村上ファンドと言えば「物言う株主」の代表として、日本の株式市場に登場しました。そして村上ファンドは株主になった企業に、これまでの日本では見られなかった要求を迫りました。やや強引とも見られがちなスタイルはマスコミを騒がせ、要求を受けた企業からは「悪役」のレッテルを貼られていました。

しかし村上ファンドの考え方と企業に要求する内容を詳しく見ていくと、個人投資家にもメリットがあると言えます。そして2019年1月新明和工業という企業が発表した資本政策は、同社の筆頭株主である旧村上ファンド系の会社と協議の上で決まったものでした。

そこでこの記事では新明和工業が発表した資本施策を投資家へのメリットも含めて解説します。そして村上ファンドが投資先企業に求める資本政策を解説します。

村上ファンドは村上世彰氏が設立した投資ファンド

はじめに「村上ファンド」についておさらいしてみましょう。村上ファンドは村上世彰氏が中心となって設立した複数の会社を総じて呼んだものです。通商産業省(現 経済産業省)に勤めていた同氏は1999年に退職し、他の有志と共に「株式会社エム・エー・シー」を設立したことが始まりと言われています。

そして2000年に昭栄【3003】の株式を大量に買い付けようとし、TOB(※株式公開買い付け)を表明しました。これが村上ファンドの「物言う株主」として初めての活動と言われています。

※TOB:不特定多数の株主に対して「買い付け期間・買付数・株価」を提示して行う買収行為。当時村上ファンドは当時880円程度の株価だった昭栄に対して1,000円でTOBを行った。

阪神電気鉄道で一躍有名に

その後も村上ファンドは、様々な企業に対して株式を大量に買い付けました。そして筆頭株主になって様々な提案を行いました。当時最も世間を騒がせたのは関西の大手私鉄である阪神電気鉄道の株式を買い付け筆頭株主になったことです。

この時村上ファンドは同社の子会社であるプロ野球球団「阪神タイガース」の株式を上場させることを提案したのです。

2006年に解散、その後法廷に立たされる

その後、村上ファンドは資金を海外に移し2006年には日本から撤退しました。さらに村上氏はニッポン放送を巡るインサイダー取引の疑いをかけられ逮捕されてしまったのです。

裁判は5年程度かけて行われ、村上氏は執行猶予付きの有罪判決が確定となりました。また同氏と村上ファンドには罰金や追徴金などで10億円以上を請求されました。

2013年頃より活動を再開

その後、数年は村上ファンドが世間を騒がせることはありませんでした。しかし2013年頃より村上氏が出資しているとされる企業が様々な企業の株式を買い付けていることが分かりました。

以前のように村上氏が表舞台で話すことはほとんどなくなりましたが、後を引き継いでいる社員たちによって活動を続けています。

新明和工業【7224】は飛行機も作れる輸送機器メーカー

次に新明和工業について解説します。同社は兵庫県宝塚市に本社を置く輸送機器や産業装置を扱うメーカーです。創業は1920年、川西機械製作所にて飛行機製造を始めた時だとされています。

戦後は飛行機の製造が中止されたもののその技術は受け継がれ、現在でも自衛隊向けの飛行艇や飛行機部品の製造を行っています。また現在ではダンプカーやごみ収集車と言った特装車と呼ばれる分野に強みを発揮しています。

新明和工業の資本政策は「無借金経営を止めてROEを高める」

そして2019年1月、同社は新たな資本政策を発表しました。その内容は主に以下のようなものです。

1. 総額400億円、株価1,500円でのTOBを実施
2. 負債による資金調達の実施(負債比率20~30%)
3. 目標ROE8%(長期的には更なる上昇を目指す)
4. 連結配当性向40~50%を維持
5. 2020年3月期の総還元性向70~80%
6. 株式報酬制度の導入

この発表は同社の筆頭株主である株式会社レノと協議した結果であるとされています。株式会社レノは先述した旧村上ファンドの流れをくむ企業の1つです。一見すると「村上ファンドがまた何かしている?」と思うかもしれません。

