国の年金制度を活用しながら、自分でつくる年金、それが確定拠出年金です。毎月一定の金額を積み立て、運用し、60歳以降に年金や一時金として受け取ることができます。

ただし、この確定拠出年金を調べると、「60歳になるまで、引き出せない」と注意書きが書かれています。

今回は、もしお金が必要になったときに、確定拠出年金に頼ることができるのか、途中解約できるのかについてご説明していきます。

確定拠出年金は解約可能?

まずは、確定拠出年金についておさらいしておきましょう。

押さえておきたい「確定拠出年金」のこと

確定拠出年金は、加入者が毎月一定の金額を積み立てて、あらかじめ用意された定期預金・保険・投資信託などの金融商品で自ら運用し、60歳以降に年金または一時金として受け取ることができる年金制度です。ただし、金融商品の運用結果によって、受け取る年金額は変わってきます。

また、税金面で以下のメリットがあります。

・積立金額が「所得控除」の対象になる

・運用で得た利益については、「非課税」になる

・受け取るとき(給付)には、「公的年金等控除」「退職所得控除」の対象になる

また、確定拠出年金には、自分で加入する個人型と会社が「年金(退職金)制度」として導入する企業型があります。

個人型確定拠出年金(iDeCo)

確定拠出年金法に基づいて加入できる私的年金の制度です。この制度は自分の意思で申し込み、掛金を自ら決めた商品で運用し、60歳以降に掛金と運用によって得られた利益を年金や一時金として受け取ることができます。

基本的にiDeCoは、2017年1月から20歳以上60歳未満の全ての人が加入することができるようになりました。

しかし、例外があります。

会社員の方は、勤務先で企業型の確定拠出年金に加入している場合、企業型年金規約で個人型確定拠出年金(iDeCo)に同時に加入してよい旨を定められていなければ、iDeCoに加入することはできません。従って、会社員の方はご自身が同時加入できるのかをまず確認しましょう。

また掛金は、月額5000円からスタートすることができ、1000円単位で上乗せできます。

ただし、年間上限金額が決まっており、上限金額は職業ごとに以下のように定められています。

1.自営業者等                      68,000円(月額)

※ 国民年金基金の限度額と枠を共有

2.厚生年金保険の被保険者のうち

 〔1〕厚生年金基金等の確定給付型の年金を実施している場合 12,000円(月額)

 〔2〕企業型年金のみを実施している場合          20,000円(月額)

 〔3〕企業型年金や厚生年金基金等の確定給付型の年金を実施していない場合

(下記〔4〕の方を除く)               23,000円(月額)

 〔4〕公務員 12,000円(月額)

3.専業主婦(夫)等                    23,000円(月額)

出典:iDeCoの概要|厚生労働省
http://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/nenkin/kyoshutsu/ideco.html

企業型確定拠出年金(企業型DC)

企業型確定拠出年金は、企業が掛金を毎月積み立て(拠出)し、従業員(加入者)が自ら年金資産の運用を行う制度です。

従業員が自動的に加入する場合と、企業型確定拠出年金に加入するかどうかを選択できる場合があります。

こちらも、金融商品による運用を行います。そして定年退職を迎える60歳以降に、積み立てた年金資産を一時金(退職金)か年金かを選んで受け取ります。

掛金の金額は、企業によって制度設計が変わってきます。役職などによって決めるケースもありますが、確定拠出年金制度の上限額が定められています。

1.厚生年金基金等の確定給付型の年金を実施していない場合

55,000円(月額)

(規約において個人型年金への加入を認める場合、35,000円(月額))

2.厚生年金基金等の確定給付型の年金を実施している場合

27,500円(月額)

(規約において個人型年金への加入を認める場合、15,500円(月額))出典:確定拠出年金制度の概要|厚生労働省
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/nenkin/nenkin/kyoshutsu/gaiyou.html

解約は可能だが資産が全額戻らないケースも

注意書きでは、原則60歳まで解約(脱退とも呼びます)できないと書かれていますが、脱退するための制度自体は準備されています。しかし、解約自体が可能でも、それに伴うデメリットがあります。

資産が減ってしまうこともある

確定拠出年金自体の特徴ですが、脱退一時金は、拠出した金額を運用した結果となりますので、運用実績によっては、拠出額より少なくなる場合があります。

税金の優遇を受け取れなくなることがある

また、税制上の優遇措置を受けられない場合があります。

もともと、確定拠出年金は受け取るときは、「公的年金等控除」「退職所得控除」の対象になっていましたが、脱退一時金は名前の通り、途中受け取りの「一時所得」となります。

一時所得は、

一時所得ー 収入を得るために支出した金額(拠出金額)-特別控除額(最高50万円)

=一時所得の金額

となります。

この一時所得は、脱退一時金だけでなく、 生命保険の一時金や損害保険の満期返戻金、法人から贈与された金品などを含みますので、他の一時所得があった場合に、税金がかかってくることがあります。

もし、 一時所得が、50万円以上を超えた場合は、必ず確定申告が必要となってきます。

出典:No.1490 一時所得|国税庁
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1490.htm

確定拠出年金の解約で貰える「脱退一時金」とその条件とは?

次に、確定拠出年金の解約でもらえる「脱退一時金」とその条件について、解説します。

脱退一時金って何?

