デリバティブ市場の活性化が見込まれる総合取引所の特徴と課題【投資コラム】

2020年7月に総合取引所がスタートしました。株価指数先物と商品先物が同一口座で取引できるメリットはありますが、今後解決すべき課題もあります。
この記事では、総合取引所の特徴や今後の展望について解説します。
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総合取引所とは
2020年7月27日、日本取引所グループ(JPX) が総合取引所としてのスタートを切りました。東京商品取引所に上場していた貴金属や農産物・ゴムの先物やオプションを大阪取引所へ移すとともに、日本商品清算機構と日本証券クリアリング機構を統合し、総合取引業を本格的に始動させたのです。
総合取引所は今後、縮小が続いている日本の商品先物市場の活性化を目指します。ただ金融派生商品(デリバティブ)で先行している海外取引所に追いつくのは難しく、課題が山積みです。
総合取引所による効果
これまで、商品先物と金融先物取引するためには、別々の口座を開設する必要がありましたが、総合取引所の誕生により、金属先物と株価指数先物が同一口座で取引可能になりました。
そのため商品先物取引をしてこなかった投資家の参加が見込まれ、市場の流動性向上が期待されています。
出典:日本取引所グループ
大阪取引所の山道社長は、商品先物の取引量を「2~3年で2倍に引き上げたい」と語っています。総合取引所の課題は流動性の向上です。2019年の日本の商品先物取引高は約1,900万枚で、2005年に比べて約8割も減少しています。
一方、世界の取引売買高は7.6億枚から72億枚まで10倍に拡大しているのです。
商品先物が縮小した理由
日本の商品先物市場が縮小したきっかけの一つは、強引な勧誘による個人投資家の減少です。また規制強化により、2011年以降は投資を望まない方への勧誘が禁止されました。
個人投資家の投資が減った結果、現物中心の実需家も先物を使いにくくなり取引が減少しました。そして、国内の商品先物会社の数は25社と、15年前の4分の1になってしまったのです。
商品先物市場の活性化に向けてJPXが期待するのが、投資家層が厚い証券会社の参入です。東京商品取引所時代に売買を仲介する証券会社は、楽天証券など5社しかありませんでした。
しかし7月27日から株価指数先物と同じ口座で金先物などが取引できるようになり、野村證券が機関投資家向けに参入しました。他にSBI 証券や松井証券も、個人投資家向けとして前向きに検討しています。
13年越しの悲願
総合取引所の狙いは、「日本市場の国際力強化」です。世界の取引所は商品(コモディティ)と証券のデリバティブをまとめて取り扱うのが主流で、このまま日本のみが商品と証券を区別する状態を続けると、マーケットの地盤沈下が進みかねないという懸念があったのです。
総合取引所の構想は、2007年の第1次安倍内閣が打ち出しました。しかし大阪取引所を所管する金融庁と、東京商品取引所を所管する農林水産省や経済産業省の間で調整に手間取り、実現までに13年もかかりました。
2019年1月にJPXは東京商品取引所を子会社化していますが、総合取引所にすることによって流動性や信用力が向上すれば、海外投資家の参加も見込まれ、日本のデリバティブ市場の活性化が期待できます。
商品先物は世界各国で取引が行われているので、日本と海外市場とのアービトラージ(裁定取引)といった、新しい投資手法も行われる可能性が高まるのです。
ただし、同一口座で取引できるのは大阪取引所に移管した穀物や貴金属に限られます。取引の多い原油などのエネルギー関連は、東京商品取引所に残したままです。
所管も経済産業省と金融庁にわかれ、証券会社の顧客が原油などエネルギー先物を取引する場合は、口座をわける必要があります。
地元証券は見送りがほとんど
大阪は、先物取引が誕生した場所として知られています。 総合取引所の誕生により、大阪取引所は国内デリバティブ取引の約9割を取り扱い、大阪は「デリバティブの街」としての存在感の高まりが期待されているのです。
しかし、大阪取引所に参加する76社のうち、10社程度の参加が見込まれているものの、様子見ムードが 強くなっています。また大阪取引所がある関西圏に本店を構える証券会社でも、盛り上がりに欠けています。
大阪取引所に参加する8社のうち、商品分野に新たに参入を表明したのは光世証券一社のみでした。顧客ニーズとシステム投資の釣り合いが取れないと判断したことや、現物株と先物取引で損益通算ができず、顧客の使い勝手が悪いとの指摘もあります。
参入を決めた光世証券では、営業員全員がデリバティブを扱える「一種外務員資格」を持っており、研修費用がほぼかかりません。
ただ、岩井コスモ証券は早期の参入を目指しています。史上最高値を更新して人気が高まっている金取引を中心にし、「金ミニ先物から取り組む」と意気込んでいるのです。
しかし、顧客の需要が組む取り込みづらい要因の一つとして、現物株と先物の損益通算が出来ない点があります。総合取引所になっても、現物株を中心に取引している顧客のメリットは小さく、投資家層拡大のハードルになっているのです。
デリバティブ市場の活性化なるか
東京証券取引所が大阪取引所(当時は大阪証券取引所)と経営統合し、2013年にJPXが発足しました。そして株価指数先物やオプションなどデリバティブ取引を強化しました。その結果、2012年度と2019年度を比較すると、JPXの純利益は4倍、時価総額は2倍の1兆円になっています。
しかし、シカゴマーカンタイル取引所(CME)などを運営する米CMEグループの時価総額は、同じ期間で4倍の約8兆円です。ドイツ取引所グループも3倍の約3兆円に拡大しました。同じアジアでも、香港取引所の約4兆円には遠く及びません。
この差はデリバティブ市場における取引の少なさです。JPXのデリバティブの取引高は、2019年で世界17位にとどまっており、デリバティブ市場を活性化できなかったツケが、重くのしかかっているのです。
シカゴマーカンタイル取引所グループの取り扱い数は約760で、同じアジアの香港取引所でも70にのぼります。しかし大阪取引所が扱うデリバティブ商品の数は、移管される14品を含めても42に過ぎません。
総合取引所は実現しましたが、現時点で東京商品取引所と大阪取引所を一つに統合する予定はありません。
しかし投資家の利便性や取引の国際競争力を考えると、今後取引を統合した方が良いのは間違いないでしょう。世界との差を埋めるためには、超えるべきハードルがまだまだあるのです。
まとめ
国内の商品先物の売買高は、過去15年で5分の1にまで落ち込み、総合取引所誕生は遅すぎたとの声もあります。また、原油などエネルギー先物はこれまでのように東京商品取引所で取引が行われるので、商品先物の主力である原油が取り扱いないことに対する不満や批判の声もあります。
記事 山下 耕太郎
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