【弁護士監修】相続放棄申述書の用意の仕方と書き方のポイント

両親や兄弟、親戚といった身内の方が亡くなったとき、財産があれば遺産相続が行われます。遺産相続は相続順位ごとに、亡くなった方の財産を分配していきます。場合によっては、関係が薄かった方の財産を相続することになる場合もありえます。
しかし、財産といってもプラスの財産だけではありません。借金や債務など、マイナスの財産も相続財産となります。そのとき行えるのが、相続人としての権利・義務を放棄する「相続放棄」です。
「相続放棄」は、家庭裁判所にその旨を申述しなければなりません。
今回は、相続が発生したとき、その相続をしないと家庭裁判所に申述をする「相続放棄の申述」について、必要な書類の用意とその書類の書き方についてご説明していきます。
相続放棄申述書の入手方法と基礎知識
そもそも相続放棄とは
まず、そもそものお話から始めます。
相続放棄とは、相続開始後に相続人が相続財産を受け継ぐのを拒否することになります。相続財産のうちマイナスの財産が多いときなどに利用されます。
相続放棄申述書の種類
相続放棄を選択する場合には、家庭裁判所に相続放棄申述書を提出することが必要となります。申述人(相続を放棄する人)が20歳未満と20歳以上では書き方が違います。
出典:相続の放棄の申述|裁判所
http://www.courts.go.jp/saiban/syurui_kazi/kazi_06_13/index.html
相続放棄申述書の入手の仕方
相続放棄申述書を手に入れる方法は2つあります。
裁判所へ取りに行く
最寄りの家庭裁判所には、申述書の書式が置いてあります。こちらを直接受け取りに行きましょう。もし相続放棄に関して疑問があれば、このときに尋ねておくと良いでしょう。
裁判所のホームページからダウンロードする
近くに裁判所がない、相談する前に申述書を作っておきたい方は、ホームページからダウンロードすることができます。
こちらを参照してください。
・相続放棄申述書(20歳以上)
http://www.courts.go.jp/saiban/syosiki_kazisinpan/syosiki_01_13/index.html
・相続放棄申述書(20歳未満)
http://www.courts.go.jp/saiban/syosiki_kazisinpan/syosiki_01_13_02/index.html
相続放棄申述書を提出する場所
提出場所は、相続開始地(ここが重要です!)の家庭裁判所になります。
よく間違いが起きるのは、ご自身の最寄りの家庭裁判所に提出してしまうことです。相続放棄については、相続開始地と呼ばれる、被相続人(亡くなった方)の最後の住所地を管轄する家庭裁判所での手続きが必要となります。注意しておきましょう。
家庭裁判所管轄については、以下のURLから調べることができます。
・裁判所の管轄区域|裁判所
http://www.courts.go.jp/saiban/kankatu/index.html
申述の手続きにかかる費用
申述に必要な費用は、申述書に貼る収入印紙800円分となります。また、ほかに裁判所からの連絡用郵便切手が必要になります。
郵便切手については、最寄りの裁判所によって金額が違いますので、各裁判所のサイトから確認するなど先に調べておきましょう。一般的に、収入印紙代と郵便切手代を含め、1,000円ほどかかります。
各裁判所の一覧はこちらのURLから確認してください。
・各地の裁判所一覧|裁判所
http://www.courts.go.jp/map_list/index.html
申述が出来る期間には期限がある
相続放棄申述には、申述期間があります。民法により、自己のために相続の開始があったことを知ったときから3カ月以内に行うことが定められています。
亡くなった方の相続が開始した場合には、速やかに財産調査を行い、財産把握をし、相続を行うか、放棄するかを決めなくてはなりません。
つらい方もいるかと思いますが、もしご自身に相続が発生しそうな方が亡くなる可能性があるのでしたら、相続についても準備を始めておくと安心です。
