【FP監修】似ているようで全くの別物?給与所得控除額と所得控除額の違いとは?

給料や賞与(ボーナス)をもらっている給与所得者の方は、給与から国に納める所得税などが、源泉徴収いわゆる天引きされた後の金額が、ご自身の銀行口座に振り込まれます。
また年末調整でその年の所得税が払い過ぎていれば手元に戻ってきます。従って、所得税をご自身で計算することにはあまり馴染みがないかもしれません。
もし、ご自身で所得税の計算をしようとするなら、注意していただきたいのがよく似たことばの「給与所得控除」と「所得控除」の違いです。
そこで、「給与所得控除」と「所得控除」の違いに注目しながら、給与所得者の所得税の算出方法や仕組みを正しく理解してみましょう。
目次
給与所得とは
給与所得とは、個人の所得に対してかかる所得税のうちの1つで、毎年1月から1年間の勤務先から受ける給料、賞与などの所得のことを指します。
なお所得税は、所得(収入)より給与所得のほかに事業所得や不動産所得などの10種類に分かれ、それぞれの所得について、収入や必要経費の範囲また所得の計算方法などが定められています。10種類の分類は次の通りです。
1.利息を受け取ったとき(利子所得)
2.配当金を受け取ったとき(配当所得)
3.事業所得の課税のしくみ(事業所得)
4.不動産収入を受け取ったとき(不動産所得)
5.給与所得
6.退職金を受け取ったとき(退職所得)
7.譲渡所得(土地や建物など株式等以外の資産を譲渡したとき)
8.山林所得
9.一時所得
10.雑所得
参考:所得税の10種類の区分とそれぞれの内容は、国税庁「No.1300 所得の区分のあらまし」を参考にしてください。
所得税の計算方法
所得税の計算方法は、所得(収入)から必要経費や所得控除額を差し引いた残りの所得(課税所得)に、税率をかけて税額を計算します。
2013年から2037年までは、復興特別所得税を所得税と一緒に申告・納付することになっています(ここでは復興特別所得税についての説明は省略いたします)。
所得税の計算式は次のようになります。
<所得税の基本的な計算式(数式1)>
所得(収入)-必要経費の額-所得控除の額=課税所得額
→課税所得額×税率-税額控除の額=所得税額
具体的に給与所得税額を計算する時の計算式は、
<給与所得税額計算式(数式2)>
給与所得(源泉徴収される前の勤務先からの給料、賞与の額)-給与所得控除の額-所得控除の額=課税所得金額
→課税所得金額×税率-税額控除の額=給与所得の所得税額
この式のなかに、今回のテーマの「給与所得控除」と「所得控除」の用語が出てきていることにお気づきでしょう。
では、「給与所得控除」と「所得控除」とはなにか、さらにみていくことにしましょう。
給与所得控除とは給与収入から差し引く金額
給与所得控除は、個人事業主における「経費」部分にあたります。個人事業主の場合「収入(売上)」から「経費(店舗の家賃や事務用品などの事業を運営していくために購入する物品の費用)」を差し引いて計算することができます。
しかし、サラリーマンには目に見える「経費」が無いため、「給与所得控除」が「経費」の代わりとして給与収入から差し引くことができます。この給与所得控除の額は年収に応じて決められています。
2018年度の給与所得控除早見表
2018年度の給与所得控除ができる金額は以下の通りです。
2017年分~2018年分
(表1)
給与等の収入金額 |
給与所得控除額 |
|
1,800,000円以下 |
収入金額×40% |
|
1,800,000円超 |
3,600,000円以下 |
収入金額×30%+180,000円 |
3,600,000円超 |
6,600,000円以下 |
収入金額×20%+540,000円 |
6,600,000円超 |
10,000,000円以下 |
収入金額×10%+1,200,000円 |
10,000,000円超 |
2,200,000円(上限) |
給与所得控除額の計算例
上記(表1)の右側、給与所得控除額を実際に計算してみましょう。
