利上げとは何か?インフレとの関係やローンへの影響、FRBの政策をわかりやすく解説
「利上げ」とは、各国の中央銀行が過熱した景気を抑えるために実施する金融政策のことです。
利上げは、個人消費や企業業績、株価や為替など幅広い経済活動に影響を与えます。
この記事では、「利上げ」という言葉の意味や経済に与える影響、利上げを進めているアメリカの状況などについて詳しく解説します。
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この記事の目次
利上げとは
政策金利の引き上げのこと
利上げとは、各国の中央銀行が政策金利を引き上げることを指します。
政策金利とは、中央銀行が民間の銀行にお金を貸し出す際の短期金利のことです。
日本では「日銀」、アメリカでは「FRB」といったように、各国および各地域には中央銀行が存在します。
これらの中央銀行は、景気や物価の安定といった目標を達成するために政策金利を上げ下げしています。
政策金利を調整すると、世の中のお金を貸し借りするための金利が上下し、ひいては個人消費や企業の設備投資といった経済活動にも影響が及びます。
金融政策の一つ
政策金利を引き上げる「利上げ」は、主に行き過ぎた景気の過熱を抑えるために実施される金融政策です。
中央銀行が利上げを行うと、民間銀行の金利も引き上げられます。
銀行からの借入金利が上がると、企業の設備投資や個人消費が抑えられ、結果として物価の上昇にブレーキをかけられます。
なお、利上げの反対の金融政策は、政策金利を引き下げる「利下げ」です。利下げは、世の中の金利を引き下げることで景気を刺激して、経済活動を活性化させるために行われます。
つまり、景気が良い時期は利上げが実施されやすく、景気が悪い時期は利下げが実施されやすいともいえるでしょう。
利上げ・利下げをうまく使い分けながら、景気をコントロールするのが中央銀行の役割です。
利上げによる影響
住宅や車などでローンが組みづらくなる
利上げは、ローンを組むときの金利にも影響します。
住宅や車などは高価な買い物となるため、金利が0.1%変わるだけでも支払い総額が大きく変わります。
例えば、7,500万円の家を購入するケースで考えてみましょう。
金利0.5%および1.0%で住宅ローンを組んだ場合の毎月の返済額および総返済額は、以下の通りです。
【前提条件】
返済期間:35年
返済方法:元利均等
金利タイプ:固定金利
金利 | 毎月の返済額 | 総返済額 |
0.5% | 194,689円 | 81,769,157円 |
1.0% | 211,714円 | 88,919,765円 |
金利が0.5%上がると、毎月の返済額の負担は約17,000円上がり、総返済額は700万円以上増加します。
政策金利が0.1%上昇したからといって、必ずしも住宅ローンの金利が同じだけ上がるわけではありませんが、家計にとっては支払い負担が増える可能性が高まります。
株価にはネガティブな影響を与える
利上げが行われると、個人は銀行預金を増やして利息をもらった方が得だと考えるようになるため、消費が冷え込む傾向にあります。
個人消費の減少に伴って企業売上も低下するため、業績悪化の見通しから株価は下落しやすくなります。
2022年以降はコロナショックからの経済回復を受けて、徐々に世界各国で利上げが始まりました。
特にアメリカでは、2022年3月以降はインフレ抑制のための大幅な利上げが続いており、株価も大きく反応しています。
例えば、Amazonの株価は2022年の年初時点で170ドル前後をつけていましたが、利上げとともに株価が下落し、2022年の年末には90ドルを切るまでに下がりました。
その後は、利上げペースの鈍化期待などによって再び株価は上昇したものの、2023年7月18日時点の株価は132ドル台と以前の水準には戻っていません。
一般的に利上げ観測の高まりは、多くの株式にとってネガティブ要因となりやすいことを覚えておきましょう。
出典: Yahoo!ファイナンス「アマゾン・ドット・コム【AMZN】」
為替は通貨ペアの金利が高い方へ傾く
為替は、金利の低い通貨から金利の高い通貨へ資金が流れやすい特徴があります。
例えば、金利0%のA通貨と金利4%のB通貨では、持っているだけで4%の金利がもらえるB通貨の方を保有したいと考える人が多いでしょう。
上記の例はまさに現在のドル円の状況を表しています。
