「結果にコミットする」というキャッチフレーズで芸能人の体型をスリムにするCMで有名なライザップ。そのインパクトの強さで業績も快進撃と思われていました。ところが、2018年11月に発表された決算では赤字に転落したのです。株価の方も2017年12月には2,900円以上を付ける日がありましたが、2017年11月末には292円になってしまいました。なぜこのようなことになってしまったのでしょうか。

その理由としてライザップが様々な企業を買収し過ぎたことが指摘されています。結果はその通りですが、企業を買収すること自体は違法ではなく多くの企業が行っています。ところがライザップは買収のやり方に問題があったのです。

この記事では、ライザップのこれまでの経緯と買収の問題点を解説します。そして業績好調な成長株に株式投資をする時の注意点を解説します。

ライザップとはこのような会社です

ライザップの正式名称は「RIZAPグループ株式会社」と言います。本社は東京都新宿区にあります。代表取締役社長の瀬戸健氏をはじめ取締役が12名、従業員数7063名(2018年3月31日時点)の会社です。同社は傘下に子会社を持つ「持株会社」という形をとっています。CMで有名なパーソナルトレーニングジム「RIZAP」は子会社の1つです。

同社の設立は2003年にさかのぼります。当時は健康食品を通信販売する「健康コーポレーション」という社名でした。2006年に札幌証券取引所アンビシャスに株式を上場させました。それからは積極的に企業の買収を行いながら2010年にRIZAPの元となるパーソナルトレーニングジムを運営する会社を設立しました。その後も積極的な企業買収を続け、2016年に純粋持株会社に移行し、現在の社名となりました。

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突然の赤字転落

【ライザップの業績推移概況】

このような事業戦略が功を奏して、業績はどんどん成長し、売上高は毎年1.5倍程度、営業利益では3倍以上の増益になることがありました。

ところが2018年11月の第2四半期の発表では売上高は約1,091億円であったのに対して営業利益は約88億円の赤字となったのです。また、今期の期末予想でも売上高は2,309億円あるにも関わらず、営業利益は33億円の赤字となっています。

赤字の原因は買収の仕方にある

このような結果に対して同社は主に以下の要因を挙げています。

  • グループ参画1年以内の企業を中心とした経営再建の遅れ
  • 今期において計上する構造改革関連費用等を含む非経常的な損失
  • 新規M&Aの原則凍結による影響額

同社はこれまで他の企業を買収することで事業を大きくしてきました。しかし過剰な買収のため各事業の運営が手薄になったと言えます。それでもこれまでの利益を考えるとあまりにも大きい減益と言えるでしょう。売上収益は依然として伸びているにも関わらずです。同社がこのような損失を出した原因はこれまでの買収に対する利益の出し方に問題があったのです。

ライザップは「国際財務報告基準(IFRS)」を使っていた

同社の大幅な減益の裏には採用していた「会計基準」があります。同社は国際財務報告基準(以下IFRS)と呼ばれる会計基準を採用していました。

IFRSとは会計基準が世界各国でバラバラになっている現状に対しての解決策として作られたもので、国際会計基準審議会と呼ばれる組織が策定しました。日本では任意で適用が認められています。そして上場企業でIFRSを適用している会社は180社(2018年11月時点)です。国際的な取引を多く行っている企業で多く採用されています。

ここで、日本で採用されている2つの会計基準の違いについて概要を解説します。

IFRSでは十分な説明があれば企業の裁量で会計を行うことが認められています。またIFRSでは資産総額の変化を重視するので、企業買収を行ったとき買収した企業分の資産が変化したと解釈し、損益として計上します。

同社は2016年8月の決算報告(決算短信)からIFRSを使用し始めました。当時の発表によると「海外事業展開の加速化及び財務報告の基盤強化を図ること」を目的としていました。しかし同社は国際的な取引が多い会社だとは言えません。それでも同社がIFRSを採用した狙いは、IFRSの会計手法が同社の戦略と相性が良かったからなのです。

業績低迷の企業を買い集めると「儲かる」

日本の会計基準とIFRSの会計基準における違いで大きなものとして「企業買収での計算法」があります。近年の同社が計上した大幅な営業利益の増益はこの計算方法の違いによるものだと言われています。

