【税理士監修】誰でもわかる相続税の基礎控除と計算方法

平成27年に相続税法が改正され、基礎控除額の引き下げや相続税率の見直しなどが行われました。それにより相続税の申告をする必要がある人や、改正前よりも多額の相続税を納めることになった人が増えています。今回は相続税の計算に必ず必要な基礎控除額や相続税の計算方法、相続財産の評価方法などについて説明していきます。
そもそも基礎控除とは
相続税における基礎控除額とは、相続税の課税の対象となる財産の非課税限度額であり、すべての相続に無条件で適用されるものです。
平成27年1月1日以降の相続には改正された相続税法が適用されており、改正前なら相続税がかからなかった人でも相続税の申告や納税が必要となる場合があります。
基礎控除の計算方法
基礎控除額の計算においては、法定相続人の数を正確に把握することが大切です。
相続税の早見表(速算表)
相続税の総額を算出(方法については後述)する際に、相続税の課税対象となる遺産の総額を各相続人に法定相続分で分けた取得金額を、以下の速算表にあてはめて計算します。
平成27年1月1日以降の場合の相続税速算表
法定相続分に応ずる取得金額 |
税率 |
控除額 |
1,000万円以下 | 10% | – |
3,000万円以下 | 15% | 50万円 |
5,000万円以下 | 20% | 200万円 |
1億円以下 | 30% | 700万円 |
2億円以下 | 40% | 1,700万円 |
3億円以下 | 45% | 2,700万円 |
6億円以下 | 50% | 4,200万円 |
6億円超 | 55% | 7,200万円 |
出典:No.4155 相続税の税率|国税庁https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/sozoku/4155.htm
基礎控除額が適応される基準
相続税の基礎控除額の計算は、相続開始の日(相続人が死亡した日)の時点の税制が適用されます。したがって、平成26年12月31日以前に開始した相続については、改正以前の基礎控除額の計算方法や税率が適用されます。
養子がいない場合)
平成27年1月1日以降の基礎控除額は次のように計算されます。
3,000万円+600万円×法定相続人の数
出典:No.4152 相続税の計算|国税庁https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/sozoku/4152.htm
例として、法定相続人が配偶者と子供1人の場合は、
3,000万円+600万円×2人=4,200万円
となります。
相続人である子供の中に養子がいない場合は、子供はすべて法定相続人の数に含まれます。
また養子であっても次のいずれかに該当する人は実子とみなされ、すべての人が法定相続人の数に含まれます。
(1)被相続人との特別養子縁組によって養子となっている人
(2)被相続人の配偶者の実子で被相続人の養子となっている人
(3)被相続人の配偶者と特別養子縁組で養子となっていて、被相続人と配偶者の結婚後に被相続人の養子となった人
(4)被相続人の実子や養子・直系卑属(子どもや孫のこと)が既に死亡している等の理由で、その実子などに代わって相続人となった直系卑属
実子がいて養子もいる場合
被相続人に養子がいる場合、法定相続人の数に含める養子の数には一定の制限があります。
実子のほかに養子もいるという場合は、養子は1人まで法定相続人の数に含められます。
(例)法定相続人が配偶者と実子2人・養子2人の場合
3,000万円+600万円×4人(配偶者・実子2人・養子1人)=5,400万円
さらに、生存している実子の子(被相続人の孫)を養子にしている場合、計算したその養子の相続税額の2割にあたる金額がその養子の相続税額に加算されます。
実子がいなくて養子がいる場合
実子がいない場合は、養子は2人まで法定相続人の人数に含められます。
(例)法定相続人が配偶者と養子3人の場合
3000万円+600万円×3人(配偶者・養子2人)=4,800万円
ただし、養子の数を法定相続人に含めることで相続税の負担を不当に減少させる結果となる場合は、実子がいる・いないに関わらず養子を法定相続人の数に含めることはできないとされています。
出典: No.4170 相続人の中に養子がいるとき|国税https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/sozoku/4170.htm
相続放棄した人がいる場合