出典:相続の放棄の申述|裁判所
http://www.courts.go.jp/saiban/syurui_kazi/kazi_06_13/index.html
相続放棄申述書の書き方のポイント
それでは、相続放棄の申述書の書き方を1つずつ確認していきます。
まずは、書式を確認します。
20歳以上と20歳未満では書き方が違うとお話しましたね。ですが、使う相続放棄申述書のフォーマットは同じになります。
・相続放棄申述書書式
出典:相続の放棄の申述書(20歳以上)|裁判所
http://www.courts.go.jp/vcms_lf/10m-souzokuhouki.pdf
提出する家庭裁判所の名前と作成した日を書く
まず、提出する家庭裁判所の名前を書きましょう。そして、作成した日を記入します。なるべく提出日と近くなるようにしておきましょう。
申述人の名前を書き、印鑑を押す
相続放棄する方(申述人)の名前を記入し、押印をします。
提出する添付書類にチェックをする
次に添付する書類にチェックを入れます。被相続人と申述人の関係によって、提出する書類が違います。添付書類については、次の「相続放棄申述書に添付する書類について」で説明します。そちらで確認してください。
申述人の住所等の詳細を書く
まず、申述人(相続放棄する人です)の住所などを丁寧に記入します。裁判所から連絡があることもありますので、連絡がとれる住所・日中に連絡のつく電話番号を記入しましょう。
被相続人の住所等の詳細を書く
次に亡くなった被相続人の詳細を書きます。本籍と最後の住所、死亡時の職業などを記入します。
放棄の理由について書く
申述の理由の欄を記入します。
まず、相続の開始を知った日を記入してください。
そして、放棄理由を1~5の中から選択します。
1.被相続人から生前に贈与を受けている
2.生活が安定している
3.遺産が少ない
4.遺産を分散させたくない
5.債務超過のため
上記5つに当てはまらなかったときは、
6.その他に理由を記入しましょう。
把握している相続財産について書く
相続財産の概略を記入します。資産と負債両方を書きましょう。
収入印紙を貼る
最後に印紙を800円分貼ってください。
ここまでのすべてを記入すると、以下のような申述書になります。
出典: 記入例(相続放棄(20歳以上))|裁判所
http://www.courts.go.jp/vcms_lf/7427souzokuhouki-seizin.pdf
申述人が20歳未満の場合は、法定代理人を書く必要がある
もし、申述人が20歳未満(未成年)の場合は、法定代理人の記入が必要となります。法定代理人の住所と氏名を書きましょう。
被相続人との関係について、1.親権者、2.後見人から選び○をつけます。もし、どちらにも当てはまらない場合には、3.に具体的な関係を書いてください。
出典: 記入例(相続放棄(20歳未満))|裁判所
http://www.courts.go.jp/vcms_lf/7428souzokuhouki-miseinen.pdf
相続放棄申述書に添付する書類について
相続放棄申述書の準備ができたら、次に添付書類を準備していきます。
共通書類
・被相続人の住民票除票か、戸籍附票
・申述人の戸籍謄本
被相続人と申述人との関係により、異なる書類が必要
被相続人と申述人の関係によって、添付書類が異なるので、ご自身がどこに当てはまるか、まずチェックしておきましょう。
申述人が被相続人の「夫か妻」の場合
・被相続人の死亡の記載のある戸籍(除籍、改製原戸籍)謄本
申述人が被相続人の「子」の場合
・被相続人の死亡の記載のある戸籍(除籍、改製原戸籍)謄本
申述人が被相続人の「孫」の場合
・被相続人の死亡の記載のある戸籍(除籍、改製原戸籍)謄本
・被代襲者(本来の相続人・被相続人の亡子で申述人の亡父など)の死亡の記載のある戸籍(除籍、改製原戸籍)謄本
申述人が被相続人の「父母」または「祖父母」の場合
・被相続人の出生時から死亡時までのすべての戸籍(除籍、改製原戸籍)謄本
・被相続人の子(及びその代襲者)で死亡している方がいる場合、その子(及びその代襲者)の出生時から死亡時までのすべての戸籍(除籍、改製原戸籍)謄本
