出産手当金はいつ入る?申請方法や対象期間、支給金額の計算方法を解説
妊娠・出産には何かと費用がかかるものですが、産前・産後休業(以下、産休)を取得するとこの期間は一般的に給与が支給されません。
そんなときに頼りになるのが、会社の健康保険組合や協会けんぽから支給される「出産手当金」です。
この記事では、産休中の生活を支える出産手当金の支給時期や申請方法、支給金額の計算方法について解説します。
出産手当金について理解を深め、出産時の生活設計を立てるのに役立ててください。
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出産手当金とは
出産手当金の目的や特徴について解説します。出産手当金と混同されやすい「出産育児一時金」との違いも紹介します。
出産後の生活を支える手当金
「出産手当金」とは、出産のために会社を休んだときに支給される手当金です。
労働基準法第65条では、6週間(多胎妊娠の場合は14週間)以内に出産予定の女性、または産後8週間を経過しない女性に産休を取る権利を認めています。
産前6週間と産後6週間経過後は本人希望で仕事をすることは可能ですが、産後6週間については就業禁止です。
産休を取得した場合の給与について法律上の定めはありませんが、「ノーワーク・ノーペイ」の原則より無給であるのが一般的でしょう。
産休を取らざるを得ない女性が、お金のことを心配せず安心して休業できるように設けられたのが出産手当金です。
出産手当金は、公的医療保険制度である健康保険(会社の健康保険組合や協会けんぽ、共済など)から支給されます。
ただし、夫の扶養に入っている場合には被保険者ではなく「被扶養者」になるため出産手当金の受給資格は得られません。
あくまで申請者本人(妊婦本人)が、健康保険の被保険者であることが前提となります。
支給金額は給与所得によって変わる
出産手当金の1日当たりの支給金額は直近の給与を基に計算するため、給与が高い人ほど手当金の額が大きくなります。
産休前の給与の一定割合を手当金として支給することで、産前・産後の女性の生活を保障しているのです。
後で説明する通り、いくらの出産手当金がもらえるのかは事前に計算できるので、産休中の収入をあらかじめ把握できます。
出産育児一時金との違い
出産に関して公的医療保険制度から支給されるのは、出産手当金のほかに「出産育児一時金」があります。名称は似ていますが、支給目的や支給対象者などは異なります。
出産手当金の目的は産休中の生活費を保障することですが、出産育児一時金は出産費用を補助するために設けられたものです。
出産費用は健康保険が使えないため、40万円以上かかるといわれる出産費用は全額自己負担になります。
そのため、誰でも安心して出産ができるように出産費用の相当額をカバーする出産育児一時金が支給されるのです。
出産手当金と出産育児一時金との違いはほかにもあります。主な違いは次の通りです。
出産手当金 | 出産育児一時金 | |
支給目的 | 産休中の生活費を保障 | 出産費用の補助 |
支給対象者 | 会社員や公務員など | 公的医療保険に加入する全ての女性 |
支給金額 | 支給対象者の給与や 産休の取得日数によって異なる | 子ども1人につき一律42万円(※) |
申請先 | 会社の健康保険組合や 協会けんぽ、共済組合 | 加入している公的医療保険制度 (国民健康保険を含む) |
※産科医療補償制度に未加入の医療機関で出産した場合は一律40.8万円。
会社員や公務員などは出産手当金と出産育児一時金の両方を受け取れますが、会社員の被扶養者である配偶者(夫の健康保険組合等に加入)は出産育児一時金のみで、出産手当金はもらえません。
国民健康保険の加入者も同様です。
出産手当金はいつから・どれくらい支給されるのか
出産手当金はいつから、どれくらい支給されるのでしょうか。
出産手当金の対象期間や支給金額の計算方法について解説します。
出産手当金の対象期間
出産手当金が支給されるのは、出産の日以前42日目(多胎妊娠の場合は98日目)から、出産の日の翌日以後56日目までで会社を休んだ期間です。
出産日は、出産の日以前42日目に含まれます。
また、出産予定日よりも早く生まれた場合でも、出産の日以前の42日間に対して出産手当金が支給されます。
一方、予定日よりも遅れて出産した場合、出産手当金の支給が始まるのは出産日ではなく「出産予定日」以前の42日目からです。
実際の出産が予定より3日遅れた場合は、その3日分についても出産手当金が支給されます。