しかしこの施策は悪いことばかりではありません。個人投資家にとってはむしろメリットのある話だと言えます。ではどのような点が個人投資家にとってメリットだと言えるのでしょうか。

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資本政策とは会社を運営するための資金を得るための手段を決めること

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ここで企業の資本政策について解説します。企業がビジネスを続けるためには資金が必要です。その時資金をどのような手段で集めるかを考え、実行することを資本政策と言います。一般の家計を置き換えると欲しいものを買うために、そのお金をどうやって貯金するかを考え、実行するということになります。

企業の資本政策は「自己利益・株式の売却・新株の発行・借入金(借金)」

企業が行うことができる資本政策は主に3つあります。はじめに考えられるのは自己利益です。

すでにビジネスをしている企業であれば、自ら生み出した利益をそのまま次のビジネスのために使うことができます。

次にできることは株式を使った資金調達です。株式を上場して自らが所有する株式を売却し、資金を得ることができます。また、新株を発行して投資家に買ってもらうという方法もあります。

最後に挙げられる方法は金融機関などからお金を借りること、いわゆる融資を受けることです。返済できる目処があれば、借金をすることでビジネスを続けたほうが良い場合があります。

資本にはコストが必要?

ところでこれら資本政策手段には「コスト」が必要なことをご存知でしょうか。コストを「利息」と言い換えれば分かりやすいかもしれません。借入金の場合、利息を加えて返済する必要があります。自己利益の場合利息は無く、返済の必要もありません。では株式の場合はどうなるのでしょうか。

株式と自己利益の資本コストは一般的に割高

株式と自己利益に対するコストは一般的に割高となります。なぜなら株式の場合、投資家は損失のリスクを取って株式を保有します。であれば、投資家はリスクに見合ったリターンを求めるものです。

当然ですが個々の投資家によって求めるリターン率(利息)にばらつきがあります。しかし株式による運用であれば、定期預金や国債と言ったリスクの低い運用より高いリターンを求めるはずです。

また、自己利益は企業が自由に使えるお金ですが、その所有権は株主にあります。したがって自己利益に対する資本コストも株式と同程度だと言えるのです。

新明和工業は株主に見合ったリターンが出せず株価が低迷していた

新明和工業は、これまで健全な財務を基本方針としてきました。金融機関からの借入金も最小限に抑えて、自己資本比率を高めてきました。その一方で高い自己資本比率が、株主に対する利益率を低く抑えていたのです。したがって同社の株価も、それに見合った程度に抑えられ低迷していたのです。

自己資本利益率(ROE)は投資家に対する利率

ここで「株主に対する利益率」について詳しく解説します。これは一般的に自己資本利益率(ROE)と呼ばれています。企業の資産のうち、全ての負債を取り除いた総額(純資産)に対する利益の割合を示したものです。

これによって株主が、ビジネスに投資したお金から生み出すリターン率が分かります。つまりROEは、株式を保有する投資家への利率だと言えるのです。

2018年3月期末の新明和工業ではROEが5.8%で、有利子負債(借入金)はゼロでした。安全な財務であれば、安心して投資ができると言えます。その一方で、ROEが5.8%というのは良い数字だとは言えません。

村上ファンドは「企業はROEを高めることが使命だ」と考える

このような新明和工業の現状に対して、旧村上ファンド系投資会社は改革を求めるため株式を買い付けました。そして、同社のビジネスであればもっとROEを高くできると訴えたのです。旧村上ファンドは投資した企業に対して以下のような姿勢を一貫して求めています。

1. ビジネスに直接関与しない現金があれば株主に返還する
2. 適度な借金をすることで資本コストを節約する
3. これらを行うことでROEを高め、株価を上昇させる

ここからは旧村上ファンドの基本方針と、この度新明和工業が下した資本政策を照らし合わせながら個人投資家へのメリットを解説します。

自社株を買って償却し株式数を減らせば一株当たりの利益が高くなる

まず「総額400億円、株価1,500円でのTOBを実施」です。これは新明和工業が、株式市場に出していた自社株を買い戻すということです。買い戻した自社株を消却することで、発行株式数が減ります。

