています。

・基本手当の金額

基本手当の金額は、会社を辞めた日の属する月から6か月前までの期間の平均賃金から、1日当たりの金額の基準を算定します。これを「賃金日額」といい、この賃金日額の金額や受給する人の年齢などによって、一定の調整率を乗じて算定します。

具体的には、59歳までの者が「80%~50%の範囲内」であるのに対して、60歳から65歳までの者については「80%~45%の範囲内」で計算されます。

・他の給付との調整

基本手当は、他の給付(老齢年金などの給付)とは併給することはできません。そのため、基本手当をもらっている間は、他の給付は支給停止となります。

老齢年金との調整の仕組み

雇用保険の基本手当は、他の給付と同時に支給することが出来ません。そのため、老齢年金を受給することが出来るようになった方については、基本的にはいずれかを選択して受給することになります。

基本手当を選択した場合

基本手当を選択した場合は、老齢年金の支給は支給が停止されますので、基本手当だけをもらうことになります。

【メリット】
・老齢年金と比べると、毎月もらうことが出来る金額が多いケースがある

・毎月、要件を満たすことでもらうことが出来る。

【デメリット】
・定年退職等の自己都合退職の場合は、もらい始めるまでに早くても3ヶ月は待たなければならない。

・毎月、もらうために職安に行き求職活動を行わなければならない。

老齢年金を選択した場合

老齢年金を選択した場合は、老齢年金の裁定請求(年金を受け取り始めるための手続きのことです。)を行い、そのまま年金の受給がスタートするため、基本手当の受給は一切できなくなります。

【メリット】
・受給のための手続きをしたら、遅くとも2か月以内には受給が開始される

・他の給付制度との併給ができる(例:老齢基礎年金+老齢厚生年金など)

【デメリット】
・毎月の年金額が基本手当の月額に比べると少ないことがある。

・基本手当の場合とは異なり、2月ごとに1度支給される

具体的なシュミレーション

60歳で定年を迎えて会社を退職した女性の場合

・退職日の属する月以前6か月の平均賃金額:30万円

・老齢厚生年金の年金額:24万円

・退職した会社の勤続年数:25年

・会社の退職理由:定年退職

ケース1:雇用保険の基本手当を受給することを選択した場合

・賃金日額の金額

(退職日の属する月以前6か月の平均賃金額)30万円÷30=1万円

・基本手当の日額

1万円 × 45% = 4,500円

・基本手当の総額

4,500円 × 150日分 = 675,000円

(基本手当の支給日数は、雇用保険に加入していた期間、年齢、離職理由によって変わります)

【注意点】
・基本手当を受給することを選択した場合、老齢厚生年金は支給停止されます。

・退職理由が「定年退職」であるため、自己都合退職による扱いとなるため、基本手当の受給を受けるまでに、最低でも3ヶ月はかかります。

・基本手当の日額の計算で行われる乗率は、賃金日額の金額に応じて「45%~80%(60歳から64歳までの者の場合)」の範囲内で決定されます。

ケース2:老齢厚生年金を受給することを選択した場合

・老齢厚生年金の額:24万円

【注意点】
・老齢厚生年金の受給を選択した場合は、裁定請求を行った月の翌月から支給が開始されます。

・老齢厚生年金の受給を選択した場合は、雇用保険の基本手当は受給することが出来ません。

以上から、すぐにでもお金を手に入れたいと考える人は、ケース2の老齢厚生年金の受給を選択すると思われますが、これは「昭和41年4月1日前」に生まれた女性であれば、選択をすることが出来る(昭和41年4月1日以降に生まれた女性は65歳にならなければ、原則的に老齢厚生年金ももらうことが出来ないため)方法です。

そのため、それでもケース2の方法を選択する場合は「年金の繰上受給」を行う必要があります。そう考えると、ケース1のようにもらうまでに期間があるが、確実にもらうことが出来る方法を選択することも考える人が多いのではないかとも考えられます。

まとめ

定年を迎えたことで、会社を退職する場合は、雇用保険の基本手当を受給する方法を選択するのか?また、老齢年金を受給する選択肢を選択するのか?では、実際にお金が入ってくるまでの期間に大きなずれが生じます。

また、老齢年金は生年月日によっては、選択することが出来る人と出来ない方が出てきます。定年を控えている方は、その点を踏まえ上で、定年退職による雇用保険の基本手当か、老齢年金のいずれを選択するかを考えることが重要です。

特に、老齢年金を選択する場合は、安易に繰上請求をするという選択肢を選ぶことは避けたいところです。(繰上支給を請求してしまうと、一生涯減額された年金を受け取り続けなければならなくなるため。)

このように、定年を迎えた後の収入の確保の方法に、雇用保険を活用するという選択肢があることを知っているだけで、今後のセカンドライフを考えていくうえでも重要な要素となりますので、雇用保険の制度についても調べてみてはいかがでしょうか。

記事筆者 岡崎 隆宏(社会保険労務士・CFP)

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