【FP監修】給与所得控除の完全マニュアル!使い方や計算方法

会社員の方であればすべての方が受けている給与所得控除。適用を受けていても、制度の内容やいくら控除されているのかよく分からないという方も多いのではないでしょうか。給与所得控除について正しく理解しましょう。
給与所得控除とは?
まず、給与所得控除とはどのような制度なのでしょうか。どのような方が対象で、何のためにいくら差し引かれているのでしょうか。詳しく見てみましょう。
そもそも給与所得とは何か
そもそも給与所得とは何なのでしょうか。
「所得」とは「収入」から「必要経費」を差し引いた金額です。
給与所得とは勤務先から得た所得(毎月の給料やボーナス)のことを指します。複数の会社からパートやアルバイト等で給与を受けている場合も全て合算した額が給与所得となります。
給与所得控除=会社員の経費
給与所得控除は会社員にとっての「経費」部分と言われています。個人事業主の場合、売り上げから各種経費を差し引いた金額が所得となります。経費には店舗の家賃や備品の購入費、事業のために使った交通費などが含まれます。
会社員の場合、明確な費用がかかっているわけではありませんが、仕事のためのスーツや靴の購入費用や会社の懇親会費用等、実際にはさまざまな費用がかかっています。これらの経費を考慮して差し引ける金額が給与所得控除です。
給与所得者の場合「特定支出控除」も適用される
給与所得控除を受けている方は、特定支出控除も適用することができます。特定支出控除とは勤務に必要な特定の経費(通勤費・転居費・研修費・資格取得費等)が給与所得控除額の2分の1を超える場合に、給与所得控除後の金額から差し引ける制度です。
給与所得控除は会社が自動的に計算してくれますが、特定支出控除の適用を受けるには確定申告をして自ら手続きをする必要があります。
参考:https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1415.htm
給与所得控除は何のため?
給与所得控除は何のためにあるのでしょうか。給与所得控除の目的を正しく理解しておきましょう。
①税金計算を簡略化するため
給与所得控除の目的の1つは税金計算の簡略化です。日本中の会社員がスーツやビジネスシューズ、さまざまな経費を計算して個人事業主の事業所得のように確定申告をしてしまうととんでもない計算量になってしまいます。
会社員すべての計算を税務署が確認することは実質的に不可能なので、会社員などの給与所得者を一律の控除とすることで税金の計算を簡略化しています。
②公平性を確保するため
給与所得控除は公平性を確保するためでもあります。個人事業主は経費を差し引けます。給与所得者にとっての給与所得控除は、個人事業主にとっての経費と同じなので、個人事業主と給与所得者の間で公平性を保つことができます。
また、給与所得者間での公平性も確保できます。会社員の普段支払っている費用を経費とするかどうかはかなり曖昧な部分が残りますが、給与所得金額別の給与所得控除額にすることによって公平性を保つことができています。
給与所得控除額は変更が多いため気をつけよう!
給与所得控除額は税制改正が多い項目となっています。現在の給与所得控除額が来年も同じとは限りません。
実際に2016年と2017年~2018年分は給与所得控除額が変わっています。給与所得控除額は国税庁のホームページで確認できますので、毎年チェックしておきましょう。
参考:https://www.nta.go.jp/m/taxanswer/1410.htm
給与所得控除の範囲内であれば税金はかからない
給与所得控除の最低額は65万円です。給与所得が65万円未満であれば給与所得控除後の金額が0円になりますので、税金はかかりません。収入が給与所得のみの場合は基礎控除の38万円と給与所得控除の金額65万円が適用できますので、103万円以下であれば所得税はかかりませんし、家族の扶養から外れることもありません。
親や夫の扶養に入っている場合、所得控除金額を超えて仕事をすると手取り金額が少なくなるという逆転現象が起こる場合もあります(いわゆる103万円の壁)。扶養に入っている場合は所得控除内の範囲で仕事をするか、あるいは超過してたくさん仕事をするかなど、視野に入れて仕事をしたほうが良いでしょう。
給与所得控除の計算方法と計算例
給与所得控除はどのように計算すれば良いのでしょうか。会社員の場合は会社が計算してくれますので、実際に計算する必要はありませんが、具体的な仕組みや計算方法を理解することはとても大切です。給与所得控除の計算方法を具体的に見ていきましょう。
年収と給与所得控除
給与所得控除額は年収により異なります。年収と給与所得控除額は以下のとおりとなります。
180万円以下:収入金額×40% (65万円に満たない場合には65万円)
180万円超360万円以下:収入金額×30%+18万円
360万円超660万円以下:収入金額×20%+54万円
660万円超1,000万円以下:収入金額×10%+120万円
1,000万円超:220万円(上限金額)
上記のとおり、年収によって給与所得控除額は異なります。年収が上がれば上がるほど給与所得控除額も上がっていく制度になっています。給与所得が1,000万円を超えた場合は上限金額220万円と定められており、年収がいくら増えても給与所得控除は一律となります。
