【税理士監修】退職金にも税金がかかる!退職所得控除で節税しよう

退職金制度のある会社を退職する時にもらえるお金、それが退職金です。今まで勤め上げてきたご褒美とも思える退職金ですが、あいにく手放しで受け取れるわけでなく、この退職金にもきっちり税金がかかってきます。今回は退職金にかかる所得税と税金対策になる退職金控除についてご紹介します。
目次
退職所得控除とは?
会社に勤め上げて退職したときに受け取れる退職金。この退職金ついても税金はかかってきます。せっかく感無量なとき退職金から税金をいただきますといわれるとなんだか複雑な気持ちになってしまいますね。退職金は税法上10種類ある所得の「退職所得」に当てはまります。退職手当など退職により受け取る給与やこれらの性質を持っている給与は全て退職所得に含まれています。
ただし、退職所得を一時所得ではなく、年金のように分割して受け取る場合は、税制上年金と同じく「雑所得」として扱われるので注意が必要です。また、退職所得は原則として他の所得とは切り離して単独で計算して課税する分離課税の対象になっています。この分離課税がかかる退職所得を控除するものとして、退職所得控除というものがあり、退職所得控除は給与所得控除などとは違い、勤続年数によって控除される金額が決められています。
退職金にかかる所得税について
それではさっそく、退職金にかかる所得税と退職所得控除についての計算式をご説明します。その前にどんなものが退職所得になるのか、補足しておきます。
どんなものが退職所得になるの?
退職所得になるのは、退職手当や一時恩給、また、退職に伴って受け取る給与など、退職することによって受け取ることになった給与のことを言います。
また、以下の一時金なども退職手当としてみなされます。
①国民年金法、厚生年金保険法、国家公務員共済組合法、地方公務員等共済組合法などの規定によって支払われる一時金
②船員保険法の規定に関する一時金
③地方公務員等共済組合法の一部を改正する法の規定に関する一時金
④退職によって支払われる改正前の厚生年金保険法の規定に基づく一定の一時金
⑤退職によって支払われる確定給付企業年金法の規定に基づいて支給を受ける一時金
⑥独立行政法人勤労者退職金共済機構が中小企業退職金共済法により支払う退職金
⑦確定拠出年金法に規定する企業型年金又は個人型年金規約に基づいて老齢給付金として支払われる一時金
など。
その他にも、退職後引き続き勤務する場合の退職金や執行役員の就任に伴う退職手当など分類はいくつかあります。分類の細かな内容については、以下のURLを参考にしてください。
出典:退職所得となるもの|国税庁https://www.nta.go.jp/taxanswer/gensen/2725.htm
退職所得を求める計算式
それではまず、退職所得の金額の求め方についてです。退職所得は以下の計算式で求めます。
退職所得の金額=( 収入金額 - 退職所得控除額 )× 1/2
収入金額から退職所得控除額を引いたものに1/2をかけることが求めるための重要なポイントです。
また、役員などで勤続年数が5年以下である人については、その退職金のうち、その役員の勤続年数に対応する退職金として支払いを受けるものについては、平成25年以降は、「退職手当など-退職所得控除額」で退職所得金額が計算されます。
退職所得控除額
それでは次に、収入金額からマイナスされる退職所得控除額の求め方をご説明します。退職所得控除額は、勤続年数によって控除される金額が決まるとお話ししました。退職所得控除は勤続年数が20年以下か20年超かによって求める計算式が違います。計算式は以下の表になります。
・退職所得控除額の計算表
勤続年数(=A) | 退職所得控除額 |
20年以下 |
40万円 × A (80万円に満たない場合には、80万円) |
20年超 |
800万円 + 70万円 × (A – 20年) |
出典:No.1420 退職金を受け取ったとき(退職所得)|国税庁https://www.nta.go.jp/taxanswer/shotoku/1420.htm
この勤続年数の計算で1年未満の端数が出た場合には、1年として計算します。また、退職の原因が障害者になったことが直接影響を与えていた場合には、計算された退職所得控除額からさらに100万円を加算した金額にするといった制度もあります。
例えば、勤続年数が14年4ヶ月のAさんが退職した場合、退職所得控除額は以下の金額になります。
40年×15年(1年未満は繰り上げ)=600万円
また、勤続年数が35年のBさんが退職した場合、退職所得控除額は以下の金額になります。
800万円+70万円×(35年-20年)=1,850万円
退職金にかかる所得税の求め方
さてここまでの計算式を使い、( 収入金額 - 退職所得控除額 )× 1/2 =退職所得金額を求めることができたとします。最後にこの退職所得金額を使って、受け取った退職金いかかる所得税を計算します。所得税の計算は以下の計算表を使います。
退職所得の源泉徴収税額の速算表
課税退職所得金額(A) | 所得税率(B) | 控除額(C | 税額=((A)×(B)-(C))×102.1% |
195万円以下 | 5% | 0円 | ((A)×5%)×102.1% |
195万円を超え 330万円以下 | 10% | 97,500円 | ((A)×10%-97,500円)×102.1% |
330万円を超え 695万円以下 | 20% | 427,500円 | ((A)×20%-427,500円)×102.1% |
695万円を超え 900万円以下 | 23% | 636,000円 | ((A)×23%-636,000円)×102.1% |
900万円を超え 1,800万円以下 | 33% | 1,536,000円 | ((A)×33%-1,536,000円)×102.1% |
