【投資コラム】損しないための株式投資~投資指標を活用してリスクを減らそう!

はじめまして、湯川国俊と申します。私は理学療法士という本業を持ちながらMBAを取得し、「企業価値に基づいた株式投資」を実践と研究をしています。
これまでの株式投資家としての経験を活かして、健全な株式投資についてお話させていただきたいと思います。よろしくお願いします。
社会人になってお金について不安になることがあると思います。そこで株式投資をしてお金を増やそうと思いますよね。でも「株式投資は難しい」「損をするのが怖い」と考えてなかなか手が出せない方も多いかと思います。
ところが、いくつかの基本的な指標を基準に株式投資をすることで損失を減らすことができるかもしれません。そこで、この記事では損失リスクを減らすために必要な指標とその使い方について解説します。
目次
株価は上下するものだと受け入れる
株式投資の難しさの1つに「株価の変動」と言うものがあります。ニュースやインターネットでは日々刻々と株価が変わっていくのを見ることができますよね。
株式市場には様々な立場の方が、様々な理由で売買しています。そのため、思いもよらぬ株価の変動を避けることは難しく、株式投資をするには、「株価は上下するものだ」という前提を受け入れることが必要不可欠なのです。
株式投資で避けたいリスクは「倒産」と「大幅な株価下落」
かと言って、簡単に株式投資はできません。多くの方にとって株式投資をするうえで「絶対に避けたいリスク」があります。それはこの2つではないでしょうか。
投資先の倒産
株式投資の最大のリスクは投資した企業が倒産してしまうことです。多くの場合、投資家に返還できる資金がなくなります。したがって株式に何の価値もなくなってしまうのです。
株価の大幅な下落
様々な理由で株価が大幅に下落することがあります。一般的によくある原因は「大幅な業績の悪化」が明らかになった時です。順風満帆だった企業が赤字になるだけで株価が一気に下がることがあります。また大不況が起こると、多くの株式は株価を下げてしまいます。
株価は変動するものだとしてもこの2つだけはできるだけ避けたいものです。そこで次の章では、この2つのリスクをできるだけ減らすために使える基本的な指標とその目安について解説します。
「自己資本比率」「株価純資産倍率(PBR)」の2つを覚えよう
株式投資をする時、株価だけを見て買うのではなく様々な指標を見ながら株式を適正に評価して投資をすることで損失リスクを減らすことができます。もちろん株式を評価する指標も一般的なものから専門的なものまで多岐に渡ります。しかし、初心者であっても必ず押さえておきたい指標があります。
それは「自己資本比率」と「株価純資産倍率」です。
この2つは先ほど紹介した「絶対避けたいリスク」を軽減するための基本で、有効な指標だと言われています。専門家であってもこれらの指標を最初のステップで使います。
次に、この2つの指標について詳しく解説します。
自己資本比率とは「返さなくても良いお金」の比率
まず自己資本比率です。自己資本比率は「株主資本比率」という言い方もします。自己資本比率とは企業の資産に対する自己資本の割合のことを指します。
企業はビジネスを行うために様々な設備や人材を用意します。当然ですがそのためにはお金が必要です。そして企業はお金をどこかから用意しなければいけません。
その方法として例えば以下のようなものがあります。
● 社長が自ら貯めたお金を捻出
● 銀行からお金を借りる
● 投資家に出資を募る
● すでに得た利益を使う
これらお金を用意する手段「資金調達」のうち、2.以外のお金は「自己資本」と呼ぶことができます。これら3つの方法であれば、万が一ビジネスに失敗してもお金を返す義務はありません。
しかし銀行などから借りたお金は何があっても返さなければなりません。
自己資本比率とは、企業がビジネスをするために集めたお金のうち「返済する義務のないお金の比率」のことを指すのです。
自己資本比率が高いほど倒産リスクは低くなる
