賃貸物件の契約を結ぶ際に発生する「仲介手数料」。この費用について正しく理解していますか?初期費用の中の大きな負担のひとつとはいえ、「何のために支払っているか」答えられる方はごく少数です。

ここでは仲介手数料の基本から、初期費用の節約テクニックにいたるまで、賃貸借契約に臨む前に学んでおきたい事項についておさらいします。

仲介手数料はなぜ必要?

賃貸借契約時に発生する初期費用のうち、意外と侮れないもののひとつに「仲介手数料」があります。そもそも、この仲介手数料とは、具体的に何を指すのかご存知でしょうか?

ここでは、賃貸の仲介手数料の基本の「き」からおさらいしていきましょう。

賃貸の仲介手数料とは?

仲介手数料とは、貸主である大家と借主である入居者の間に立つ不動産会社へ支払うお金のことをいいます。賃貸物件において、両者の仲介の役目を果たしたうえで契約に至ったとき、成功報酬として借主側から支払われるものです。

仲介手数料の仕組み:仲介手数料とお金の流れ

こうは言っても、なぜ不動産仲介業者に手数料を支払わなければならないのか疑問に感じる方もいることでしょう。

考えてみてください。賃貸借契約をするためには、条件に合った物件を探したり、内見をしたり、いい物件があれば申し込みをして、審査の末に承認が下りれば契約手続きをしたり…と、段階ごとに相応の手間が生まれますね。これらすべてをご自身でおこなうというのは現実的に難しいでしょう。そこで不動産会社を挟むと、私たちの物件探しをいろんな面でサポートしてくれます。

具体的には、借主の希望に沿った物件の候補出しや、内見の手続きや同行、審査や契約書類の準備・手続き、時には貸主サイドとの交渉なども業務に含まれます。

理想の物件探し~契約にいたるまで、不動産仲介業者はいわば借主と二人三脚で進めてくれる頼もしいパートナーなのです。

仲介手数料のお金の流れとしては、仲介業者が物件の賃貸管理をおこなっているか否か、という要素で異なります。賃貸管理をしている物件Aで成約したケースでは、貸主(大家)と借主(入居者)双方から仲介手数料を受け取ることができます。賃貸管理をしていない物件Bを紹介し、成約したケースでは、受け取れる仲介手数料は借主(入居者)が支払うもののみとなります。

仲介手数料の有無は不動産業者の良し悪しとは無関係

昨今では「仲介手数料が無料」と謳っている不動産仲介業者もも少なくはありません。初期費用が安くなるならメリットしかない、と飛びつく人もいれば、何か裏があるのではないか?と訝る方がいるのも事実。では、仲介手数料の有無は不動産業者の判断材料になり得るのでしょうか?

答えは、「無関係」でしょう。なぜなら、宅建業法にあたる「仲介手数料」の定義があいまいで、仲介手数料を取らずして別のところで費用を徴収しているようなケースも散見されるからです。詳しくは後述します。

まずは仲介手数料の金額に惑わされず、本質を見極める目を養うのが何よりも大切といえるでしょう。

仲介手数料のルールと最近の傾向

仲介手数料は、何も不動産会社の言い値で金額が決まるわけではありません。実は、費用の割合から条件にいたるまで、法律においてきちんと取り決めがあるのです。

仲介手数料の上限:賃貸の場合は1カ月分相当まで

宅建業法では、賃貸借契約において貸主・借主双方を合計して賃料の1カ月分相当額を上限として受領できる、と定めがあります。(出典元:国土交通省「宅地建物取引業者が宅地又は建物の売買等に関して受けることができる報酬の額」)また貸主の承諾を得ている場合を除き、双方からそれぞれ0.5カ月分を受け取ることとも記載があります。

ただし、現場では貸主の承諾を前提に、借主が上限いっぱいの1カ月分相当額を徴収されているケースが少なくありません。この場合、不動産会社は貸主(大家)から仲介手数料を一銭も受け取れないことになります。

仲介手数料は賃貸借契約が成立して初めて発生

仲介手数料は、先にも解説したように成功報酬型の手数料です。たとえ不動産業者が多くの時間を割いてサポートをしても、それが最終的に契約までいたらなかった場合、費用は発生しません。

逆にいえば、賃貸借契約が成立した暁には定められた手数料をきちんと支払うわけですから、それまでの間のサポートには遠慮なく頼ってしまっても、後ろめたさは何もありませんね。理想の物件探しのため、フル活用してしまいましょう。

賃貸契約の多様化:仲介手数料以外にも確認すべき契約条件

賃貸借契約においては、初期費用は大きな負担です。その負担を少しでも軽減できるのであればと、仲介手数料無料の物件に目が行ってしまう心理もわかります。しかし、それでは物件の候補範囲を自ら狭めていることに他なりません。

最近では賃貸物件市場の多様化により、あらゆる手段でコスト削減を提唱する物件が増えています。例えば、「フリーレント」や「敷金・礼金ゼロ」など。

フリーレントは家賃が最初の1~3カ月程度無料になる制度。対して敷金・礼金ゼロはその名のとおり、契約時の敷金と礼金が軒並み発生しないことをいいます。いずれも家賃の1カ月分以上は浮く計算になりますので、初期費用の減額に一役買うことになりますね。