確定拠出年金は、原則途中で引き出すことはできませんが、脱退要件を満たすことで、積み立てた資産を脱退一時金として受け取ることができます。ただし、個人型、企業型によって、脱退一時金を受け取れる条件が異なります。

個人型の脱退一時金を受け取る5つの条件

個人型の確定拠出年金を脱退し、資産を一時金として受け取りたいときには、以下の条件をすべて満たさなくてはいけません。

①国民年金保険料免除者であること

②障害給付金の受給権者でないこと

③掛金の通算拠出期間が3年以下であること(退職金等から確定拠出年金へ資産の移換があった場合には、その期間も含む)又は資産額が25万円以下であること

④最後に企業型又は個人型年金加入者の資格を喪失した日から起算して2年を経過していないこと

⑤企業型確定拠出年金による脱退一時金の支給を受けていないこと

企業型の脱退一時金を受け取る3つの条件

企業型の確定拠出年金を脱退し、資産を一時金として受け取りたいときには、以下の条件をすべて満たさなくてはいけません。

①企業型年金加入者、企業型年金運用指図者、個人型年金加入者及び個人型年金運用指図者でないこと

②資産額が15,000円以下であること

③最後に当該企業型年金加入者の資格を喪失してから6カ月を経過していないこと

出典:確定拠出年金制度の概要|厚生労働省
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/nenkin/nenkin/kyoshutsu/gaiyou.html

脱退一時金はいくら貰える?計算方法を押さえておこう

受け取れる脱退一時金については、以下の計算方法で簡単に計算できます。

脱退一時金=年金資産額(拠出金合計+運用損益)-手数料

運用損益ですので、マイナスになる場合もあります。

手数料は、加入している運営管理機関によって違いがありますので、各機関に確認しておきましょう。

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確定拠出年金が解約できなくてピンチ!掛金を支払えない時の対策

企業型確定拠出年金の場合、掛金は給料から天引きされます。また個人型確定拠出年金であれば、個人の銀行口座などから引き落としとなります。

ただ、収入の減少や思わぬ出費によって、家計が圧迫され、拠出がむずかしくなるケースもありえます。

そんなとき、確定拠出年金を解約したいと思う方もいるかもしれませんが、前述のように厳しい条件もあり、またデメリットも大きいことから、解約せずにすませる方法も考えたいものです。現在の掛金が支払えなくなったときの対策を確認しておきましょう。

確定拠出年金の掛金を変更する

そもそも支払っていた掛金が高く、生活を圧迫している場合は、掛金を見直しましょう。確定拠出年金の掛金は、1年毎に変更することができます。

出典:掛金の取扱について|iDeCo公式サイト
https://www.ideco-koushiki.jp/library/#archive_cateogry_cat

加入者から運用指図者に変更する

掛金を最低額に下げても支払い自体が難しいときは、「運用指図者」に変更しましょう。

運用指図者とは?

加入者は、毎月掛金を支払う人のことを指します。運営指図者は、掛金を支払う必要がなく、これまで拠出している額だけを使って運用をする人のことを指します。

例えば、企業型確定拠出年金であれば、60歳になり加入資格を失くした人や個人型確定拠出年金で、掛金を拠出できなくなった人が当てはまります。

運用指図者の手続き方法

運用指図者になるには、「加入者資格喪失届」を運営管理機関に提出します。この書類を提出すると、加入者から、運用指図者になり、今まで拠出した掛金だけで運用することができるようになります。

しかし、運営指図者になったとしても、事務委託先金融機関業務に関する手数料・運営管理手数料・信託報酬は払わなくてはいけません。

確定拠出年金の解約方法手続き方法は?

最後に、解約方法の手続きについて、説明しておきます。

解約手続きに必要な書類

解約に必要な書類は、おおむね以下の書類になります。

・脱退一時金裁定請求書(運営管理機関に問い合わせてください)

・受給権者の印鑑証明書等の本人確認書類

脱退一時金の請求先

脱退する場合、入っている確定拠出年金によって、請求先に違いがあります。

企業型確定拠出年金の資格を喪失してから6カ月以内の人

→ 企業型確定拠出年金加入時の記録関連運営管理機関

出典: 企業型記録関連運営管理機関への脱退一時金請求|iDeCoポータル
http://www.jis-t.kojingata-portal.com/retirement/secession/rk.html

企業型DCの資格を喪失してから6ヶ月を経過している人

→国民年金基金連合会(特定運営管理機関)

出典: 国民年金基金連合会(特定運営管理機関)への脱退一時金請求|iDeCoポータル
http://www.jis-t.kojingata-portal.com/retirement/secession/kikin.html

iDeCo(個人型確定拠出年金)に加入している方

→現在加入しているiDeCoの記録関連運営管理機関

最後に

「確定拠出年金って解約できないの?中途脱退で返金は可能なのか?」いかがだったでしょうか。

今回は、

・確定拠出年金は原則中途解約ができない

・中途脱退するには、条件がある

・脱退する場合は、税金の優遇がなくなるなどデメリットがある

・掛金の拠出が難しいのなら、掛金の見直しや運用指図者になることもできる

・脱退手続きは、管理している運用管理機関へ「脱退一時金裁定請求書」を提出する

についてまとめました。

公的年金だけでは、将来の生活設計が不安な時代となりました。税制優遇などメリットが多い「確定拠出年金」を賢く使って、「自分年金作り」に取り組みたいものです。

ただ、そのために今の生活を犠牲にしては本末転倒となってしまいます。まずは無理のない範囲で掛け金を設定しましょう。

そして、もし支払いがきつくなったときは、デメリットの多い「解約」は、“最後の手段”と考え、まずは掛金の減額、運用指図者への変更など、60歳以降の生活資金を確保できる方法を考えてみましょう。

監修者:荒川 雄一(ファイナンシャルプランナー)