このように自己資本比率は、ざっくり言えば「借金が少ない」ことを見分ける指標になります。企業の倒産で最も多いパターンは借金の返済ができなくなった時です。自己資本比率が高い企業であれば、借金の返済で倒産する確率が大幅に下がることになります。したがって、株式投資をする時は投資先企業の自己資本比率をチェックすることをお勧めします。
自己資本比率の目安は40%以上
ところで、自己資本比率はどれくらいあれば安心といえるのでしょうか。一般的には40%以上あれば優秀だと言われています。しかし「40%だとまだ半分以下」と思われたかもしれません。
もし初心者でかつ、倒産リスクをさらに低くしたいのであれば「60%以上」を目安にされることをお勧めします。これぐらいあれば自己資本にかなり余裕があると思います。
しかし「自己資本比率100%だったら安心」と思う方もいらっしゃるかもしれません。しかし会計上取引先への未払い金(買掛金)や従業員への未払いの給料や退職金も自己資本比率を下げる要素になります。
したがって「自己資本100%」という状態はほぼ考えられないのです。
ライバル企業とも比較しよう
さらにお勧めなのが、「同業他社との比較」です。自己資本比率にも業界ごとの水準があります。一般的には先ほどの40%という水準に対して、製造業は高め、金融業は低めになるとされています。
そこで、同業他社の自己資本比率と比較することで投資先企業の自己資本の余裕度がさらに分かりやすくなります。
株価に左右されない指標です
また、自己資本比率を使うことをお勧めするもう一つの理由は株価に影響されないということです。株価に影響されないので、株式市場がどのような状況であってもより客観的な評価ができるのです。
株価純資産倍率とは「自己資本と株価との差額」
次に株価純資産倍率です。株価純資産倍率は多くの投資家からPBR(Price Book-value Ratio)と呼ばれています。
※以下PBRと略します。
PBRは企業の純資産と株価との間にどれくらいの違いがあるかを表すことができます。計算するときは株価に対して純資産を一株あたりに直して割ることで数値が出ます。ここでいう純資産とは先ほども出てきた「自己資本」に置き換えても問題ありません。
純資産(自己資本)とは株主の取り分
ここで純資産について詳しく解説します。
自己資本比率でも解説しましたが、企業はビジネスを行う上で、様々な設備や人材を用意します。そしてそのための資金を様々な方法で調達します。そこで仮に今、その企業が解散して集めたお金を全て返すことになったとします。
● まず取引先に未払いの代金を支払います。
● 次に従業員に未払いの賃金を支払います。
● 未払いの税金もあれば払わないといけません。
● それから借金があればそれも返済します。
それらを全て完済した後に残った総額が純資産(自己資本)だといえます。そしてこの純資産は株主に配分されると考えられるのです。
株主の取り分よりも株価が安い時がある
このように株主の取り分である純資産に対して、株価との比較をするのがPBRです。純資産と株価が同額であれば1になり、「1倍」と表します。純資産より株価が2倍の金額であれば「2倍」になります。そして純資産より株価が半額であれば「0.5倍」となるのです。
一般的に高い利益を出している企業ほどPBRは大きくなります。一方で、利益をあまり出せていない企業は1倍を下回ることがあります。
PBRには下限があることが多い
個人的にはPBRが低い企業の株式への投資をお勧めします。なぜならば、株価の下落リスクを抑える効果があるからです。
先ほど利益が少ない企業はPBRが低くなりやすいといいました。確かにその通りなのですが、企業が所有する資産を下回る株価だとそれを理由に株式を買う投資家が出てくる傾向にあります。
普通の買い物でも「これを買ったらお買い得」と分かったら、誰もがその商品を購入するでしょう。それと同じことが低いPBRの株式には起こりやすいのです。
「低い」PBRの目安は1倍以下
では、株価下落リスクを減らすためにはどの程度のPBRが良いのでしょうか。
一般的には1倍以下、つまり純資産より株価の方が安い状態であることが目安になります。