すると利益や資産に対する一株当たりの金額が上がり、個人投資家にとっても株価や配当金の増加が期待できるのです。同社はこの度のTOBに合わせて、配当の増額も決定しています。

また株式を買い戻して償却すれば、貸借対照表での自己資本(純資産)を減らすことになり、資本コストを軽減することができます。

適度な借金で資本コストを節約する

新明和工業は借入金で450億円を調達することを決めました。これによって自己資本比率は44%程度になると見込まれています。また借入金は必ず返済する必要があるので、業績が思わしくないときに負担になるリスクがあります。

その一方で安定したビジネスであれば、非常に低い金利で融資を受けることができます。つまり、株式よりもかなり低い資本コストで資金を得ることができるのです。借金が多くなれば経営のリスクが高まりますが、この度同社が決めた負債比率20~30%は決して高い数値ではありません。

借金を増やすとROEは高くなる

返済できる見込みが十分であれば、借金をすることで株主へのリターンは大きくなります。これは「レバレッジ効果」と呼ばれるものです。

レバレッジ効果とは、仮に借金をして投資したビジネスが借金を返した上に利益を残すことができたとします。すると株主にとってこの利益は、元手ゼロで手に入れた利益になります。

つまり自己資本を増やすことなく利益を増やすことができるのです。このようにビジネスでは、レバレッジ(てこ)の様に少ない資金で大きな利益を出す方法が用いられます。そして自己資本を増やすことなく利益を増やすことができるので、ROEを高くすることができるのです。

ROEが高まると株価も高くなる

同社は「目標ROE8%(長期的には更なる上昇を目指す)」と明言しています。ROEは先述した通り株主にとっての「金利」に当たります。しかも高いROEを継続できるのであれば、複利で金利を得ることができます。新明和工業のビジネスが継続的に高いROEを出すことができると株式市場が認めれば、株価も高くなっていくのです。

配当性向40~50%は比較的高い

同社は配当性向に関しても目標を掲げています。2019年3月期から2021年3月期まで、連結配当性向を40~50%で維持するとしました。

配当性向とは、企業が出した利益のうち配当として株主に返還する金額の比率を表します。日本の企業の多くは配当性向を20~30%にしており、適切な配当性向には議論があります。しかし配当性向を高めて増配し、企業に利益を残さない分を借入金で賄ってビジネスを続けられるのであれば問題ないと言えます。

自社株買いを含めた「総還元性向」

総還元性向とは先述の配当性向に自社株買いの金額を加えた、利益との比率を表します。この度同社は大規模な自社株買いを実施し、配当でも記念配当を加えるため70~80%という高い比率になっています。

ここまで高い比率で総還元性向を続けることは無いと言えますが、これまで抑えられていた比率を取り戻すことになると言えます。

株式報酬制度で経営者は株価により関心を寄せる

株式報酬制度とは、役員の給与を自社の株式で与える制度です。株価は企業の業績や取り組みによって影響を受けます。したがって役員は株価を上げるために業績の向上や社会貢献できる取り組みに注力すると考えられています。

※投資はあくまでも自己責任となります。利益を保証するものではありませんので、ご注意ください。

村上ファンドは企業の株価を上げるためにできることを提案している

このように村上ファンドの提案は株主にとってメリットがある話だと言えます。ところがこれまで村上ファンドが投資した企業のほとんどはその方針に反発し、中には株式上場を廃止する企業もありました。

そのような中において新明和工業は旧村上ファンド系投資会社の考え方を聞き入れ、方針転換を図ることになりました。旧村上ファンドの提案が必ずしも正しいとは言えませんが、株主である限り企業に損失を与えるような考えはないはずです。

これからは新明和工業の様に提案を受け入れ、前向きに検討する企業が増えることを願っております。

記事 湯川 国俊

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