相続を放棄した人がいても、基礎控除額の計算上は放棄がなかったものとして法定相続人の数に含めます。
(例)法定相続人が配偶者と子A・子Bであり、子Bが相続を放棄した場合
3,000万円+600万円×3人(配偶者・子A・子B)=4,800万円
(相続放棄がなかった場合と同様に計算する)
相続税の計算方法
相続税は取得した財産の価額に直接税率を乗じて算出するのではなく、全ての財産を法定相続分で分割したものとした金額に税率を乗じて計算します。
遺産総額の算出
遺産総額とは、被相続人の死亡により相続等で取得した全ての財産の相続時の価額をいいます。遺産総額に含まれるのは次のような財産で相続税の課税対象になります。
(1)本来の相続財産
現金・預貯金・有価証券・不動産・宝石・貸付金など、経済的価値のあるもの
(2)みなし相続財産
生命保険金や死亡退職金など
また、次のような財産も相続税の課税対象となります。
(3)相続時精算課税制度に関わる贈与財産
(4)相続開始(被相続人の死亡)前3年以内に贈与を受けている財産
一方で課税の対象にならない遺産もあります。
・墓地や仏壇、神を祭る道具などで日常の礼拝に要するもの
・宗教、慈善、学術、その他公益を目的とする事業に使われるもの
・心身障害者共済制度に基づく給付金を受ける権利
・生命保険金や死亡退職金などのうち非課税限度額までの部分 など
被相続人が残した借入金等の債務がある場合は、遺産総額から差し引くことができます。また債務ではありませんが、葬式費用も遺産総額から差し引くことができます。
課税対象となる相続財産の算出
上記(1)~(3)の相続税の課税対象となる財産の合計から、非課税財産と債務および葬式費用を控除し、(4)相続開始前3年以内の贈与財産を加えたものを「正味の遺産額」といいます。
この正味の遺産額から基礎控除額を差し引いた分が、相続税がかかる財産の総額であり、「課税遺産総額」といいます。
課税遺産総額=正味の遺産額(本来の相続財産+みなし相続財産-非課税財産+相続時精算課税制度に関わる贈与財産-債務および葬式費用+相続開始前3年以内の相続財産)-基礎控除額(3,000万円+600万円×法定相続人の数)
相続税の総額の算出
求めた課税遺産総額を、法定相続分にしたがって取得したものとして、各相続人の取得金額を計算します。
(例)課税遺産総額1億円、法定相続人が配偶者と子A・子Bの場合
法定相続分はそれぞれ配偶者1/2、子A1/4、子B1/4
配偶者 1億円×1/2=5,000万円
子A 1幾円×1/4=2,500万円
子B 1億円×1/4=2,500万円
次にこの取得金額を、相続税の税率にしたがって各相続人の相続税額を計算します。
(例)配偶者 5,000万円×税率20%-控除額200万円=800万円
子A 2,500万円×税率15%-控除額50万円=325万円
子B 2,500万円×税率15%-控除額50万円=325万円
相続税の総額(合計) 1,450万円
相続人それぞれの相続税額の算出
相続税の総額を、各相続人が実際に取得した課税価額に応じて割り振り、相続人それぞれの相続税額を算出します。
(例)課税遺産総額1億円の内、配偶者が7,000万円、子Aが2,000万円、子Bが1,000万円をそれぞれ取得した場合
配偶者 1,450万円×7,000万円/1億円=1,015万円
子A 1,450万円×2,000万円/1億円=290万円
子B 1,450万円×1,000万円/1億円=145万円
相続人それぞれの納付税額の算出
各相続人の相続税額から、各相続人に適用される税額控除を差し引く、もしくは税額の加算をした額が各人の納付税額になります。
(例)上記の例で、子Bが子Aの子供であり、被相続人の養子となっていた場合
配偶者 1,015万円-配偶者の税額の軽減(法定相続分の1/2または1億6,000万円のいずれか多い方)=0円
子A 290万円(控除なし)
子B 145万円+相続税額の2割加算=174万円
出典:No.4152 相続税の計算|国税庁https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/sozoku/4152.htm
資産によって異なる相続財産の評価方法
相続財産の種類によって相続税の評価方法は様々です。主な相続財産についての評価方法をご紹介します。
現金
預貯金に関しては、相続開始日の預金残高(定期預金は利子も)が相続税の評価額となります。また外貨の場合は、相続開始日の交換レートで日本円に換算して評価します。
有価証券
上場株式の評価は、課税時期(相続の場合は被相続人が死亡した日)における最終価格、または次の①~③の価格の内最も低い価格によって評価されます。