先ほども述べたように同社は積極的な企業買収で業績を伸ばしてきました。そして近年は業績の低迷する上場企業を次々と買収していきました。

【ライザップが買収した上場企業】

業績の低迷する上場企業の多くは株価も低迷しています。そして企業が持つ資産よりも安い株価(低いPBR 前回記事参照)になっていたのです。

このような企業を買収すれば買った値段よりも価値の高い資産を得ることができます。そしてその時の差額を会計報告する時、日本式とIFRSでは違いがあるのです。日本式では年数を分けて「営業外の利益」として徐々に計上しなければなりません。一方でIFRSでは買収した年に「営業内の利益」として計上することができるのです。

同社がこれまでに買収した上場企業は総じて業績が低迷し、連続して赤字になっている企業もありました。当然ながら株価も低迷していたのです。同社はIFRSを採用してこのような企業を安く買い取った時の差額を利益として計上したかったのではないかと言われています。

業績回復が至上命題

このようにして利益を増やすことは合法的なので問題ではありません。ただし買収した後も業績が低迷し続けると問題が起こります。赤字が続く企業の株価が低迷するのは赤字になることで企業の資産が減っていくからです。つまり安く買収できたとしても、赤字が続けば利益として計上した差額がどんどん削り取られていくのです。

コミットできなかった業績回復

同社もその点に関しての認識が無かったわけではなさそうです。買収を行うとすぐに業績回復に向けた改革をして、見事に復活させた企業もありました。しかし買収の数が増えてくると業績回復を達成できない企業が出てきたのです。そしてそれが過剰になり、損失として計上せざるを得なくなったのです。これがライザップ赤字転落の流れです。

この赤字転落を受け、同社は軌道修正をせざるを得なくなりました。先に見積もっていた買収案件を整理し、買収した企業を売却する必要性が出てきたのです。これによって損失がさらに拡大すると見込まれ、今期末の業績予想も赤字になってしまったのです。

※2018年夏の会社四季報から、ライザップ本体と傘下の上場企業が掲載されてるページに付箋を付けてみました。

急成長の会社は利益の中身に注意

この一件で、株式投資をする上での教訓はどのようなものがあるのでしょうか。まず大切なことは「急成長の会社は利益の中身を調べる」ということです。

これは先ほど紹介したライザップの業績の一部です。IFRSを導入した年の前後で営業利益が大幅に変化していることが分かります。この時に「儲かっているから」というだけで投資をすることは禁物です。どのようにして利益を伸ばすことができたのかを十分に調べた上で投資されることをお勧めします。

「利益の質」を見るのは「営業キャッシュフロー」

では、どのようにして利益の内容を調べれば良いのでしょうか。その方法として「営業キャッシュフローを確認する」ことをお勧めします。

営業キャッシュフローとは営業活動を行った上で得た「現金」です。一般的な企業取引では、入金が後になることが多く、場合によっては現金の動きが無いことがあります。しかしそのような取引でも会計上では売上や(その期の)利益として計算することができます。

一方で営業キャッシュフローは現金の動きに着目して計算します。したがって、売上や利益が出ている企業でも営業キャッシュフローが伴っていなければ利益として確定していない場合があると考えても良いのです。

では、ライザップの営業キャッシュフローはどのようになっていたのでしょうか。

これはライザップの直近2期分の業績です。利益に対して営業キャッシュフローが大幅に少ないことが分かります。これは、企業買収では利益額ほど現金が入ってきていないことを表しています。このような状態の企業に投資する場合は、利益に関してより詳細を確認することをお勧めします。

社長の意向が強く反映される株主構成

他にもライザップに投資をする上で注意できたポイントがあります。それは「大株主の構成」です。2018年3月末時点で同社の社長である瀬戸健氏と同氏が経営する資産運用会社が同社の株式の60%以上を保有していました。また近親者と思われる人が大株主として名前を連ねています。

これは同社の重要な決定事項のほとんどは瀬戸氏の意向が反映されることを表します。したがって同社の過剰な企業買収にブレーキをかける力が働きにくかったと言えます。

※投資はあくまでも自己責任となります。利益を保証するものではありませんので、ご注意ください。

まとめ

ライザップ赤字転落の理由について解説してきましたが、いかがでしたでしょうか。急成長を目指すために会計制度を利用した利益の上乗せは、後になって大きな足かせになってしまうことがあります。成長株への投資は魅力的ですが、あまりにも急成長している企業への投資は慎重にされることをお勧めします。

またこのような結果になってしまったライザップなのですが、本業であるパーソナルトレーニングジムの業績は堅調に推移しているとのことです。同社の本業を軸とした健全な経営再建を期待します。

記事 湯川 国俊

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