日本は超過累進課税制度をとっており、収入が増えれば増えるほど担税力(税金を支払う余力)は高いため多く払ってもらうという考え方を基に制度設計がされています。
給与所得控除も所得が上がるにつれて控除額は上がっていくものの一定金額を超えると頭打ちになる(収入が増えれば増えるほど納税額が増える)制度となっています。
参考:https://www.nta.go.jp/m/taxanswer/1410.htm
給与所得控除の計算例
給与所得控除額は実際にどのように計算をすれば良いのでしょうか。具体的な計算例を見てみましょう。
①年収300万円の場合
300万円×30%+18万円=108万円
②年収600万円の場合
600万円×20%+54万円=174万円
③年収1,200万円
220万円(上限)
上記のように給与収入の金額に応じて計算をすることになります。計算のもとになるのは給与収入(給与所得の源泉徴収票の支払い金額)です。
65万円に満たない場合は65万円が給与所得控除になる
給与所得が65万円に満たない場合は65万円が給与所得控除の金額となります。即ち給与所得控除金額の方が給与所得金額を上回ることになり給与所得は0円で計算するということになります。
2020年に給与所得控除額が縮小される
給与所得控除額は2020年に改正が予定されています。改正の内容は給与所得控除金額の縮小、つまり「増税」となります。ただし、一律増税とするのでは無く、給与収入が多い納税者の負担が大きくなり、子育て、介護世帯には一部負担軽減の制度が設けられました。2020年の給与所得改正について詳しく見てみましょう。
2020年の給与所得控除額
給与所得控除は2020年に改正されます。改正後は給与所得控除が縮小され、実質的な増税となります。
改正後は子育て介護世帯とそうでない世帯で控除額が異なります。改正後給与所得控除額は以下の通りです。
162万5,000円以下:55万円
162万5,000円超180万円以下:収入金額×40%-10万円
180万円超360万円以下:収入金額×30%+8万円
360万円超660万円以下:収入金額×20%+44万円
660万円超850万円以下:収入金額×10%+110万円
850万円超:195万円(上限金額)+所得金額調整控除(子育て・介護世帯のみ適用)
特に大きく負担が増えたのは年収850万円以上の高所得世帯です。ただし、子育て・介護世帯には一部軽減措置が設けられました。850万円超の収入がある方にのみ適用される「所得金額調整控除」は子育て・介護世帯のみ適用される制度です。
所得金額調整控除額は給与収入(上限1,000万円)‐850万円×10%が控除金額となります。1,000万円以上の方は一律1,000万円となりますので1,000万円-850万円×10%=15万円が所得金額調整控除額となります。
年収1,000万円の方の所得金額調整控除後の給与所得控除額は195万円+15万円=210万円となりますので改正前の給与所得控除額220万円と比べると給与所得控除額が10万円縮小されたことになります。
参考:https://n-asset-berry.com/staffblog/kyuyoshotokukojo/
控除を縮小するのは「増税」が背景
給与所得控除額を縮小する目的は「増税」です。給与所得控除の引き下げは、会社員などの給与所得者の増税につながります。
特に、年収が高い納税者は上限金額が220万円から195万円と25万円の引き下げとなります。所得が900万円~1,800万円の納税者の税率は33%ですので、8万円以上納税負担が増えることになります。
基礎控除も2020年に改正
2020年には給与所得改正と共に基礎控除も改正されます。基礎控除とはすべての方に一律控除される金額で2018年現在は38万円ですが、2020年には48万円に引き上げられます。基礎控除の引き上げは給与所得控除の引き下げとは反対に「減税」となります。
この基礎控除引き上げの背景には働き方が多様化されておりフリーのエンジニアなど、実質的に企業に従事しているのと同じような仕事をしているのに給与所得控除が適用できない個人事業主が増えているためです。フリーのエンジニアなどの個人事業主は、自宅でPC1台とインターネット環境さえあればお仕事が出来るため経費をほとんど差し引けず、同じ収入金額でも手厚い給与所得控除を受けている会社員との納税格差が大きくなっています。
そのため、基礎控除を引き上げることで個人事業主の所得税を優遇する措置をとったのです。これにより給与所得控除額との差は縮まりましたが、基礎控除の10万円引き上げでは前述の給与所得控除額との乖離はまだまだ大きいため、今後も制度が見直される可能性はあるでしょう。
最後に
給与所得控除は全ての会社員が適用を受けていますが、自動的に計算されているため、よく分からないという方も多かったのではないでしょうか。
収入金額さえ分かれば簡単に給与所得控除額を計算することができるので、ぜひご自身でも一度計算してみてください。給与所得控除は改正が多い項目なので、今後も最新情報を欠かさずチェックしてください。
監修者:野村 浩治(ファイナンシャルプランナー)