①課税時期の月の毎日の最終価格の平均値
②課税時期の月の前月の毎日の最終価格の平均値
③課税時期の月の前々月の毎日の最終価格の平均値
取引相場のない株式(未上場株式)の場合は原則として、株式を発行した会社を総資産価額などにより大会社・中会社・小会社のいずれかに区分し、異なる方法で評価をすることとなっています。
・大会社 「類似業種方式」
類似業種の株価と比較して評価する方法
・小会社 「純資産価額方式」
会社の純資産価額を相続税評価額で評価し、それを基に1株当たりの評価額を計算する方法
・中会社 「併用方式」
会社の規模により、類似業種方式と純資産価額方式を一定の割合で併用して評価する方法
公社債の評価は、公社債の種類や上場の有無などによって計算方法がやや異なりますが、課税時期における銘柄ごとの券面額100円あたりの単位で評価します。
土地
土地の評価は、宅地・農地・山林など地目ごとに異なる評価方法で評価します。ここでは宅地の評価方法について解説します。
宅地の価額は、自己の居住用や貸家用など利用の単位となっている1画地ごとに評価します。宅地の評価方法には「路線価方式」と「倍率方式」の2種類があります。
「路線価方式」
評価する宅地が面した道路に路線価(面する宅地の1㎡辺りの価額)が付されている場合は、その路線価に宅地の面積を乗じて評価額を計算します。しかし土地の形状は様々なので、宅地としての評価の公平性をはかるため路線価を調整する必要があります。
路線価を調整する項目としては、宅地の奥行の長さに応じて路線価を調整する「奥行価格補正率」や、角地のような2つの路線に面する宅地の路線価を調整する「側方路線影響加算率」などがあります。
「倍率方式」
路線価が付されていない宅地を評価する方法です。宅地の固定資産税評価額に一定の倍率を乗じて計算します。
また自己の居住用などに使用していない土地、例えば自己所有の土地に他人の建物が建っているなどの場合は所有者の土地利用が制限されるため、自己のために自由に使用できる土地(自用地)としての評価額から一定の割合が控除されます。
(例)①自己所有の土地に他人の建物が建っている場合(貸宅地)
自用地評価額-自用地評価額×借地権割合
借地権とは建物の所有を目的として土地を借りる権利のことです。借地権割合は路線価図(路線価が記載されている地図)に記載されているので、一般的にはそれを適用します。
②自己所有の土地に、他人に貸している自己所有の建物が建っている場合(貸家建付地)
自分の土地に建てた自己所有のマンションに賃借人が住んでいる、などの状態です。
自用地評価額-自用地評価額×借地権割合×借家権割合×賃借割合
借家権とは建物を賃借する権利のことで地域により異なります。また賃借割合とはマンションのように独立した部屋がある建物の内、賃貸している部分の割合のことをいいます。
建物
家屋は固定資産税評価額に1.0倍して評価するため、固定資産税評価額と同じになります。建築途中の家屋は、その家屋の費用原価の70%に相当する金額により評価します。宅地と同様に、貸家など自己の居住用ではない家屋の場合は、借家権割合と賃借割合の分が固定資産税評価額から控除されます。
生命保険金
被相続人の死亡により相続人が受け取った、被相続人が保険料の一部または全部を負担していた生命保険金は相続税の課税対象になります。
ただし生命保険金には非課税限度額があり、一定の条件を満たした分は非課税になります。生命保険金の非課税限度額については後述します。
死亡退職金
被相続人に支給されるはずであった退職手当金等を相続人が受け取った場合、被相続人の死亡後3年以内に支給が確定したものは相続税の課税対象となります。死亡退職金にも後述する非課税限度額があります。
出典:相続財産や贈与財産の評価|国税庁https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/hyoka/zaisan301.htm
知らないと損する相続税の軽減措置
被相続人の死亡後、残された相続人の生計維持に必要性の高い相続財産には、相続税を軽減する措置がとられます。
配偶者の税額軽減
配偶者の税額の軽減とは、配偶者が被相続人の死亡により実際に取得した財産が、①②のいずれか多い方の金額までは相続税がかからないという制度です。
①1億6,000万円
②配偶者の法定相続分(1/2)
配偶者の税額の軽減を受けるためには、配偶者の取得財産が分かる書類を添えて所定の期間内に相続税の申告をする必要があります。
小規模宅地等の特例