例えば年収600万円の方の場合は、「収入金額×20%+540,000円」ですので、 600万円×20%+54万円=174万円
給与所得控除の額は174万円となります。
所得控除とは
次に「所得控除」についてみていきましょう。
ここで、給与所得控除と所得控除とは、別のもだとお気づきになるでしょう。
給与所得控除は、所得の性質によって10種類に分けられて所得の1つで、給与所得を計算する時に提要されるのが「給与所得控除」でした。
一方、「所得控除」とは、控除の対象となる扶養親族が何人いるかなどの個人的な事情を加味して税負担を調整するもので次の14種類があります。
所得税額を計算する時には、適応するすべての控除の項目の金額を差し引いて課税所得額を計算します(数式1参照)。
1 雑損控除
2 医療費控除
3 社会保険料控除
4 小規模企業共済等掛金控除
5 生命保険料控除
6 地震保険料控除
7 寄附金控除
8 障害者控除
9 寡婦控除・寡夫控除
10 勤労学生控除
11 配偶者控除
12 配偶者特別控除
13 扶養控除
14 基礎控除(38万円)
給与所得者の所得税額の計算のしかた
所得控除の内容をお話する前に、所得税額の計算のしかたを先に見ていきます。
先ほどの年収が600万の方の所得税額を計算してみましょう。
この方は独身で所得控除が基礎控除の38万円のみであったとした場合、給与所得控除は174万円でしたので、
(数式2)給与所得(源泉徴収される前の勤務先からの給料、賞与の額)-給与所得控除の額-所得控除の額=課税所得金額の数式にあてはめて、
600万円(年間給与額)-174万円(給与所得控除の額)-38万円(基礎控除の額)=388万円(課税所得金額)
課税される所得金額が388万円となります。
次に、所得税額を計算します。
数式2の後半「課税所得金額×税率-税額控除の額=給与所得の所得税額」の式にあてはめて、また下記の表2「所得税の速算表」の330万円を超え395万以下の欄の税率をかけて控除額を引く計算をします。
388万円×20%-427500円=348500円
1000円未満は切り捨てますので、この方のこの年の所得税の納税額は348000円となります。
なおここでは復興特別所得税は考えなく、また税額控除(後記します)の対象となる所得はなかったとします。
「国税庁:所得税」の税率より
(表2)
所得税の速算表 |
||
課税される所得金額 |
税率 |
控除額 |
195万円以下 |
5% |
0円 |
195万円を超え 330万円以下 |
10% |
97,500円 |
330万円を超え 695万円以下 |
20% |
427,500円 |
695万円を超え 900万円以下 |
23% |
636,000円 |
900万円を超え 1,800万円以下 |
33% |
1,536,000円 |
1,800万円を超え4,000万円以下 |
40% |
2,796,000円 |
4,000万円超 |
45% |
4,796,000円 |
※ 2013年から2037年までの各年分の確定申告においては、所得税と復興特別所得税(原則としてその年分の基準所得税額の2.1%)を併せて申告・納付することとなります。
「14」の所得控除の内容
では、各所得控除の内容を見ていきます。
1.雑損控除<この控除を受けるには確定申告が必要です>
災害や盗難等によって損害を受けた場合の控除です。実際の受けた損失額によって控除額が変わります。雑損控除の適用要件は以下の通りです。
(1)受けた資産が次のいずれにも当てはまること。
①資産の所有者が納税者または納税者と生計を一にする配偶者、または親族で総所得金額が38万円以下の者
②棚卸資産若しくは事業用固定資産等又は「生活に通常必要でない資産」のいずれにも該当しない資産であること
(2)損害の原因が以下のいずれか
①震災、風水害、冷害、雪害、落雷など自然現象の異変による災害
②火災、火薬類の爆発など人為による異常な災害
③害虫などの生物による異常な災害
④盗難
⑤横領
具体的な計算式は次の2つのうちいずれか多い方の金額です。
