公的年金は老後資金の大きな柱です。しかし、「これくらい受給できるはず」と思っていた金額から減額されてしまうことがあります。国民年金保険料の未納期間や、繰り上げ受給、そして在職老齢年金などが原因です。「こんなはずじゃなかった」と思わなくて済むよう、それぞれの原因を知り予防と対策について把握しましょう。

年金受給額が減額される原因

年金受給が満額支給から減ってしまうのには、大きく3つの理由があります。1つ目は、加入月数に応じて支給額が決まる国民年金で、過去に国民年金保険料の未納があった場合です。

2つ目は、厚生年金を受給しながら企業で働く場合の年金減額制度にあてはまる場合です。3つ目は65歳より早くに年金を受給しようとする場合です。

過去に未納があった

老齢基礎年金は、20歳から60歳になるまでの40年間(480カ月)の全期間保険料を納めた方に満額支給されるものです。未納期間があると、その期間に応じて受給額が減額されます。厚生年金保険料と違い、国民年金保険料は自分で納付するので未納が起こりやすくなります。原則として、保険料の納期限から2年間が過ぎてしまうと、時効により保険料を納められなくなるので注意が必要です。

学生申請の不備で未納

老齢基礎年金を満額受給するには、20歳から保険料を納める必要があります。学生でも国民年金への加入手続きが必要で、20歳の誕生月の前月か当月上旬に日本年金機構から届く「国民年金被保険者関係届書」を、お住まいの市区町村や年金事務所に提出します。加入手続きを怠り、保険料を納付しないと未納期間が生じてしまいます。

もし、学生本人の所得が低く保険料が納付できない場合には、学生納付特例制度があります。申請すれば納付は猶予されますが、10年以内に追納しないかぎり受給額には反映されません。

また、1991年3月以前の学生の国民年金加入が任意だった時期に保険料を払っていない方も、その分受給額が減ることになっています。

転職で未納

転職する際、転職前後のどちらの厚生年金にも入っていない期間は、国民年金に加入する手続きが必要です。保険料をどこに支払うかは、退職した日の次の月末時点で国民年金と厚生年金のどちらの被保険者であるかによります。

国民年金に納付すべき保険料があるのに払っていないと未納期間が生じます。会社を退職する際、特に退職日のチェックは必要です。月末の前日が退職日の場合、喪失日は月末となり、その月は国民年金の加入が必要となります。

結婚で未納

勤め先の厚生年金の被保険者が結婚で退職して、その厚生年金の加入者ではなくなるときも注意が必要です。結婚相手が厚生年金被保険者で、その扶養に入るときには相手の勤め先で手続きをする必要があります。

厚生年金の扶養の条件に年収130万円未満というものがあります。これを超える方は厚生年金の扶養になれないので、自分で国民年金に加入する必要があります。また、結婚相手が自営業やフリ-ランスで国民年金加入者である場合、国民年金には扶養というしくみはないので配偶者も国民年金に加入します。これらの手続きを適切に行っていないと未納期間が生じる恐れがあります。

定年しても働いている

後で詳しく述べますが、60歳を過ぎても企業で働いていて、企業からの報酬と老齢厚生年金の両方を受け取っている方は、その合計額が一定額を超えると老齢厚生年金の一部または全部が支給停止になることがあります。

年金を繰上げ受給した

老齢基礎年金、老齢厚生年金は65歳から受けるのが原則ですが、60歳から65歳になるまでの間に支給開始を繰上げることもできます。しかし、「0.5%×繰り上げた月数」が減額され、一生減額された年金を受給することになります。

高齢者の年金減額は「在職老齢年金」が関係している?

高齢者の場合で年金額が減額される理由に、厚生年金の在職老齢年金というしくみがあります。これは在職老齢年金という名称の年金が別にもらえるわけではありません。老齢厚生年金を受給している方が企業で働いて収入がある場合、金額によっては減額される制度です。

在職老齢年金とは?