小規模宅地等の特例とは、被相続人が相続開始の直前において事業や居住の用に供されていた宅地を相続した場合、一定の要件を満たすものについて相続税の課税価額から一定の割合を減額するというものです。
被相続人または被相続人と生計を同一にする親族が居住の用に供していた宅地は330㎡まで80%が減額され、また事業の用に供していた宅地は事業内容などにより400㎡または200㎡までが80%または50%減額されます(平成27年1月1日以降)。
(例)被相続人とその配偶者が自宅を建てて居住していた宅地(400㎡、宅地の価額1億円)を配偶者が相続した場合
1億円×330㎡/400㎡×80%=6,600万円(減額分)
1億円―6,600万円=3,400万円(課税価額)
400㎡の宅地の内330㎡までが80%減額されるので、この例では価額1億円の宅地の課税価額は3,400万円になります。
小規模宅地等の特例を受けられる人は配偶者(要件なし)と、被相続人との同居など一定の要件を満たす親族です。
また特例を受けるためには、小規模宅地等や遺産分割に関わるものなど必要な書類を添えて相続税の申告を行う必要があります。
出典:No.4124 相続した事業の用や居住の用の宅地等の価額の特例(小規模宅地等の特例)|国税庁 http://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/sozoku/4124.htm
生命保険・退職金の非課税枠
生命保険金や死亡退職金の非課税限度額は次のように計算します。全ての相続人が受け取った生命保険金や死亡退職金の合計額が非課税限度額以下であれば相続税はかかりません。
500万円×法定相続人の数=生命保険金・死亡退職金の非課税限度額
出典:No.4108 相続税がかからない財産|国税庁https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/sozoku/4108.htm
相続人以外の人(相続放棄した人も含む)が生命保険金や死亡退職金を受け取った場合は、この非課税限度額は適用されず、受け取った金額の全てが課税の対象となります。
注意点
相続税の計算や申告をする際に注意すべき点をまとめました。
特例や控除の適用後の額が基礎控除額を下回る場合も必ず申告しましょう
相続等により取得した財産の合計額が相続税の基礎控除額以下であれば、相続税の申告は必要ありません。
しかし「配偶者の税額の軽減」や「小規模宅地等の特例」を受ける場合は、結果的に納税額が0円になる場合でも相続税の申告書を提出しなければなりません。
原則として、相続税の申告期限(相続人の死亡を知った日の翌日から10ヶ月以内)までに遺産分割を終え、申告書を提出することとなっています。
民法上の法定相続人と相続税法上の法定相続人の違い
相続人の範囲は民法で次のように決められています。
常に相続人となる人
被相続人の配偶者
第1順位
被相続人の子供。子供が既に死亡しているときは子供の直系卑属
第2順位
被相続人の直系尊属(父母や祖父母など)。第1順位の人がいないとき
第3順位
被相続人の兄弟姉妹。兄弟姉妹がすでに死亡しているときはその子供。第1・第2順位の人がいないとき
相続を放棄した人は初めから相続人でなかったものとされます。
民法で定める相続人には養子の制限がないので、養子をたくさん迎えて非課税限度額を増やすことが可能になってしまいます。そのため民法の相続人に次のような制限を加えたものを相続税法上の相続人(法定相続人)と呼びます。
・法定相続人の人数に加える養子の数の制限
・相続を放棄した人も、放棄がなかったものとして法定相続人の数に含める
相続税の基礎控除額や非課税限度額の計算には法定相続人の数を使用するため、相続税の計算上は実際の相続人の数と異なる場合があります。
出典:No.4132 相続人の範囲と法定相続分|国税庁https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/sozoku/4132.htm
まとめ
・改正された相続税法は平成27年1月1日以降に開始された相続に適用
・平成27年1月1日以降の基礎控除額は、3,000万円+600万円×法定相続人の数
・法定相続人の数には養子の数の制限あり。相続放棄した人も数に含まれる
・課税遺産総額が基礎控除額以下であれば相続税はかからず申告も不要
・相続財産の種類によって評価方法が異なる
・「配偶者の税額の軽減」と「小規模宅地等の特例」は相続税の申告書の提出が必要
・民法上の相続人の数と相続税法上の法定相続人の数は異なる場合がある
監修者:添田裕美(税理士)