【FP監修】老後破産という場面に直面しないためには

老後破産をご存知でしょうか?その名の通り、老後に事実上の破産状態に陥ることを指します。では、なぜそのようなことになるのか?老後破産しないための対策は?今回はそれらについてひとつひとつ解説していきます。
そもそも老後破産とは
「老後破産」という言葉から、どのようなことをイメージされますか?「破産」という単語を聞いて、多くの人はギャンブルなどで道を踏み外す姿を想像する方も多いはず。ところが、多くの高齢者は決してギャンブルなどで無茶なお金の使い方をしていないにも関わらず、生活を維持していくのも大変なくらいお金に困ってしまうのです。
現在、日本では老後破産している人の数は200万人以上にもなると言われています。この数字は、もはや老後破産が他人事ではなく、誰にでも起こりうる身近な問題であることを示しています。
老後破産につながる不運の連鎖
老後破産になる理由はひとつではありません。たったひとつの不運から始まったことが次々と連鎖を起こし、いくつもの要因が重なって最悪の事態を招きます。不運の連鎖によって老後破産につながっていくのです。それでは、どのような人が老後破産になるのか、いろいろなパターンを見ていきましょう。
- 大切な人が病気になってしまった
たとえば、妻や夫が病気になってしまったらどうしますか?当然、介護しますよね。潤沢な資金があればすぐに入院させたり専門の業者に介護を頼むことができるでしょう。しかし、多くの人はそれだけの貯蓄を残していないため、仕方がなく自分で介護することになります。
相手は赤の他人ではなく愛する人です。最初はがんばって介護に努める。ところがしだいに疲労はたまっていきます。また、介護している最中は働くこともできません。
さらに介護が長引くと介護疲れから介護していた本人が倒れてしまったり、最悪の場合、介護者の方が先に亡くなってしまうという事態にもなります。そうなると病院への入院や、他人に介護者を頼むことになってしまい、多額の出費を招くこととなります。ここから老後破産へとつながっていくのです。
- 人間関係が無くなって崩れてしまった
「世の中、お金じゃない!幸せになるためにはお金で買えないものもが必要だ!」とは言いつつも、やはり幸せになるためにはお金も必要な条件のひとつです。
生活費から交際費を出す余裕がなくなると、友達とお酒を飲みに行ったり、喫茶店でお茶を飲んだり、気軽にカラオケルームに行くことすらできなくなるでしょう。そうなると、それまで仲良くしていた友達との交流もなくなってしまいます。このことによって結果的に孤独になり、精神的にも疲弊してしまい、ますます追い込まれてしまいます。
- 相談する相手がいない
プライドが高く「家族に迷惑をかけられない!」と勝手に判断してしまう方もいるでしょう。もっと早くから息子や娘に相談しておけば、傷が小さいうちに済んでいたのに、手遅れになってしまうケースも多いのもまた事実。
ほんのちょっとしたことや世間では常識的なことも、全部自分ひとりで判断してしまうと失敗しがちです。家族や友人など相談する相手がいないと、詐欺や悪徳商法にも引っかかりやすくなってしまい、そこから泥沼へとはまり込んでいき、老後破産を起こしてしまうのも近年では多いパターンです。
老後破産を他人事にしてはいけない
「そんなこと言われても、老後破産なんて自分には関係ない!」という方も多いのでは?
ところが、意外と身近な人が破産状態に陥っているものです。決して人並み以上に無駄づかいをしているわけでもなく、詐欺や悪徳商法に騙されているわけでもないのに困窮している日本人は多くいます。
生活保護受給者以下の貧しい生活を送っている高齢者の数は、200万人とも300万人とも言われています。老後破産を他人事にしてはいけません。
- 老後破産しやすいケース
老後破産しやすいケースで一番多いのは、若い頃に将来設計を立てておらず、まともに貯蓄をしてこなかった方です。中には年金保険料もまともに払ってこなかったため、老後に年金を受け取れないという方までいます。
また、必ずしも老後の貯蓄や収入が少ない人ばかりが破産するわけではありません。年金などでかなりの収入があるにも関わらず、破綻状態に陥ってしまうが多いのもまた事実。
なぜそういうことになるかというと、年金生活になっても働いている時と同じ収入があるつもりでお金を使ってしまう「退職後の無駄づかい」というパターン。
人は急に金銭感覚を変えたり、生活スタイルを変えることはできません。これまでの仕事のストレスから、会社を辞めた途端にパッとお金を使ってしまう方もいます。「仕事人間だったので遊び方がわからない」「上手いお金の使い方がわからない」そういう方が分不相応にお金を浪費してしまいます。
事故や病気など予想外のハプニングが起こることによって老後の生活プランが崩れてしまうこともあります。何事も起こらず計画通りに進んでいれば老後も安泰でしょうが、常に予想外の出来事が起こるのが人生というもの。そこまで予想して計画を練らなければならないのです。
