【FP監修】年金の受給開始を遅らせ増額で受け取ろう!繰り下げ受給について解説

将来の年金受給額に満足していますか? 金融機関で販売している個人年金などに加入して受取額を殖やすこともできますが、毎月の支払額も増えてしまいますので、家計に余裕がない場合にはちょっと難しいですよね。
実は、年金保険料の支払いはそのままで、年金受給額を最大1.42倍まで増やす方法があるのです。今回は、年金受給額を増やす「繰り下げ受給」について詳しく解説します。
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目次
年金制度とは?
年金受給額を増やす繰り下げ受給制度について説明する前に、まずは年金制度そのものについて簡単に見ていきましょう。日本は国民皆年金制度の国で、満20歳以上のすべての国民は公的年金制度に加入しなくてはなりません。また、満20歳未満であっても、給与所得がある場合は年金保険料が給与から天引きされ、自動的に厚生年金に加入します。
年金制度の概要
満20歳以上もしくは給与所得のある方は、かならず公的年金制度に加入します。年金制度に加入することで、病気やケガにより働けなくなっても「障害年金」を受給することができ、また、高齢になったときは「老齢年金」を受給することができるようになります。
公的年金制度に加入している一家の働き手が亡くなったときは、遺族は「遺族年金」を受給することもできます。このように年金制度に加入していることで、生活に必要なお金を受け取れるようになるのです。
年金制度の発足
日本の年金制度の始まりは、軍人への恩給といわれています。その後、退役した軍人以外の公務員、教員、民間企業の労働者なども、それぞれが所属する団体の年金制度を利用できるようになっていきました。
労働者全体が加入する年金制度(現在の厚生年金保険)が作られたのは1942年、国民全員が加入する年金制度(現在の国民年金保険)が作られたのは1961年です。以後、受給条件や受給額に関して何度も改正され、現在に至っています。
年金制度の歩み
参考:厚生労働省年金局「年金制度を巡るこれまでの経緯等について」
「老後2000万円不足」騒動により制度を有効に使おうとする人が増えている
いわゆる「老後2,000万円問題」ですが、国民全体、とりわけ年金以外に老後資金を準備していない人々に大きな衝撃を与えることになりました。
実際に、国民年金や厚生年金といった公的年金だけでは不安だと感じる方も増えており、国民年金基金などの年金受給額を増やせる制度や、iDeCo(イデコ)といった、私的年金制度にも注目が集まっています。しかし、家計が厳しい方にとっては安易に手を出せないという問題点があります。
年金の受給開始期間は選べる
老齢年金は、通常、加入者が満65歳になった月の翌月から受給します。しかし、絶対に65歳から受給しなくてはいけないわけではありません。満60歳~70歳の間で、加入者自身が年金受給開始時期を選択することができるのです。
年金の受給開始期間は繰り上げ・繰り下げができる
年金の受給開始時期は、加入者自身で繰り上げ・繰り下げすることが可能です。ただし、一度、繰り上げ・繰り下げを実行すると、途中で受取時期を変更することはできません。
繰り上げ受給とは?
年金受給開始を満65歳未満に早めることを「繰り上げ受給」と呼びます。1カ月単位で繰り上げることができ、最大5年間、つまり満60歳0ヶ月から受け取ることも可能です。少しでも早く年金を受給したい方には、繰り上げ受給がおすすめです。
繰り下げ受給とは?
また、年金受給開始時期を満65歳1ヶ月以降に繰り下げることもできます。1カ月単位で繰り下げることができ、最大5年間の繰り下げ、つまり満70歳0ヶ月からでも受け取ることができます。「年金受給額を増やしたい」けれども、私的年金制度などに加入して、「毎月の支出が増えるのは困る」という方には、年金の繰り下げ受給制度がおすすめです。
繰り上げは1カ月あたり0.5%減額
年金受給開始を1カ月繰り上げると、年金の受給額(年額)は0.5%減額されます。たとえば年間200万円の年金を受給する予定の方なら、1カ月受給時期を早めることで、受給額が年間199万円になります。
最大5年間(60カ月)繰り上げられるため、年金受給額は最大で30%減額します。年間200万円の年金を受給する予定の方なら、満60歳から受け取ると年金の年額は140万円まで引き下げられてしまいます。
繰り下げは1カ月あたり0.7%、70歳まで繰り下げれば42%増額
一方、年金受給開始を1カ月繰り下げると、年金の受給額(年額)は0.7%増額されます。たとえば年間200万円の年金を受給する予定の方なら、1カ月受給時期を遅らせることで、受給額が年間2,014,000円に増えます。
最大5年間(60カ月)繰り下げられるため、年金受給額は最大42%増えます。年間200万円の年金を受給する予定の方なら、満70歳から受け取ると、年額284万円もの年金を受給できることになります。
繰り上げと繰り下げどちらを選択すべき?