なかなか金利の上がらない日本円に対して、利上げが続くアメリカドルが買われているため、円売り・ドル買いの流れが進み急激な円安をもたらしているのです。
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企業業績にもネガティブな影響が出やすい
利上げが行われると貸出金利も上がりやすくなるため、企業は銀行からの借り入れを抑える傾向にあります。
借り入れを抑えて使えるお金が減少すると、企業は設備投資や商品開発など未来に向けての投資にお金を回しにくくなりがちです。
利上げによる個人消費の落ち込みも相まって、企業業績の見通しが不安定になる可能性が高まります。
急激に業績見通しが悪化した場合は、コスト削減のために不採算事業の整理や人員削減の必要性も生じてくるでしょう。
利上げのタイミングでは、企業業績に悪影響が出やすいといえます。
アメリカの利上げ状況【2023年】
2022年から2023年にかけて政策金利が大きく上昇
アメリカでは、2020年のコロナショックによって落ち込んだ経済を回復させるため、2020年〜2021年にかけて政策金利の引き下げを行っていました。
コロナ前は1.75%だった政策金利を2020年3月に0.25%に引き下げたあと、2022年の2月までは同じ水準を維持していました。
ところが、2022年の3月に0.5%に引き上げてからは段階的に利上げを実施しています。
2022年1月には0.25%だった政策金利が、2023年6月には5.25%まで上昇するなど、大幅に政策金利が引き上げられました。
株価は2021年から大きく減少
政策金利が上がったことで、株価にも大きな影響がありました。
アメリカの主要な株価指数について、2022年の年初からどのように価格が変動したか確認しておきましょう。
株価指数 | 2022年1月3日終値 | 2023年1月3日終値(下落率) | 2023年6月30日終値(下落率) |
NYダウ | 36585.06 | 33630.61(-8.08 %) | 34407.6(-5.95%) |
S&P500 | 4796.56 | 3895.08(-18.79 %) | 4450.38(-7.22%) |
NASDAQ | 15832.799 | 10569.294(-33.24 %) | 13787.923(-12.92%) |
表からもわかる通り、NYダウ、S&P500、NASDAQのいずれも2022年の年初からは大きく株価が下落しています。
特に、ハイテク株を中心に採用しているNASDAQの下落が顕著で、2022年の年間下落率は約30%割です。
コロナ禍では好業績によって株価を伸ばす企業が多く存在しましたが、特に2022年の年初から10月頃にかけては、その上昇分を打ち消すほどの強い下げ相場となりました。
2023年からは利上げペースの減速見通しにより株価は回復していますが、それでも2022年年初の水準には戻っていません。
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2023年をピークに減少する…?
2022年から2023年にかけて、米国では急速なペースで利上げが行われました。
2023年5月には政策金利が5.25%に達し、歴史的に見ても非常に高い水準で推移しています。
今後は、アメリカの政策金利がどの時点でピークアウトするかに市場の注目が集まるでしょう。
直近では、懸念されていたインフレに関する指標も徐々改善しつつあることから、2023年をピークに利上げが一旦落ち着くと予想するアナリストも増えてきました。
とはいえ、アメリカのインフレ水準は、FRBが目標とする2%を上回る水準が継続しているため、まだ利上げが確実に停止されるとは限りません。
その時々の経済指標によって金融政策が決まってくるため、FRBの動向や要人発言は逐一チェックしましょう。
FRBの政策決定に注目が集まる(FOMC)
政策金利の引き上げ・引き上げは、アメリカの中央銀行であるFRBが決定します。
FRBは「連邦準備制度理事会」とも呼ばれ、日本の日銀にあたる組織です。
FRBが開く会合を「FOMC」といい、年に8回開催されます。
FOMCは多くの投資家の注目が集まるイベントとなっており、政策金利やFRBの声明の発表直後は株式、為替ともに大きく価格が動くことがあります。
特に市場の予想と異なる結果となった場合は、相場が激しく反応しやすいため注意しましょう。