現役引退後に始めた喫茶店や飲食店などの事業や、田舎暮らしが失敗して破産する方人もいます。「退職したら、喫茶店でも経営しながら悠々自適な生活を送るぞ!」と夢見ている方もいらっしゃるはず。ところが、現実はそう甘くはありません。飲食店等の経営や田舎で畑を耕す人生は素人が思っているよりも遥かに難しいものなのです。
- 年金額が少ない
年金を老後の主な収入源としてプランを立てていたが、事前に思っていたよりもらえる年金額が少ないという方もいます。しかし、65歳からもらえる年金は意外と多くありません。
かといって、例えば70歳からもらえるように切り替える(繰り下げる)と、65歳から70歳の5年間をどう生活するかという問題が残ります。
現役引退後に必要な生活資金は考えているよりも多いもの。「思っていたよりも支出が多く、もらえる金額も少なくて、年金だけでは足りなかった!」という人が老後破産を起こしやすい傾向にあります。
老後破産しないための方法とは
では、老後破産しないためにはどうすれば良いのでしょう?もちろん、働いて毎月まとまった額が入ってきていた頃とは違うため、これまでとは違う金銭感覚を身につけ節約生活を心がけることは大切です。そのことを自覚してしっかりと事前に計画を立てましょう。
節約以外にも方法はあります。このことについて以下解説していきます。
- どれくらい年金がもらえるのか把握する
まずは、どれくらい年金がもらえるのか把握しましょう。「毎月決まった額を国に収めているのだから、老後は安泰だろう」と油断している方もいらっしゃるのではないでしょうか。どんぶり勘定ではなく、仕事を辞めた後にどのくらいの年金がもらえるのかきちんと確認しておきましょう。
また、年金は60歳まで繰り上げて受給(受給を早く)したり、70歳まで繰り下げて受給(受給を遅く)することもできます。
たとえば、65歳から年金をもらうのに比べて、60歳から年金もらうのは毎月の受給額が3割減ってしまいます。
逆に、70歳から年金をもらうとすると毎月の受給額は4割増えます。現役引退後の収入、支出の状況を試算しながら年金の受取方法を検討するとよいでしょう。下記の表は受給者の平均額です。参考にしてください。
|
国民年金 |
国民年金(構成年金の受給権を持っていない) |
厚生年金 |
平成26年 |
54,414 |
49,944 |
144,886 |
平成27年 |
55,157 |
50,826 |
145,305 |
平成28年 |
55,373 |
51,221 |
145,638 |
出典:平成28年度厚生年金保険・国民年金事業の概況|厚生労働省http://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-12500000-Nenkinkyoku/H28.pdf
- 長く働き、お金を確保していく
以前ならば60歳で退職し、残りの人生は悠々自適に生活するという人が多かったはず。それが、現在では以前の職場を退職した後も、別の会社で働いたり、同じ会社で再雇用してもらうことで65歳、70歳と引退する年齢が上がってきています。
これは決して悪いことではありません。長く働き続けることでメリハリのある人生を送ることができます。もらえるお給料は減ってしまうかもしれませんが、全くの無収入よりかは遥かにマシです。年金だけでなく老後も働き続け収入を増やすことによって、毎月の支出よりも収入が上回るようになれば老後破産を防ぐことにもつながります。
- いらない保険は解約する
必要のない保険はありませんか?加入しすぎ等で不要な保険に加入している方もいらっしゃるかもしれません。もう一度加入している保険を見直して、いらない保険は解約等の対応をしましょう。
例えば、「このまま保険料を支払い続けていても、生きているうちに支払額以上のお金を受け取れる見込みのないもの」「離婚や再婚をして家族構成が変わってしまっているにも関わらず払い続けている保険」などです。逆に、途中で解約してしまうと損をしてしまう場合もあります。よく確認して解約するか継続するか等を決めましょう。
- 資産運用を始める
老後資金が足りない場合は、資産運用をするという手もあります。もちろん、老後になってから始める方法もありますが、若い頃から運用開始していた方が準備期間を長く確保できるため有利です。なるべく早いうちから始めておいた方がよいでしょう。
資産運用には株式や為替だけではなく、国債や投資信託、不動産の購入など様々な方法があります。自分の能力や時間的なゆとり、投じることのできる資金に応じて運用先を決めましょう。
- 働いているうちにローンを完済する
ローンとは、いわば借金の一種。毎月利子を支払っています。わずかな利率に思えても支払い総額を見るとそうではありません。計算してみればわかりますが、何十年もの長期間に相当な額になっています。
理想としては一括でローン完済を行うのが一番ですが、現実的には収入にも限界がありなかなかそうはいかないもの。それならば、せめて早めのローン完済を目指しましょう。
働いているうちにローンを完済しておけば、老後の心配がひとつなくなるので、老後破産を起こす確率も格段に減ります。逆に現役引退後もローンが残っている方は、引退後の生活に大きな重しとなるでしょう。
監修者:大間武(ファイナンシャルプランナー、CFP(R))