初期費用は、トータルコストで考えましょう。

仲介手数料が無料の理由

先に「仲介手数料を取らずして別のところで費用を徴収しているようなケースがある」と触れましたが、具体的にはどんなカラクリがあるのでしょうか。見てみましょう。

貸主側が仲介手数料を支払っている

仲介手数料の上限の項で触れたように、仲介手数料は総額で賃料の1カ月分という取り決めがあり、それを貸主・借主どちらへ請求するかについては、明確に定められていないのが現状です。このことから、貸主側が全割合を支払っている可能性も十分にあります。

貸主側は仲介手数料を払ってでも空き部屋を埋めたい

では、なぜ貸主側があえて仲介手数料を全額支払うような事態に発展するのでしょうか?それは「空室になるくらいなら、手数料を支払ってでも借主を早く見つけたい」という貸主側の考えが背景にあることが多いようです。

昨今は賃貸物件が溢れており、借主は豊富な選択肢の中から自由に物件を選択できる状況にあります。これは貸主側からいえば、空室のリスクを助長させる結果となり得ます。そこで、少しでも入居希望者を増やすべく、「仲介手数料無料」を謳って心象をよくしようとしているわけですね。

仲介者不在(貸主が仲介業者を兼ねている)場合

基本的に、仲介手数料というのは貸主と借主の間に立って物件を媒介(仲介)することで請求できる費用をいいます。そのため、不動産会社自体が管理している「自社管理物件」で賃貸借契約が成約したケースでは、「媒介」に当たらないため、そもそも仲介手数料の請求権が発生しないということになります。

相場よりも家賃が高い場合

中には、地域や間取りに対して家賃が相場より比較的高い場合、賃料から算出される初期費用が必然的に高くなることから、全体のバランスをみて敢えて仲介手数料を設定しない物件もあるようです。

仲介手数料無料で入居者の目を引き、実態はそこまで割安ではないというケースに相応しますね。その物件の家賃が適正かどうか、という目線でも吟味する必要があるといえます。

実は損?仲介手数料無料に惑わされずに比較しよう

仲介手数料が無料になるカラクリについて理解できたとしても、どうしても魅力に思えてしまうのが人間です。では、「仲介手数料無料」がデメリットになり得る真相について、もう少し掘り下げていってみましょう。

仲介手数料なしのデメリット

仲介手数料無料のデメリットには、大きく3つが挙げられます。

礼金が高めに設定されている可能性

本来は支払う必要のない費用ですが、貸主から「広告費」という名目で受け取る不動産会社があります。そしてこの広告費は、借主から貸主へ支払われた礼金がそのまま充てられていたりします。

つまり、大家に請求される広告費の原資を、結局は借主が負担しているケースもあるということになります。これは借主側からしてみれば、仲介手数料を支払っていることと費用面で大差ありませんよね。

この背景から、最終的に不動産会社の取り分となる以上、高めの金額設定とする業者も多いです。また礼金という形としてであれば、仲介手数料の上限にも影響されませんので、「賃料2カ月分」としても法には触れないことになります。

月々の家賃が高い可能性

たとえ仲介手数料なしを謳っていても、総額でいくらでも調整が利くのが、賃貸借契約の恐いところです。賃貸物件にまつわる費用にはさまざまあり、家賃や共益費・礼金でバランスを取ることもできるというのが、不動産業界の実態といえるでしょう。

選択の幅が狭まる

それでも事情によっては、「初期費用をできるだけ抑えたい」という希望もあるでしょう。そういう方にとっては、仲介手数料無料は確かに理にかなった選択肢です。

ただ、賃貸物件市場がいくら多様化しているとはいえ、仲介手数料無料の物件は未だ選択肢が乏しいのも事実。それに絞って選ぶのであれば、物件の選択肢が相当に狭まることは覚悟しなければなりません。

仲介手数料だけじゃない!一定期間家賃が無料のフリーレントも

初期費用を抑える方法としては、仲介手数料無料だけでなく、フリーレント物件をチョイスするという選択肢もあります。最近ではフリーレント物件も増加の傾向があるため、仲介手数料無料とともに条件に加えれば、選択肢は2倍以上に拡がる可能性もあります。

フリーレントは、入居当初の数カ月間の賃料を無料にする制度です。期間は物件や管理会社により異なりますが、おおむね1~3カ月間が平均的です。

長期的に見てトータルで安いか高いかを考えよう

初期費用の節約にばかり目がくらむのはわかりますが、大事なのは先々のコストを含めて総体的に判断する姿勢です。「賃貸借契約を結ぶ2年間の総額で支払う費用」と見比べて、結果的にどちらが得なのか?という目線で物件を選択しなければ、失敗の原因になってしまうかもしれません。

まとめ

仲介手数料という制度や、その意味においても時代とともに少しずつ変化してきています。仲介手数料だけにとらわれず、総合的に目利きするためには「仲介手数料の仕組み」の本質を理解しておくことが肝要です。この記事での学びがあなたにとってプラスとなれば幸いです。

客観的な目線を忘れず、ご自身にぴったりな選択をしていけるといいですね。