繰り上げ受給にも繰り下げ受給にも、一長一短があります。早期から年金を受給する繰り上げ受給を選択すると、年金を受給できる期間が長くなるというメリットがありますが、1年あたりの受給額が下がるというデメリットもあります。
反対に年金受給開始時期を遅らせる繰り下げ受給を選択すると、年金の年額を増やせるというメリットはあるものの、年金を受給できる期間が短くなるというデメリットがあります。どちらを選ぶほうが良いのでしょうか。
年金は長生きすればするほどお得な制度
日本の公的年金制度は、終身受取タイプです。つまり、長生きをすればするほど受給期間が長引き、受給総額も増加するのです。なお、受給開始時期を繰り上げて満60歳0カ月から受け取り始めた場合の損益分岐点は何歳になるのかというと、おおよそ76歳となります。つまり、それ以上長生きする可能性が高いと思うのなら、受給開始時期を変更せずにいるほうがお得ということになります。
また、受給開始時期を繰り下げて70歳0カ月から受給すると、おおよそ82歳で通常受給と同程度の年金を受け取るようになります。そのため、それよりも長生きする可能性が高いと思うのなら、受給年齢を繰り下げるのも良いかもしれません。
まずは繰り下げる間の収入を確保すること
長生きリスクに備えるならば、年金受給開始時期を繰り下げることがおすすめです。しかし、年金受給開始時期を遅らせるためには、退職してから年金受給が始まるまでの期間中の収入を確保しておかなくてはなりません。退職後の再就職や個人年金も視野に入れ、公的年金を受給できない期間も無理なく生活できるようにプランニングしておきましょう。
健康に自信があるかどうかも大切
年金を繰り下げ受給することで年金受給額を増やしても、長生きできなければ元は取れません。何十年も支払ってきた年金保険料が無駄にならないためにも、健康に留意して長生きする必要があります。「年金をいつから受け取ろうか?」と考える前に、まずは健康寿命の延伸に取り組むようにしましょう。
参照:厚生労働HP
繰り下げ受給の注意点
年間の年金受給額を最大42%も増やせる繰り下げ受給ですが、かならずしもメリットばかりの制度ではありません。繰り下げ受給の手続きをするまでに知っておきたい注意点を4つ紹介します。
社会保険料や税金がアップすることも
年金額が増えるということは、所得が増えるということにもつながるので、国民健康保険料や介護保険料、所得税や住民税がアップすることも考えられます。70歳から受給すると42%年金額が増えると言っても、実質的な増額率はそれよりも下がるということも押さえておきましょう。
加給年金がもらえないということも
厚生年金に20年以上加入している方が満65歳になると、その時、65歳未満の生計を維持する配偶者や18歳までの子がいる場合は「加給年金」を受給することができます。加給年金は「年金制度の扶養制度」とも言われており、受給者の生年月日によって異なりますが、特別加算額も含めて、約26~39万円が厚生年金と合わせて受け取れます。
配偶者が年上で、既に老齢年金を受給しているのなら、加給年金を受け取ることはできないので問題ありませんが、年下の場合は注意が必要です。繰り下げをしたことにより、自分の受給前に配偶者が65歳になってしまっては、加給年金がもらえないということになってしまいます。
繰り下げによる増額分と、加給年金額を比べて見ることが大切です。
振替加算の金額は増額されない
加給年金を受給中に配偶者が65歳になると、自身の老齢基礎年金が受給できるようになり、加給年金は打ち切りになります。しかし、当分の間はそれに代わるものとして、配偶者の老齢基礎年金の方に「振替加算」がつくことになっています。その額は、加給年金の対象になっていた配偶者の生年月日によって異なり、例えば、昭和36年4月2日~41年4月1日生まれの方は、年間1万5千円程度です(令和2年3月現在)。
この振替加算は、繰り上げをしても減額されずに支給されますが、繰り下げをしても加算額が増額されることはありません。
在職老齢年金で支給停止になった年金部分は増額されない
60歳以降、厚生年金被保険者として働きながら受け取る老齢厚生年金を、在職老齢年金と言います。年金額と賃金額の合計が一定額を超えると、年金の一部もしくは全額停止されることがあります。この仕組みによって、年金額が減額された部分は、繰り下げても増額の対象となりません。
みんなは繰り上げ・繰り下げどちらを選んでる?