1,800万円を超え 4,000万円以下 | 40% | 2,796,000円 | ((A)×40%-2,796,000円)×102.1% |
4,000万円超 | 45% | 4,796,000円 | ((A)×45%-4,796,000円)×102.1% |
出典:別紙 退職所得の源泉徴収税額の速算表|国税庁https://www.nta.go.jp/m/taxanswer/2732_besshi.htm
例えば、退職所得金額が500万円だったCさんの場合、所得税の税額は以下のように求めます。
(500万円×20%-427,500円)×102.1%=572,500円×102.1%=584,522.5円
1円未満の端数については切り捨てされるので、Cさんの税額は584,522円となります。
退職金にかかる所得税の具体的な計算例
では、今までご説明した計算式を使って具体的に退職所得にかかる税額を計算してみます。
例えば会社員のDさんがこのたび退職することになったとします。退職金(収入金額)は2000万円で、Dさんの勤続年数は29年6ヶ月だったとしましょう。
まずは退職所得金額を求めるための金額を計算します。
・収入金額を求める
本来なら、手当額と源泉徴収額を合計して収入金額を求めるのですが、今回は収入金額が2000万だったとして計算します。
・退職所得控除額を求める
勤続年数は29年6ヶ月なので端数を切り上げますので、勤続年数は30年となります。勤続年数が20年超なので、使う計算式は800万円+70万円×(勤続年数-20年)になります。
8,000,000円+700,000円×(30年-20年)=15,000,000円
・課税される退職所得を求める
これで、収入金額と退職所得控除額が求まったのでこれを使って退職所得金額を求めます。
20,000,000円-15,000,000円)×1/2=2,500,000円
・所得税額を求める
計算した退職所得金額に所得税の速算表を使って税額を求めます。
今回は退職所得金額が250万円なので、(退職所得金額×10%-97,500円)×102.1%の式を使います。
(2,500,000円×10%-97,500円)×102.1%=152,500円×102.1%=155,792.5円
1円未満の端数は切捨てなので、155,702円になります。
よって、退職金2000万円、勤続年数29年6ヶ月のDさんは退職金の所得税として155,702円を納めることになります。
注意!退職所得の受給に関する申告を忘れずに
これで退職所得とその控除額、所得税額についてしっていただけたでしょうか。では次に、実際に退職金をもらったときどうすればよいかについてご紹介しておきます。
退職所得の受給に関する申告とは?
退職金の受給を受ける者は「退職所得の受給に関する申告書」を、会社などの退職金を支払う支払者に退職金が支払われるまでに提出する必要がありますこの申告書を提出した場合には、退職金等の支払者が上記のように所得税額を計算して、退職金を支払う際に所得税を源泉徴収してくれます。ですので後日確定申告などの手続きは不要となります。提出する退職所得の受給に関する申告書は以下のURLから確認することができるので、一度見てみることをおススメします。
・退職所得の受給に関する申告(退職所得申告)|国税庁
https://www.nta.go.jp/shiraberu/zeiho-kaishaku/tsutatsu/kobetsu/hojin/010705/pdf/2801h331.pdf
退職所得の受給に関する申告をしなかったら?
もし忘れてしまったり、手続きが間に合わず申告書を提出できなかった場合はどうなるのでしょうか。万が一申告できなかった場合にも、退職金を受け取った本人が確定申告することにより、所得税の精算をすることができます。その際には、退職金について一律で20.42%の源泉所得税率(所得税および復興特別所得税)が課せられることになりますので、退職時には退職金を受け取るまでにしっかり退職所得の受給に関する申告書を支払者(会社など)に提出しておきましょう。
もし退職金を受け取る前に死亡してしまったら?
最後に、もし退職金を受け取ることができる人が退職金を受け取る前に亡くなってしまった場合に、退職金がどうなるかについてご説明しておきます。
退職金を受け取る前に亡くなったら?
もし何らかの事情で会社に勤めている人が本来受け取るべき退職金を受け取る前に亡くなってしまったら、その退職金は死亡退職金と名前を変えて、遺族に支払われることになります。
死亡退職金とは?
亡くなった人に変わって遺族が受け取る死亡退職金は、支払われる金額が亡くなった後3年以内に確定した場合、相続税の課税対象となります。なぜ亡くなった人からの相続ではないにも関わらず相続税の対象になるかというと、死亡退職金は人が亡くなることで遺族が受け取ることができるようになる財産であるため、みなし相続財産として扱われるからです。
死亡退職金の非課税制度
死亡退職金はすべてが相続税の課税対象になるわけではなく、遺族の生活を保障するという目的のために非課税制度が設けられています。非課税額は500万円×法定相続人の数(相続が発生したら相続財産を受け取ることができる人)で求められた金額になります。
例えば、2,000万円の死亡退職金を相続人2人で受け取る場合には、1,000万円が相続税の課税対象となります。
まとめ
いかがだったでしょうか。会社を勤め上げて受け取る退職金にも税金がかかるというのは少し腹立たしいことかもしれませんが、今回ご紹介したように、なるべく税金がかからないように退職所得控除という制度があることは覚えていただけたでしょうか。実際に自分が退職金を受け取るとき損をしないように、一度シミュレーションしてみるのもいいかもしれませんね。
監修者:添田裕美(税理士)