長期間の株式投資で成果を上げることは大切です。

しかし、投資期間中に企業が利益を出せない状態が続いてしまっては困ります。

当然ですが今利益が出ている企業でも、良い状態がいつまでも続くとは限らないのです。投資先企業の利益が保証されないという点は、株式投資が怖いと感じる理由の1つになっています。

残念ながら利益減少リスクが無い企業は、ほぼ存在しません。しかし株式投資で最も重要なことは、投資先の利益が減る可能性を理解することです。あらかじめリスクを理解しておくことで、リスクが表在化した時の対処法を準備できます。そして企業の利益削減リスクを明確に整理する方法は、すでに存在しているのです。

今回の記事では、投資先企業の利益が削られる可能性をくまなく分析できる「ファイブフォース分析」と呼ばれる手法を解説します。そして投資初心者が、ファイブフォース分析を用いるコツを提案します。

最後に事例として【2914】JTと【4661】オリエンタルランド、そして【9022】JR東海でファイブフォース分析をします。ぜひ最後までお読みください。

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ファイブフォース分析とは

ファイブフォース分析を使う目的

ファイブフォース分析とは、アメリカの経済学者であるマイケル・ポーターがその著書「競争の戦略」で提唱したビジネスの評価手法です。

全てのビジネスは様々な競争にさらされているとし、競争が激しくなると利益を残すことが難しくなると論じています。さらに同氏は、企業が直面する競争(利益削減)リスクを5種類に分類し、企業の取り組むべき課題をより分かりやすく分析できるようにしたのです。

ファイブフォース分析は、主に自社における問題点を明確にする手法として使われています。また、長期間の株式投資で大きな失敗を防ぎたい個人投資家にもおすすめできる分析手法です。個人投資家であれば、ファイブフォース分析を以下のように用いることができます。