繰り上げ受給も繰り下げ受給もどちらもメリットがあり、どう選べばよいか迷う方も多いでしょう。実際のところ、年金を繰り上げる方と繰り下げる方はどちらが多いのでしょうか。
増額される繰り下げより繰り上げを選ぶ人が多い
平成29年度の年金制度基礎調査によりますと、86%以上の方が繰り上げ受給・繰り下げ受給の制度を利用していません。次に繰り上げ・繰り下げを利用している方だけに注目してみると、繰り上げ受給を利用している方が、繰り下げ受給を利用している方よりも多いことが分かります。
参考:政府統計の総合窓口「年金制度基礎調査 / 年金制度基礎調査(老齢年金受給者実態調査)平成29年」
若い世代の4割は増額の年金繰り下げを選ぶ傾向に
現在の年金受給者にとっては、繰り下げ受給よりも繰り上げ受給のほうが魅力的であるようです。しかし、東洋経済が実施したアンケートでは、年金の繰り上げ受給・繰り下げ受給の制度について熟知している30代の人の実に4割が、将来は繰り下げ受給を選びたいと考えているという結果が出ています。
参考:東洋経済オンライン「若い世代の4割は「年金繰り下げ増額」を選ぶ」
制度をよく知り自分のライフスタイルに合った選択を
繰り下げ受給を利用するためには、年金受給開始時期までの収入を確保しておく必要があります。収入が確保できないときは、年間の年金受給額が下がる繰り上げ受給を選ぶことにもなります。まずは年金の繰り上げ・繰り下げ制度について熟知し、ライフスタイルに合った受給時期を選ぶようにしましょう。
2020年の年金ルールの改正
2020年、年金制度が大きく変わります。改正のポイントを押さえておきましょう。
2020年年金制度改正のポイント
・厚生年金の適用拡大
・在職定時改正の導入
・60~64歳の年金支給停止基準額の引き上げ
・年金繰り下げ受給の上限年齢を75歳に引き上げ
厚生年金の適用拡大
短時間労働者が厚生年金の適用になる、対象企業の規模が拡大されます。現行501人以上が2022年10月に101人以上に。さらに、2024年10月には、51人以上となります。また、「雇用期間が1年以上見込まれること」と示されている要件が、「2カ月超」と、期間要件も短縮されます。
「在職定時改正」の導入
厚生年金は、払った保険料を元に年金額が計算され、65歳から受け取れます。65歳を過ぎても働いて保険料を納め、なおかつ年金を受け取る人については、これまでは資格喪失時(退職時・70歳到達時)に年金額を改定していました。これを2022年4月より、年に1回、10月分から改定し、資格喪失時を待たずとも年金額に反映されるようになります。年金受給額が増えていることを実感しながら、働くことができるようになりそうです。
60~64歳の年金支給停止基準額の引き上げ
60~64歳の「特別支給の老齢厚生年金」の支給対象の方が、厚生年金被保険者として働き、年金と賃金の両方を受け取る場合、その合計額が28万円を超えると年金が一部支給停止となっていました。その支給停止の基準額を、2022年4月より、47万円へ引き上げることとなりました(※2020年度額)。年金の支給停止を避けるため働き方を抑えていた方は、より長時間働くことを選択することができ、老後の不安軽減につながります。
年金繰り下げ受給の上限年齢を75歳に引き上げ
現行の制度では、70歳まで年金受給開始時期を繰り下げることができ、最大で年間の年金受給額を42%増やせます。しかし、改正後は受給開始時期を75歳まで繰り下げられるようになり、年間の年金受給額も最大で84%増やせるようになります。
まとめ
将来の年金額が不安な方は、繰り下げ受給制度の活用を検討してみましょう。ただし、繰り下げ受給する場合は、年金受給開始時期までの収入の確保を避けては通れません。老後生活について、一度、じっくりとプランを立ててみてはいかがでしょうか。
監修:横井 規子(ファイナンシャルプランナー)
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