予定より遅れた日数についても出産手当金が支給されるため、出産手当金の対象期間が長くなります。
出産手当金の支給金額
出産手当金の支給金額は、「手当金の1日当たりの金額」に「対象期間に会社を休んだ日数」を掛けて計算します。
出産手当金の1日当たりの金額は次の通りです。
- 1日当たりの金額 = 支給開始日の以前12ヶ月間の各標準報酬月額を平均した額 ÷ 30日 ×(2/3)
標準報酬月額は、健康保険や厚生年金保険の保険料や給付額の計算基礎として使用されるもので、毎年4月から6月までの報酬(通勤手当や残業手当などを含む)を平均して原則9月に更新します。
自分の標準報酬月額は、毎年9月ごろに会社から交付される標準報酬月額や社会保険料の通知書で確認できます。
わからなければ、勤務先の給与担当者に確認しましょう。
出産手当金の計算例
出産手当金の支給金額を、次のモデルケースを使って計算してみましょう。
- 支給開始日以前の12ヶ月の各標準報酬月額の平均:25万円
- 出産予定日:8月10日
- 実際の出産日:8月13日
まず、出産手当金の1日当たりの金額を計算します。
- 1日当たりの金額 = 25万円 ÷ 30日 × (2/3) = 約5,553円
出産手当金が支給されるのは、「出産予定日以前の42日」と「出産日翌日以後の56日」、「予定より遅れた3日」を合計して101日分となるため、支給金額は次の通りです。
- 支給金額 = 5,553円 × 101日 = 約56万円
出産手当金が振り込まれるのは出産数ヶ月後
出産手当金の申請は産休が終わって支給日数が確定してからになるため、出産手当金がもらえるのは出産してから数ヶ月後になります。
産休が終わってから、勤務先経由で会社の健康保険組合や協会けんぽに申請書を提出します。
健康保険組合などによって異なりますが、申請書の提出から出産手当金の振込までは1ヶ月から2ヶ月程度です。
たとえば、8月13日に出産して産休が終わった直後の10月9日に申請手続きした場合、出産手当金がもらえるのは11月上旬から12月上旬になります。
出産日から数えると、およそ3ヶ月から4ヶ月が経過してからです。
産前の給与日から出産手当金が振り込まれるまでの数ヶ月は無給になるため、その間の生活資金は別に用意しておくと安心です。
出産手当金の申請方法
次に、出産手当金の一般的な申請方法を解説します。産前分と産後分など複数回に分けて申請することも可能ですが、ここでは1回で申請する方法について紹介します。
勤務先によっては申請方法が多少異なることもあるため、実際の請求にあたっては勤務先の担当者と相談しながら手続きを進めましょう。
【産休前】職場に出産手当金を利用したいことを伝える
出産手当金の支給を受けるには、会社の健康保険組合や協会けんぽへの申請が必要です。
会社経由で申請することが多いため、産休に入る前に勤務先の担当者に、出産手当金を利用したいことを伝えましょう。
産休や育児休暇を取得する期間や手続き、妊娠・出産に関する福利厚生制度なども含めて、担当者との早めの相談がおすすめです。
健康保険組合などに提出する「健康保険出産手当金支給申請書」は、産休前に入手したほうが今後の手続きがスムーズに運ぶため、勤務先に備えてある申請書をもらうか、健康保険組合などから取り寄せてもらいます。
また、請求手続きは会社経由で行うのか自分で行う必要があるのかも確認しておきましょう。
【産休中】「健康保険出産手当金支給申請書」を作成する
「健康保険出産手当金支給申請書」には、請求者と医師(または助産師)、事業主の3者の記入・証明が必要です。
産休中に請求者記入欄を記載し医師の証明を取り付けておけば、スムーズに手続きができます。
医師に証明してもらうのは、出産日や出生児の数などであり産休中に証明が可能です。
入院中に医師や助産師に証明してもらい、退院時に受け取れると手続きの手間を省けます。病院によっては証明に記入代がかかることもあるようなので確認しておきましょう。
【産休後】必要書類を提出する
産休中に請求者と医師(または助産師)の記入欄を記載し、産休後に申請書を勤務先に提出します。
出産手当金の支給日初日の属する月までの12ヶ月間に勤務先に変更がある場合は、前の勤務先の情報や加入期間などを記載した書類の添付が必要です。
勤務先では、事業主が勤務状況や賃金の支給状況を証明してくれます。一定額以上の賃金が支給されていれば、出産手当金は支給されません。
事業主の証明後、勤務先から健康保険組合や協会けんぽなどに書類を提出するのが一般的ですが、自分で行う必要があれば郵送などにより申請書を提出します。