(1) (差引損失額)-(総所得金額等)×10%
(2) (差引損失額のうち災害関連支出の金額)-5万円
所得控除の分類
所得控除には様々な種類がありますが、ある程度分類分けすることができます。所得控除の種類について詳しく見てみましょう。
1.雑損控除<この控除を受けるには確定申告が必要です>
災害や盗難等によって損害を受けた場合の控除です。実際の受けた損失額によって控除額が変わります。雑損控除の適用要件は以下の通りです。
(1)受けた資産が次のいずれにも当てはまること。
①資産の所有者が納税者または納税者と生計を一にする配偶者又は親族で総所得金額が38万円以下の者
②棚卸資産若しくは事業用固定資産等又は「生活に通常必要でない資産」のいずれにも該当しない資産であること。
(2)損害の原因が以下のいずれか
①震災、風水害、冷害、雪害、落雷など自然現象の異変による災害
②火災、火薬類の爆発など人為による異常な災害
③害虫などの生物による異常な災害
④盗難
⑤横領
上記に当てはまる場合は雑損控除の対象となります。具体的な計算式は次の2つのうちいずれか多い方の金額です。
(1) (差引損失額)-(総所得金額等)×10%
(2) (差引損失額のうち災害関連支出の金額)-5万円
2.医療費控除
多額の医療費を支払ったときは、確定申告を行うことで所得税が還付(支払った所得税の一部が戻ってくる)される場合があります。
医療費控除は、高額の医療費を払っている納税者の負担を減らすために設定されています。医療費控除の対象となる対象は以下の通りです。
(1)納税者が、自己または自己と生計を一にする配偶者や、そのほかの親族のために支払った医療費であること。
(2)その年の1月1日から12月31日までの間に支払った医療費であること(未払いの医療費は、現実に支払った年の医療費控除の対象となります)。具体的な計算式は以下の通りです。
支払った医療費-医療保険金等を受け取った金額-10万円(年間所得200万円未満の場合は総所得の5%)
3.社会保険料控除
健康保険、国民年金、厚生年金保険、国民健康保険や国民年金などの保険料の全額が控除されます。
4.小規模企業共済等掛金控除
指定された共済や個人年金等を支払った場合に適用できる控除です。指定された共済や個人年金であれば支払った金額が全額控除の対象となります。
個人型確定拠出年金(iDeCo)も小規模企業共済等掛金控除の対象です。原則60歳まで引き出しができないなどのデメリットもありますが節税効果もあるでしょう。
5.生命保険料控除
生命保険料を支払った場合の控除です。年間の生命保険料により最大12万円の控除が受けられます。生命保険、介護医療保険、および個人年金保険に3種類に分類されます。控除額の詳細は、「国税庁:生命保険料控除」でご確認ください。
6.地震保険料控除
年間支払う地震保険料によって控除額が変わり、年間最大5万円の控除が受けられます。
7.寄附金控除
寄付をした場合に適用できる所得控除です。近年盛んになった「ふるさと納税」も寄付金控除にあたります。寄付金控除の対象となる寄付金は以下のとおりです。
8.障害者控除
納税者、または控除対象の配偶者や扶養親族が所得税法上の障碍者に当てはまる場合適用できる所得控除です。1人につき27万円、特別障害者の場合は40万円、同居特別障害者の場合は75万円となります。
9.寡婦(夫)控除
寡婦(夫)控除とは夫や妻と離婚や死別した場合等に受けられる所得控除です。適用できる要件は一般の寡婦(夫)は27万円・特別寡婦(夫)に該当する場合は35万円の控除を受けられます。
特別寡婦(夫)に該当する要件は以下の3つです。
(1) 夫と死別し、または夫と離婚した後婚姻をしていない人や夫の生死が明らかでない一定の人
(2) 扶養親族である子がいる人
(3) 合計所得金額が500万円以下であること。
10.勤労学生控除
納税者が勤労学生の場合に受けられる所得控除です。控除額は27万円です。
11.配偶者控除