60歳以降も企業に在職(厚生年金保険に加入)しながら受ける老齢厚生年金を、在職老齢年金といいます。企業からの報酬と老齢厚生年金の両方を得ている方は、その金額によっては老齢厚生年金の全部又は一部が支給停止となります。支給停止という表現ですが、時期が来れば戻ってくるわけではありません。

年金減額となる基準

支給停止の条件や計算式は、65歳未満かどうか、ひと月当たりの年金額(基本月額)と総報酬月額相当額(毎月の標準報酬月額+その月以前の1年間の標準賞与額の総額を12で割った額)がいくらかで異なります。

65歳未満の場合

基本月額と総報酬月額相当額の合計が28万円以下であれば、減額されることなく支給されます。在職老齢年金で減額される場合、減額される金額の計算方法は4通りあります。総報酬月額相当額46万円、基本月額28万円を境目にそれぞれの上下で4通りの組み合わせが決まります。

総報酬月額相当額46万円以下・基本月額28万円以下の場合は、(総報酬月額相当額+基本月額-28万円)÷2が減額されます。

総報酬月額相当額46万円以下・基本月額28万円超の場合は、総報酬月額相当額÷2が減額されます。

総報酬月額相当額46万円超・基本月額28万円以下の場合は、{(46万円+基本月額-28万円)÷2+(総報酬月額相当額-46万円)}が減額されます。

総報酬月額相当額46万円超・基本月額28万円超の場合は、 {46万円÷2+(総報酬月額相当額-46万円)}が減額されます。

65歳以上の場合

基本月額と総報酬月額相当額の合計が46万円以下であれば減額はなく、超えると減額となります。減額分の計算は(基本月額+総報酬月額相当額-46万円)÷2です。また70歳以上で勤続している場合、厚生年金の資格は喪失しますが、上記の式はそのまま適用になります。

国民年金加入者は対象外

在職老齢年金は、厚生年金に関する制度です。国民年金加入者が対象となることはありません。

年金減額の計算方法と金額例

具体的な計算例を見てみましょう。63歳の方で、月給22万円、賞与年間96万円(12で割ると8万円)、年金月額14万円のケ-スで計算します。この方の総報酬月額相当額は22万円 + 8万円 = 30万円、基本月額は14万円です。合計額は30万円 + 14万円 = 44万円で28万円を上回るため在職老齢年金で減額の対象となります。

減額分の計算方法は、総報酬月額相当額46万円以下・基本月額28万円以下の場合の(総報酬月額相当額+基本月額-28万円)÷2なので、(30万円 + 14万円 - 28万円)÷2 = 8万円減額となります。年金が14万円受給できたはずが、8万円減額となり受給できるのは6万円となってしまいます。

65歳以上の方で、月給30万円、賞与年間120万円(12で割ると10万円)、老齢厚生年金月額16万円のケースを計算します。基本月額と総報酬月額相当額の合計が46万円を超えるので減額の対象です。65歳以上の場合の計算式にあてはめると、(40万円 + 16万円-46万円)÷2 = 5万円減額されます。なお、65歳からは老齢基礎年金が受給されますが、在職老齢年金の対象ではありません。

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年金減額を回避?!働きながら満額をもらう方法は?

在職老齢年金という制度は、企業に勤めて厚生年金保険に被保険者として加入しながら受ける老齢厚生年金が対象です。ですから、厚生年金加入と関係ない収入ならこの制度で減額されることはありません。

また、勤め先が厚生年金の適用事業所であっても働き方次第では厚生年金に加入しないこともあり、このような場合も減額対象となりません。

自営業や不動産投資の所得は減額対象外

先に述べたように国民年金は在職老齢年金と関係がないので、自営業で国民年金だった方は、在職老齢年金を理由に減額されることはありません。また、企業を退職して老齢厚生年金を受け取りながら自営やフリーランスで収入を得ている方も、厚生年金適用事業所から被保険者の立場で収入を得るわけではないので在職老齢年金は関係ありません。