申請期限は産休開始の翌日から2年以内
出産手当金の申請期限は、産休を開始した日の翌日から2年以内です。
2年を経過した日の分は時効により請求権がなくなります。
申請を忘れないように、産休が終わったら早めに手続きをしましょう。
出典:全国健康保険協会千葉支部「第15回健康保険委員研修会 健康保険給付「出産手当金」「出産育児一時金」」
出産手当金の対象となる条件
出産一時金と異なり、出産手当金はすべての人がもらえるわけではありません。
出産手当金の対象となるには、次の3つの条件を満たす必要があります。
健康保険の「被保険者」であること
1つ目の条件は、申請者本人(妊婦本人)が勤務先の健康保険組合や協会けんぽ、共済組合などに加入(被保険者として加入)していることです。
パートやアルバイトの人も、自分で勤務先の健康保険組合などに加入していれば出産手当金の対象です。
ただし、配偶者などの扶養家族が健康保険組合などに加入(被扶養者として加入)している場合には、出産手当金はもらえません。
出産手当金は、産休によって無給になる会社員などの生活費を保障するものだからです。
国民健康保険の加入者や任意継続被保険者(会社を退職した後も2年間はそのまま健康保険の被保険者を継続できる任意継続の制度)についても、出産手当金は支給されません。
産休中に給与を受け取っていないこと
2つ目の条件は、産休中に勤務先から給与を受け取っていないことです。
産休中でも会社から給与が支給されていれば、生活費を保障する必要がないからです。
ただし給与の支払いがある場合でも、その給与の日額が出産手当金の日額より少ない場合は、出産手当金と給与の差額が給付されます。
産休中の給与については、「健康保険出産手当金支給申請書」に事業主が支給状況を記載して、健康保険組合などに報告します。
妊娠4ヶ月(85日)以降の出産であること
3つ目の条件は、妊娠4ヶ月(85日)以降の出産であることです。
出産には、早産や流産、死産、人工妊娠中絶といった場合も含まれます。
ただし、妊娠4ヶ月(85日)未満で早産や死産した場合、出産手当金は支給されません。
退職後・退職予定者の受給条件
すでに会社を退職している人や出産を機に退職する人も、次の条件をすべて満たせば出産手当金が支給されます。
退職時点で健康保険に継続して1年以上加入していること
1つ目の条件は、資格喪失日の前日(退職日)までに継続して1年以上被保険者期間(任意継続被保険者期間は除く)があることです。
被保険者期間とは、会社などに勤務して健康保険組合等に加入していた期間のことです。
つまり、1年以上会社員や公務員などとして仕事をしていれば、この条件を満たしたことになります。
退職日に出産手当金を受ける条件を満たしていること
2つ目の条件は、退職日に出産手当金を受けているか、または受ける条件を満たしていることです。
「出産手当金を受ける条件」を満たしているとは、退職日が出産の日以前42日目(多胎妊娠の場合は98日目)から出産の日の翌日以後56日目までの期間内にあるということです。
退職日当日に勤務していないこと
3つ目の条件は、退職日当日に勤務していないことです。
退職日が出産の日以前42日目(多胎妊娠の場合は98日目)から出産の日の翌日以後56日目までの期間内であっても、その日に勤務していれば「出産手当金を受ける条件」を満たしていないからです。
退職日に有給休暇を取得した場合も、出勤した場合と同様に給与が支給されるため、「出産手当金を受ける条件」を満たしません。
退職後に出産手当金をもらうには、退職日に勤務したり有給休暇を取得しないように注意しましょう。
まとめ:出産手当金は産後に支給される
出産手当金は、産休中の生活を保障するために会社の健康保険組合や協会けんぽなどから支給されます。
1日当たりの支給額は直近1年間の平均給与(正確には標準報酬月額)の約2/3で、支給されるのは出産の日以前42日目から出産の日の翌日以後56日目までで会社を休んだ期間です。
出産手当金の申請は産休が終わってからになるため、実際に支給されるのは出産してから数ヶ月後になります。
出産手当金の支給時期を確認して、数ヶ月分の生活費を準備するなど、事前に産休中の資金計画を立てましょう。
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記事監修者
マネカツ編集部
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