このように、ファイブフォース分析は株式投資における難しい判断を助けることができるのです。では次にファイブフォースの論ずる5つの利益削減要因について解説します。

企業の利益を削る5つの力

ファイブフォースではビジネスの利益を減らす要素として、以下の5つに分類しています。

ファイブフォースとは企業の利益を減らす5つの力

現代までの企業とそのビジネスが歴史で起こった利益の減少は、全てこの分類のいずれかにあてはまるのです。

次にこれら分類をそれぞれ解説していきます。

ファイブフォース①同業他社との競争

同じビジネスをする企業がたくさんあると、必ず価格競争が起こります。

価格競争で減少する売上金は、最終的には利益の減少につながるのです。

したがって業界内の競争が激しいビジネスは、投資家にもたらす利益も少なくなるのです。

【事例】:ドラッグストア業界

ドラッグストア業界では様々な企業が積極的に出店し、価格の安さをアピールしています。

業界としては拡大傾向ですが、利益の削り合いをしているのが現状です。

ファイブフォース②新規参入企業の可能性

ある企業が行っているビジネスが、誰もが簡単に始められるビジネスだとします。

さらにそのビジネスが利益を出しやすいものであれば、間違いなく新規参入が起こります。

新規参入企業は価格の安さで消費者にアピールして、先行する企業からシェアを取ろうとします。

すると先行していた企業は、新規のライバルに合わせて値下げせざるを得なくなります。あとは①と同じように利益が減り、投資家へのリターンも減少するのです。

【事例】:スマホアプリ・ゲーム業界

スマートフォンアプリは、比較的少額の投資で開発することができます。

また、維持や管理も比較的容易なので、人気アプリを開発できれば高い利益率になるのです。

しかし特別な権利や特許が無いことが多く、すぐに他社から同様で格安なアプリがリリースされます。

ファイブフォース③買い手との交渉力

企業の商品やサービスを購入する買い手(消費者)が少ないと、買い手は購入先を選ぶ余地が出ます。

すると買い手は価格や性能を比較して、よりお買い得なものを選ぶものです。

また商談時に、他社の価格を提示して値下げを求めることもできます。

販売する企業も限られた買い手を取り逃がすわけにいかず、値下げに応じざるを得なくなります。

そして投資家にはリターンを我慢してもらうことになるのです。

【事例】:自動車保険業界

自動車保険業界は、かつて顧客とセールスマンの交渉で取引が成立することがほとんどでした。

そのため顧客は、セールスマンが提示する情報のみで購入を判断していたのです。

ところが近年はインターネットが普及し、誰もがすぐに様々な保険会社を比較することができるようになりました。

これは買い手の交渉力が強くなったことを表します。その影響で割高と判断された保険商品は売れなくなり、保険業界の利益は少なくなっていったのです。

ファイブフォース④仕入れ先との交渉力

これは③とは逆の理屈で起こります。多くの場合、商品やサービスを販売できる状態にするために、必要な素材や器具があるものです。

もしこれらの材料や装置が、限られた産地やメーカーからしか手に入らないとすればどうなるでしょうか。

おそらく資源を産出する側や素材をつくる側が、価格を決める力が強くなります。

仕入れる企業は、多少割高な見積もりを提示されても買わざるを得なくなるのです。

値上げした原価を販売価格に上乗せできなければ利益が削られ、投資家は割を食うことになります。

【事例】:特殊品のメーカー

日本には独自の高い技術力を武器に、他では真似できない製品を作るメーカーが多数あります。

ところが製品を作るために必要な原料を、海外からの輸入に頼っていることが多いのです。

中には原産地が限られているいわゆる「レアメタル」が必要な製品もあります。これらの企業は、仕入れ先を気安く乗換えることができません。したがって仕入先は、高い価格で交渉しやすくなるのです。

ファイブフォース⑤代替品の出現可能性

多大な需要に支えられているビジネスでも、それに代わるより便利なものが現れると買い手は減り、利益も落ちていきます。

代替品の出現は、ファイブフォース分析では意外に見落とされがちな要素です。

なぜなら代替品の出現は徐々に大きくなることが多く、対処が手遅れになりやすいからです。

これまでも一時は栄華を極めたビジネスが、技術の革新や社会の変化によって衰退していきました。その事例として以下のようなものがあります。

【事例1】:デジタル化によって衰退したフィルムカメラ市場

フィルムカメラが主流だった時代、カメラやフィルム、そして写真に現像する装置が大きな市場を作っていました。

ところがデジタルカメラが急速に普及したため、フィルムカメラと現像装置の市場は急速に衰退したのです。

【事例2】:インターネット通販に市場を取られた各種小売業界

インターネットの普及に伴い、買い物をインターネットですることが一般的になりました。

さらにインターネット購入でも価格が変らず、場合によっては格安なケースも多くなったのです。

この影響でこれまで一般的な販売方法であった小売店やカタログ通販業界は、大きな痛手を受けました。

特に配送が容易な書籍や家電業界は、業界を再編せざるを得なくなったのです。

長期保有目的の投資家は①~④の現状分析+⑤で将来の様々な可能性を分析

では、長期保有を目指す投資初心者がファイブフォース分析を活用するポイントはどのようなものでしょうか。筆者が提案する方法は以下の通りです。

ファイブフォースを用いたおすすめの分析方法

このような視点でファイブフォース分析を用いることで、より確信を持った投資判断を行うことができるのです。

そしてこの分析作業を投資前はもちろん、投資を行った後でも定期的に分析することをお勧めします。

長期間の投資の場合、①~④に関しては競争が激しくても市場が拡大するのであれば、その恩恵をこうむる可能性は高くなります。一方で⑤は、現状のビジネスを致命的に縮小させる力があります。