・被相続人の直系尊属に死亡している方(相続人より下の代の直系尊属に限る(例:相続人が祖母の場合、父母))がいる場合、その直系尊属の死亡の記載のある戸籍(除籍、改製原戸籍)謄本
申述人が被相続人の「兄弟姉妹」の場合
・被相続人の出生時から死亡時までのすべての戸籍(除籍、改製原戸籍)謄本
・被相続人の子(及びその代襲者)で死亡している方がいる場合、その子(及びその代襲者)の出生時から死亡時までのすべての戸籍(除籍、改製原戸籍)謄本
・被相続人の直系尊属の死亡の記載のある戸籍(除籍、改製原戸籍)謄本
出典:相続の放棄の申述|裁判所
http://www.courts.go.jp/saiban/syurui_kazi/kazi_06_13/index.html
相続放棄の手続きをする際の注意点
最後に相続放棄の手続きの注意点をお伝えしておきます。
期限内に必ず手続きを済ませること
相続が発生していることを知ったら、必ず期限内に手続きを済ませてください。
相続開始から3カ月以上経ってしまっている場合、もしかするとその期間の超過が放棄にあたって問題になることもありえます。場合によっては、相続放棄の効果が得られないこともあります。被相続人に借金があるのを知らないで放置していた場合でも、他の相続人が相続放棄していたため、負の遺産すべてをご自身が受け継いでしまう可能性もあります。
お金を貸している相手は、亡くなった方の代わりに返してくれる方を探しています。手続きを放置することであなたの家計に思わぬ出費が生まれることがあるので、相続を知ったら、なるべく早くどうするかを決めましょう。
相続放棄するかどうか、よく考えること
相続放棄をしてしまうと、遺産相続を受けることができなくなります。安易に相続放棄するのではなく、相続放棄するべきかどうか、よく考えることも大切です。
相続放棄した方がいいのはこんな時
債務超過が明らかな場合は、相続放棄を選択しましょう。
相続放棄することで損になることはありませんし、相続人の借金などを支払う必要がなくなりますので、リスクを減らすことができます。
しかし、マイナスの財産はわかっていても、プラスの財産がわからないこともありえます。そんなときは、「限定承認」という手続きを使うこともできます。
負の遺産がはっきりわからない場合「限定承認」という方法も
「限定承認」とは、相続財産から負債について支払いを行い、もし相続財産にあまりがあれば、相続人が相続することができる手続きのことを指します。目に見えるプラスの資産以外に、ネット銀行や株式などがあり、全体として、遺産がプラスなのかマイナスなのか、財産の全容がわからない場合には、限定承認を使うと良いでしょう。
ただし、限定承認には相続人全員が家庭裁判所に申述しなくてはならないという規則があります。他の相続人が迷っていて申述期間を過ぎそうとなれば限定承認は難しく、誰かが先に相続の承認をしてしまったとなると、限定承認はできなくなります。
そんな場合は、ご自身のために相続放棄を先にしてしまうのも方法の1つです。
手続きが大変なら司法書士や弁護士に依頼することも可能
相続の手続きは、間違えて手続きしてしまうと、後からでは修正が効かない場合があります。資産が多く手続きが大変であったり、ご自身で準備した書類や手続方法に不安があったりするのであれば、司法書士や弁護士などの専門家に依頼することも可能です。迷ったときは一度相談してみてはいかがでしょうか。
まとめ
「相続放棄申述書の用意の仕方と書き方のポイント」いかがだったでしょうか。
今回は、
・マイナスの相続財産が多いなら相続放棄を行う
・相続放棄申述書の書き方は2パターン(20歳以上と20歳未満)
・被相続人との関係によって、必要書類が異なる
・相続放棄はしっかり考えてから行い、不安であれば専門家を頼る
について、ご説明しました。
親族が亡くなれば、相続は自動的に行われます。相続する方法・相続を放棄する方法の両方を知っておくと、いざという場合に備えることができます。相続が発生し、あなたが放棄したいと決めたとき、今回の申述書の書き方をぜひ実践してみてください。
監修者:佐藤 充裕(弁護士)