不動産収入など、企業からの報酬ではない収入がある方も、その収入は在職老齢年金とは関係ありませんから減額されることはありません。

会社に勤めていても年金が減額されない人

厚生年金の被保険者は、厚生年金の適用事業所に常時使用される70歳未満の方です。常時使用されるという働き方でなければ被保険者にならないことがあります。

アルバイト・パ-ト

アルバイト・パート勤務で、勤務時間が短い場合は厚生年金の被保険者とならないことがあります。1週間の所定労働時間および1か月の所定労働日数が同じ事業所で同様の業務に従事している一般社員の4分の3未満であることが1つの目安です。

しかし、これでも条件によっては被保険者となることもあります。「週の所定労働時間が20時間以上」「雇用期間が1年以上見込まれる」「賃金の月額が8.8万円以上」「学生でない」「常時501人以上の企業に勤めている」という条件を満たした場合です。制度が複雑になりましたので、在職老齢年金を視野に入れた働き方を選択する場合は勤務先の担当者と相談するなどしておきましょう。

企業の相談役

後で述べるように企業の役員となると厚生年金の被保険者となる可能性が高いですが、相談役などの肩書で、勤務の実態が常用的使用関係でなければ被保険者とならないでしょう。社内の規定などを確認して引き受けましょう。

年金減額の対処は「個人業」と「投資」

老齢厚生年金を受給できる年齢となっても、経済的理由や生きがいのために収入を得たいと思う方も多いでしょう。在職老齢年金で年金が減額されるのを避けるには、企業との雇用関係なく働くことと、企業からの報酬以外の収入を得ることです。起業したり、フリーランスになったりしてこれまでの経験を生かすのも良いですね。

投資も1つの社会参加です。資産運用が上手くいっても年金は減額されませんから、老後の生活に組み込むことも考えてみましょう。

年金減額の可能性が高い人ってどんな人?

年齢を重ねると、単なる従業員という立場から離れる方もいます。しかし、厚生年金の被保険者から外れるとは限りません。在職老齢年金で減額される可能性が高い方も多いのです。

60歳以上で役員報酬をもらっている人

法人の代表者、役員などは厚生年金被保険者になります。普通の従業員と違って「使用されている」というイメージはありませんが、労務の対償として報酬を受けていると被保険者となります。

事業所への出勤・役員会への出席状況、従事している業務の内容や報酬などによっては、被保険者となるかどうかの判断が微妙なこともありますが、年金事務所などに問い合わせておきましょう。厚生年金の事業所で被保険者として報酬を得ていると在職老齢年金で減額される可能性があります。

事業承継で企業から報酬をもらっている人

中小企業の円滑な事業承継を支援するため、税制の優遇が設けられています。後継者が先代経営者から株式などを贈与や相続で受け取る際に贈与税や相続税がかかり、その負担が事業承継の妨げとなっていたからです。

この事業承継の優遇税制を受けるには、後継者が「代表権を持つこと」「役員であること」が要件となります。上で述べたように役員は厚生年金の被保険者となり、在職老齢年金で減額されることもあります。

法人の理事長

学校法人や医療法人の理事長も在職老齢年金の対象となります。学校法人の場合は私立学校職員共済制度に加入することになりますが、2015年から共済組合などに加入している方も支給停止の対象です。医療法人の理事長も厚生年金での在職老齢年金の対象となります。開業医で従業員5人未満のため国民年金だった方も、医療法人となると厚生年金の適用事業所となりますから要注意です。

最後に

老後の生活に公的年金は欠かせません。ところが、いくつかの理由で見込み通りの金額が受給できないことがあります。国民年金では未納期間を作らないことが大事です。繰り上げ受給する場合には、そのデメリットも十分理解したうえで慎重に判断しましょう。

在職老齢年金は働き方次第で回避できます。まずは、一般的な計算法を把握しておきましょう。個別のケースで判断に迷う場合は担当者や年金事務所に問い合わせるようにしましょう。

イラスト:三井みちこ

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