【投資コラム】自社株買いが株価に与える影響について金融の専門家が詳しく解説

2018年度の上場企業による自社株買いは、過去最高を更新する見通しです。金融情報サービスのアイ・エヌ情報センターによると2018年度の自社株取得は6兆7000億円を超え、最高だった2015年度を2,600億円上回りました。
企業が自社株買いを行うのはなぜなのか。そして、株価にどのような影響を与えるのかについて詳しく解説します。
目次
自社株買いとは市場から株式を買い戻す行為
自社株買いとは、企業が発行した株式を市場から買い戻す行為です。たとえば、「ソニー(6758)がソニー(自社)の株を買う」、「トヨタ(7203)がトヨタの株を買う」などです。
自社株は株主還元の1つ。株主還元とは、株主への利益配分を増やすことです。株主還元には、主に2つあります。
増配とは配当を増やすこと
増配とは、1株あたりの配当金を増やすことです。株主にとっては、実際に現金が戻ってくるため、利益還元が行われているという実感が強くなります。一般的に、増配が行われるのは株価が高くなっていて、自社株買いが難しい状態の時です。
多くの企業では、株価が安くなっていれば自社株買いを、株価が高くなっていれば増配を行う傾向にあります。
自社株買いをすると株価が上がりやすくなる
増配もマーケットに好感されますが、最近は、自社株買いの方が高く評価され、自社株を発表した企業の株価は高いパフォーマンスにつながる傾向にあります。
その理由は主に次の3つです。
1.自社株買いによってREO(自己資本利益率))が改善する
ROEとは、自己資本利益率のことで、計算式は以下の通りです。
● ROE = 当期純利益 ÷ 株主資本
たとえば、当期純利益が1,000万円、株主資本が1億円だった場合のROEは、
ROE = 1,000万円 ÷ 1億円 = 10%
となります。発行済み株式数が100万株で、半分の50万株の自社株買いをした場合、株主資本も半分の5,000万円になります。その場合のROEは以下の通りです。
自社株買い後のROE=1,000万円 ÷ 5,000万円=20%
ROEが10%から20%に改善したことがわかります。
2.PERが低くなるので株価上昇が期待できる
PERとは、会社の利益と比べて株価が割安かどうかを測る指標です。PERが低いほど株価は割安だと判断されます。計算式は以下の通りです。
● PER = 株価 ÷ 1株あたりの利益(EPS)
1株あたりの利益(EPS)は、会社の最終利益である純利益を発行済み株式数で割ったものです。計算式は以下のようになります。
● EPS = 純利益 ÷ 発行済株式数
自社株買いを行うと発行済株式数が減るので、EPSは高まります。その結果、PERも低くなるのです。
たとえば、発行済株式数100万株、当期純利益1,000万円のEPSは、
EPS = 1000万円 ÷ 100万株 = 10円
になります。株価が500円だった場合のPERは、
PER = 500円 ÷ 10円 = 50倍(自社株買い前)
自社株買いにより50万株償却した場合、EPSは、
EPS = 1000万円 ÷ 50万株 (発行済株式数100万株―償却50万株) = 20円
となり、株価500円で変わらない場合のPERは
PER = 500円 ÷ 20円 = 25倍(自社株買い後)
自社株買いにより、PERが50倍から25倍まで低下したので、株価は「割安」と判断され株価上昇要因となります。
3.株価が割安だというメッセージを市場に送れる
自社株買いは取締役会の決議ですぐにできます。株価が低迷しているときに自社株買いを発表すれば、株価が割安だというシグナルを市場に発信できます。
企業が買い入れた株式は資本から控除され、「金庫株」として保有します。本当に金庫にしまうということではなく、そのまま保有することで市場にでてこないという例えです。完全に株式を処分してしまうことを「償却」といいます。
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自社株買いの企業側のメリット
自社株買いは、企業側にもメリットがあります。企業側のメリットは、主に次の2つです。
1.敵対的買収の防衛
2.ストックオプションに利用
1.自社株買いは買収防衛策になる
自社株買いは敵対的買収に対する買収防衛策として行われるケースがあります。企業価値に比べて株価が安い水準で放置され、しかも現預金がたくさんあれば敵対的買収の対象になります。
敵対的買収とはM&Aの一つで、対象企業の経営陣の合意を得ることなく株式を取得し、経営権の獲得を狙うことです。自社株買いは株式を発行している会社が取得することによって株式の発行済み株式数を減らし、株価を引き上げる効果があります。
自社株買いで株価を上げることは、買収コストがかかることになるので買収防止につながるのです。
2.ストックオプションに利用できる
自社株買いをして保有した株式の使い道として「ストックオプション」があります。ストックオプションとは、企業の役員や従業員が自社株を買える権利を付与することです。
たとえば、現在の株価が1株500円の時に従業員にストックオプションを付与したとします。その後、企業業績が好調で株価が2倍の1,000円に上昇。従業員は500円で株を購入できる権利をもっているため、ストックオプションを行使すると1株あたり500円の利益を手にすることができます。
このように、自社の株価が上昇すると自分の利益も増えるので、従業員が業績を上げるインセンティブになります。ストックオプションは、企業にとっても従業員にとってもプラスの効果があるのです。
自社株買いが増えた背景
2018年度の自社株取得は6兆7000億円を超え、過去最高になる見込みと冒頭で書きました。なぜこれほど自社株買いは増えているのでしょうか?
その背景には、企業統治の強化に取り組む政府の姿勢があります。2015年に、金融庁と東京証券取引所は「コーポレート・ガバナンス・コード」をとりまとめました。コーポレート・ガバナンス・コードとは、上場企業が守るべき行動規範を示した企業統治の指針です。より株主重視の姿勢を打ち出すことが求められています。
そこで、これまで一般的だった「安定配当」をやめ、利益の一定割合を配当に充てる「業績連動型配当」を採用する企業が増えました。また、ROEの向上を目指す企業が増えています。ROEの向上には自社株買いが有効です。
今後もROEへの関心は高まっていくと見られているので、自社株買いを行う企業は増えると予想されます。
まとめ
自社株買いとは、企業が発行した株式を市場から買い戻す行為です。主に次の3つの効果から株価にとってプラスの効果があります。
1.自社株買いによってREO(自己資本利益率))が改善する
2.PERが低くなるので株価上昇が期待できる
3.株価が割安だというメッセージを市場に送れる
また、企業側にとっても、敵対的買収を防げる、ストックオプションとして利用できるなどのメリットがあります。
しかし、自社株買いの発表によって株価が上がりやすくなるのは事実ですが、投機筋などが自社株買い終了と同時に利益確定の売りをだすこともあります。短期的な利益を狙う投機筋に振り回されないよう、PERやROEなどをきちんと確認して投資するようにしましょう。
記事 山下 耕太郎
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