さらに代替品は同業ではないビジネスでも、社会的な風潮や流行によって拡大する可能性があります。

したがって長期投資を行う場合は、社会的な動向を見守りながら投資先のビジネスが衰退する危険性を察知する必要があるのです。

ファイブフォース分析を用いて個人投資家に人気の企業を分析しよう

最後に日本の上場企業を用いてファイブフォース分析を行います。

今回選んだ企業は【2914】JTと【4661】オリエンタルランド【9022】JR東海です。3社は日本でも個人投資家に人気のある有名企業です。さらに3社は価格競争において、以下のようなイメージがあります。

・JTは国内タバコで高いシェアで価格も値上げする

・オリエンタルランドは運営する東京ディズニーリゾートで他の追随を許していない

・JR東海は東海道新幹線で圧倒的な存在感がある

このような特徴を持つ3社でもファイブフォース分析を用いることで、思いもよらぬリスクが潜んでいることが分かるのです。そしてリスク対処をどのようにしているかの理解も深まります。

以下では両社のファイブフォース分析で見た利益減少のリスクと、リスクに対する対処を筆者の見解として解説します。

オリエンタルランドは常に代替品の台頭に注意

オリエンタルランドは常に代替品の台頭に注意

オリエンタルランドは、東京ディズニーリゾートを運営する会社です。

高いブランド力で国内外から高いリピート率をあげています。

日本屈指の人気リゾートに、利益を揺るがすスキはあるのでしょうか。

同業他社は多数、新規参入も容易だがブランド力の高い壁

同社は、アミューズメントパーク事業と周辺のホテルやサービス事業をしています。

設備投資に大きな資本が必要なビジネスです。しかし、特別な権利や特許が必要なビジネスではありません。したがって大型資本による新規参入は難しくないビジネスです。

一方で同社の持つキャラクターブランドと、アミューズメントパークとして培ってきたサービス力は、総じて高いレベルを維持しています。

組織全体で築き上げたブランドに匹敵するアミューズメントパークを作るのは簡単ではありません。

人口減少社会でも魅力高める設備投資

同社の買い手である日本国民は、減少傾向にあります。

買い手が絞られることは利益削減の要素です。それに対して同社は、リピーターを飽きさせない投資を常に行っています。

そして顧客一人当たりの売上高は上昇傾向にあるのです。

また、外国人観光客の来園にも力を入れ始めています。

同社のデータによると来園者全体の外国人比率は2011年では1.3%だったのが、2018年には9.8%にまで上昇しているのです。

仕入先も同社は外すことのできない顧客

仕入先は主に、遊園地などの設備関連会社や販売物のメーカーや卸売業者です。

同社の園内で扱う商品は、それだけで通常よりも高い価格で販売することができます。

そのため仕入先にも高いマージンが入ると考えられるのです。

したがって仕入先は、不当に価格を上げて他社に切り替えられることを避けると言えます。

「休日の過ごし方」が変わる可能性

同社の代替品とはどのようなものが考えられるでしょうか。

そのヒントとして「休日を数万円使って楽しむことができること全て」というものがあります。

もし皆さんが休日に数万円のお金を使って遊ぶとき、どんな予定を立てますか?