2023年6月のFOMCでは利上げが見送られ、政策金利が据え置かれることとなりました。
利上げが見送られたのは2022年1月以来で、今回の利上げ局面では初めてです。
FRBは2023年内にあと2回の利上げを想定しており、今後もFOMCの内容に注目が集まります。
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アメリカ利上げによる日本への影響
利上げが収まるまでは円安傾向が続く
前述の通り、為替は2つの国の通貨の金利差をベースに動きやすいという特徴があります。
2022年はアメリカのハイペースな利上げによって、急速にドル高・円安が進みました。
2022年10月には1ドル = 150円にまで円安が加速しましたが、その後年末から2023年の年初にかけてはドルが売られ円高方向に動きました。
その後は、アメリカの利上げの影響によって再びドル高・円安基調となっています。
インフレのピークが見え、利上げペースの鈍化や利下げに向けた動きが始まれば、徐々にドル安円高へと推移していくことが予想されます。
物価が上がっていく
日本は、日々の生活に必要なものの多くを輸入によって賄っているため、円安によって仕入れ価格が上がると国内の物価にも押し上げ圧力がかかります。
記憶に新しいところでは、AppleによるiPhoneの値上げがあります。
2022年9月に発表された新型のiPhone14シリーズの価格は、最も安い機種で11万9,800円と、1年前に発売された13シリーズよりも約2万円の値上げとなりました。
加えて、2023年6月にはマクドナルドの値上げも話題を呼びました。
ビッグマックの価格はこれまで450円でしたが、2023年7月19日からは都心店で500円、準都心店で470円に価格が引き上げられます。
アメリカの利上げのペースが鈍化するまでは円安状態が継続すると考えられており、今後も食べ物や日用品など生活必需品の値上げが続きそうです。
参考:株式会社日本経済新聞社「マクドナルド、値上げ夏の陣 最大90円高「都心店」拡大」
日本株には海外資金が集まりやすくなる
円安とは、日本円の価値が相対的に下がっている状態のことです。
海外投資家から見ると日本企業の株式が割安で買えるため、日本市場に興味を示しやすくなります。
日本の株式市場に資金が流入すれば株価も上昇していくため、円安は日本株にとってポジティブな影響を与えます。
実際に、2022年以降の日経平均株価(青線)とS&P500(橙線)の動きを比較したものが、以下のチャートです。
S&P500(橙線)は2022年の1年間で約20%程度下落したのに対し、日経平均(青線)は10%程度の下落に留まりました。
2023年以降はどちらも上昇傾向となっていますが、日経平均の方がより高い上昇率となっています。
アメリカの利上げの要因
2022年以降、アメリカがハイペースで利上げを行った要因として、急激にインフレが加速していることが挙げられます。
コロナによる経済鈍化の対策としてお金をばら撒いた結果、金余りが発生してしまい、仕事を離れる労働者や早期リタイアするシニア層が増加しました。
消費が伸びる一方で働き手がいないため、企業は賃金を上げざるを得なくなります。
賃上げを行った企業は人件費を商品の価格に上乗せするため、物価がどんどん上がっていきます。
FRBはこのインフレに歯止めをかけるため、政策金利の引き上げを急速に進めているのです。
急激な利上げは消費需要の減少に伴い物価の低下をもたらすことが期待されますが、景気後退によって失業率が高まるリスクもあります。
FRBは雇用や経済を多少犠牲にしてでもインフレを抑えようとする姿勢で、過去に例を見ないペースでの利上げを進めたのです。
2023年以降は少しずつインフレも落ち着きを見せており、それに伴い利上げペースも鈍化し始めています。
まとめ:利上げとは、中央銀行が政策金利を引き上げること
利上げは、政策金利を引き上げてインフレを抑制するために実施される金融政策です。
各国の中央銀行は、自国の経済の状況を見ながら政策金利をコントロールすることで景気の安定を図っています。
世界経済の中心であるアメリカの利上げは、アメリカのみならず諸外国の経済にも大きな影響を与えます。
日本の株式市場や為替を動かす要因ともなるため、利上げの要因や今後の見通しはしっかりとチェックしておきましょう。
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