配偶者控除は収入が少ない配偶者がいる納税者の税負担を軽減するために設けられている所得控除です。配偶者控除の対象者は以下の通りです。控除対象配偶者とは、その年の12月31日の現況で、次の4つの要件のすべてに当てはまる人です。
なお、2018年分以後は、控除を受ける納税者本人の合計所得金額が1,000万円を超える場合は、配偶者控除は受けられません。
(1) 民法の規定による配偶者であること(内縁の妻・夫は対象外)。
(2) 納税者と生計を一にしていること。
(3) 年間の合計所得金額が38万円以下であること。(収入が給与のみの場合は給与所得控除65万円を差し引けるため、給与収入が103万円以下)
(4) 青色申告者の事業専従者としてその年を通じて一度も給与の支払を受けていないこと、または白色申告者の事業専従者でないこと。
所得控除額は納税者の所得によって異なります。具体的には以下の通りです。※( )内は老人扶養控除対象者の場合の控除額(控除対象配偶者のうち、その年12月31日現在の年齢が70歳以上の人)
900万円以下:38万円(48万円)
900万円超950万円以下:26万円(32万円)
950万円超1,000万円以下:13万円(16万円)
なお、配偶者が障害者の場合は配偶者控除と障害者控除を別々に適用することができます。
12.配偶者特別控除
配偶者に38万円を超える所得があり、配偶者控除を受けられない場合でも、配偶者所得金額に応じて受けられる所得控除です。
配偶者特別控除を受ける要件は以下の通りです。
(1) 控除を受ける納税者本人のその年における合計所得金額が1,000万円以下であること。
(2) 配偶者が、次の5つの要件すべてに当てはまること。
①配偶者であること(内縁の妻・夫は対象外)。
②控除を受ける人と生計を一にしていること。
③その年に青色申告者の事業専従者としての給与の支払を受けていないこと、または白色申告者の事業専従者でないこと。
④他の人の扶養親族となっていないこと。
⑤年間の合計所得金額が38万円超123万円以下であること。
受けられる控除額は納税者本人の年収と配偶者の年収によって異なります。受けられる控除額は最高38万円、最低1万円です。納税者本人の年収が1,000万円を超えている場合、本制度は適用できないため高所得の世帯には適用できない制度となっています。
13.扶養控除
控除対象になる扶養親族(子どもなど)がいる場合の控除です。扶養親族の年齢により控除額が異なります。
一般の控除対象扶養親族(12月31日時点で16歳以上):38万円
特定扶養親族(12月31日時点で19歳以上23歳未満):63万円
老人扶養親族(12月31日時点で70歳以上・同居老親以外):48万円
老人扶養親族(12月31日時点で70歳以上・同居老親):58万
なお、16歳未満の子どもがいる場合、この扶養控除の対象にはなりませんが、国民健康保険に加入している世帯では、翌年度の国民年金保険料の算定基準になりますので、申告しておくことが必要です。
14.基礎控除
納税者全員一律に適用される控除です。一律38万円が所得から控除できます。
税額控除について
数式1,2の所得控除額が決定する前に記載されている税額控除とは、一定の金額を控除する制度で、住宅ローン減税などが該当します。
まとめ
給与所得控除と所得控除とは似ているようで全くの別物であることが理解できましたか。
「給与所得控除額」は所得を10種類に分類する時の1つで、「所得控除額」は14種類の納税者の個人的な事情を加味して税負担を調整するものです。
所得税や所得控除の内容を正しく理解することで、ご自身の所得税の納税額が実際に減るかもしれません。また、生命保険料控除や小規模企業共済金等掛金控除(iDeCo)などはご自身で節税に繋げるものです。
現在の制度も将来変更となる可能性もありますので、税制改正のニュースなどを見た時は、その改正がご自身にどのような影響があるかに着目してみると良いでしょう。
なお、市区町村に納める住民税も所得税と同じような控除の制度があります。しかし控除される金額など異なるところもあります。詳細はお住まいの市区町村にお尋ねください。
監修者:牧野 寿和(ファイナンシャルプランナー)