子供がいる家族連れやカップルなど、「東京ディズニーリゾートに行く」とおっしゃる方も多いでしょう。

しかし昨今、選択肢は他にもあります。そしてその選択肢は時代の変化とともに変わっていく可能性があるのです。

もし同社への投資を行うのであれば、休日の過ごし方についての流行や動向をチェックされることをお勧めします。

JTは買い手の減少リスクはあるが全体的なリスクは少ない

JTは買い手の減少リスクはあるが全体的なリスクは少ない

JTのメインビジネスはタバコの製造・販売です。タバコビジネスをファイブフォース分析すると以下のように考えられます。

同業他社の新規参入リスクは低い

同社は国内では60%以上のシェアを確保しています。

マーケティングでは過半数のシェアがあると、その地位はゆるぎないというのが一般的です。

そしてその高いシェアは、同業の新規参入も困難にする力があります。

買い手は国内で縮小するため海外に活路

ところで日本や先進国では、タバコの有害性が注目されています。

また日本においては、すでに人口減少社会です。これら買い手の縮小は利益削減につながります。

それに対して同社は、海外に活路を見出しています。早くから海外のタバコ企業を買収し、高いシェアを確保してるのです。

また先進国以外ではタバコの需要は高く、人口も増加傾向が続いています。

売り手もJTに頼る傾向

国内の高いシェアは仕入先との交渉力も強くすることができます。

タバコに直結したビジネスを行う仕入先にとって同社との取引が無くなることは、致命的になるからです。

大麻解禁は代替品となりうる

では、タバコに取って代わる存在は何かあるのでしょうか。

アルコールも代替の要素がありますが、すでに大きなマーケットを有しています。ところで海外では大麻を合法化する流れがあるのです。

もし大麻が合法化されると、大麻の価格は下落します。その時に同社のタバコビジネスに致命的なダメージを与える可能性があるのです。

JR東海はライバルとの競争はあるが代替品は自ら開発中

JR東海はライバルとの競争はあるが代替品は自ら開発中

JR東海は旧国鉄の分割民営化に伴い、企業としての道を歩み始めました。同社は主に東海地区の旧国鉄路線を引き継ぎ、新幹線に関しては東海道新幹線全線(東京~新大阪)を運営しているのです。

在来線は有力なライバルの存在、新幹線もライバルは多数

同社在来線の中心である名古屋周辺には、名鉄・近鉄という大手私鉄が路線を有しています。

名鉄は周辺地域に緻密な路線網があります。そして近鉄は、三重県方面では優勢なポジションにあるのです。

したがって同社が在来線で利益を高めることは、ハードルが高いと言えます。

東海道新幹線では、高速バスと飛行機がライバルになります。

また名古屋~大阪間では、近鉄も直通特急を営業しています。これらサービスは、新幹線より格安な価格設定をすることでシェアを確保しようとしているのです。

同社はその対策として、格安の切符を発売しています。これは同社の利益を削減させている要素だと言えるのです。

格安輸送手段からの新規参入が多い

鉄道会社は設備投資に大きな資本と時間が必要です。

そのため、容易に新規参入することはできないと言えます。

一方で航空会社では格安航空会社が台頭し、新幹線のシェアを取ろうとしています。またバス会社でも新幹線が営業しない深夜帯を中心に、シェア獲得を狙っているのです。

日本の3大都市圏でも人口減少の影響がありうる

日本では人口減少は受け入れざるを得ない課題です。同社の新幹線は3大都市圏を結びますが、今後利用者数が減ることが予想されます。

すでに様々な移動手段がライバルにいるので、利益の削減は同社にも及ぶ可能性があります。

特殊な部品によっては仕入れ先が強い可能性

同社は、鉄道車両や設備の維持や開発に大きなお金を要すると考えられます。

また新幹線では、最先端の技術が多く使われているとも言えます。

筆者の推察ですが、最先端の技術を生み出すために特殊な部品や素材を用いていれば、その仕入れ先との交渉で不利になり、利益を減らす原因になると言えるのです。

次世代の移動手段は同社が率先して開発中

では新幹線に取って代わる移動手段はありうるのでしょうか。

今注目されている移動手段に、リニアモーターカーがあります。

リニアモーターカーが開業すれば、新幹線は主役の座を降りざるを得なくなります。

ところがリニアモーターカーの開発は、同社が主導で行っています。したがって同社のビジネスにおける代替品で利益を損なう可能性は低いと言えるのです。

まとめ:ファイブフォース分析を活用しよう

今回は、経営分析手法であるファイブフォース分析を株式投資に用いる方法について解説してきました。

株式投資をすると、投資先に対して様々な期待や不安を持つものです。

そのような時、ファイブフォース分析をすることで企業の持っている問題と、その程度を整理することができます。

多くの人が企業に対して正しい評価をして、健全な投資ができるようになることを願っております。

※投資はあくまでも自己責任となります。利益を保証するものではありませんので、ご注意ください。

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