しかしPBRも業界ごとの水準が見られますので、ライバル会社との比較をされることをお勧めします。
「低い」PBRの注意点は「赤字」と「衰退産業」
ただし、「低い」PBRの株式への投資には注意点があります。
まず赤字の企業です。赤字の企業はそれだけで純資産を減らしています。したがって今後も赤字が続くようではPBRの水準も下がってしまいます。業績が復活する可能性もありますが、その分析は初心者には難しいでしょう。
次に衰退産業です。こちらも今は黒字でも近いうちに赤字化する可能性があります。PBRが低いのは投資家たちがそれをすでに見越しているだけかもしれません。衰退産業の中にも生き残る企業はありますが、その分析も初心者にはハードルが高いと言えます。
この2点に当てはまる企業の株式への投資は避けるべきでしょう。
ポイントは「高い自己資本比率」と「低いPBR」
ここまで読まれた方であればお気づきの方もいると思います。この記事のテーマである「損しないための株式投資」は、これら2つの指標を組み合わせて行います。
● まず、自己資本比率が十分な高さにある企業を見つけてみましょう。
● 次に、その中で比較的PBRの低い株式を選びます。
● さらに近年に赤字が無く、明らかな衰退産業でなければ合格です。
上記のような株式から分散して投資することをお勧めします。
「低いPBR」の優位性は研究でも立証ずみ
株式市場で低いPBRに投資先を集中することで高いリターンが得られることは研究でも明らかになっています。
1978年度決算から2003年度決算の25年間において,東証一部上場銘柄を単純に PBR の低い順に株式を低い順に並べ替えた場合,低いPBRの銘柄を選択したポートフォリオのほうがより高い収益率を享受できていたという結果となった。 |
引用:山本信一/中路翔/著 2012年 日本におけるバリュー株投資の可能性 ― EU 危機・国際会計基準の下での銘柄選別についての一考察― 立命館経済学 61-1
事例紹介【3768】リスクモンスター株式会社
最後に、「高い自己資本比率」と「低いPBR」を組み合わせた投資で株価が上昇した事例を紹介します。
これは【3768】リスクモンスターという会社の株価チャート図(5年)です。
(チャート図はYahoo!ファイナンスより引用)
リスクモンスターは企業に対して取引先の与信管理情報を提供するサービスを行っています。ご覧の通り、2014年5月時点で高い自己資本比率と低いPBRを併せ持っている状態でした。さらに、近年の赤字は無くむしろ徐々に業績が伸びていました。また、アウトソーシングを行うビジネスなので衰退産業とはいえません。
2014年に投資を始めても2年程度は株価の大きな動きはありませんでした。しかし2017年に入って株価の割安感が見直されました。その結果、4年で2倍を超える株価になっています。
結果的に株価は上昇したのですが、この投資でのポイントは別の所にあります。
それは、
● 高い自己資本比率なので倒産する可能性が低かったこと
● 低いPBRなので大幅な株価の下落も可能性が低かったこと
なのです。これらのポイントはは投資を続ける上での大きな不安を払いのけることができるのです。高い自己資本比率と低いPBRという視点は、株式投資をする方たちの中ではあまり注目されません。しかし、リスクを抑えて健全な投資を行う上では知っておくべき指標なのです。
※投資はあくまでも自己責任となります。利益を保証するものではありませんので、ご注意ください。
まとめ
株式投資を始められない理由として「難しいから」「怖いから」と言うものが多いようです。しかし、株式投資は倒産と大幅な株価の下落を避けることができればほとんどの人に十分な結果が得られると言われています。そしてそれらのリスクを減らすための手段は、それほど難しいものではないのです。
株式投資は企業価値を評価するスキルを身につけて、効率よく資産を形成するチャンスになります。皆さんもこれを機会に株式投資にチャレンジされることを願っています。
記事執筆:湯川 国俊