従業員持株会とは?メリット・デメリットや奨励金について解説
「従業員持株会」とは、従業員が自社の株を購入できる制度です。
持株会は福利厚生の一種として多くの企業が取り入れており、企業にも従業員にもメリットのある制度なので、加入を勧められることが多いでしょう。
従業員は自分たちが頑張った結果が株価上昇に繋がるためモチベーションが高まり、企業側にとっても資金も調達や従業員の帰属意識を高められるというメリットがあります。
この記事では従業員持株会の特徴やメリット・デメリットを解説します。
持株会の概要をしっかりと把握し、「加入するかしないか」「加入しているが今後どうするか」の参考にしてください。
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この記事の目次
持株会とは
持株会とは従業員が毎月一定金額を出し合って共同で自社株を購入する制度のことです。
毎月のお給料やボーナスから天引きで勤務先の株式を購入する、というイメージになります。
東京証券取引所の調査では、2019年時点で上場企業の約87%が持株会を設けており、そのうち従業員の約39%が持株会に加入しているというデータもあります。
参考:株式会社東京証券取引所「2019年度従業員持株会状況調査結果の概要について」
勤務先の株式を購入できる制度
持株会とは、自社の株式をインサイダー取引に引っかからない形で購入できる仕組みです。
通常、従業員が自社の株式を購入することは、インサイダー取引に該当するため、禁止されています。
しかし「一定期間ごと」に「一定の額」を購入する形式の持株会での自社株購入であれば、基本的にはインサイダー取引に該当しません。
従業員が自ら働いている会社の株式を購入し、会社の業績が良くなれば株価もあがります。
株式の価格が上昇すれば、そのまま自分の資産が増えることに繋がります。
また、自社株を保有して株主目線を持つことで、会社の業績や株主からの見られ方などが気になるようになってきます。
これまでの「従業員目線」ではなく「経営者の目線」や「株主の目線」で、会社や会社を取り巻く環境を見ることができます。
インサイダー取引とは?規制されている理由や罰則、事例も紹介!
給与や賞与から天引きされる
持株会の購入資金は、決まった金額が毎月の給与や賞与から天引きされます。
金額は事前に自分で決められ、ボーナス月は普段より多く購入することが一般的です。
給与天引きですから、普段貯金が苦手な方でも着実に資産形成ができます。
あまり細かい管理をせずに資産形成をしたい方には、特に向いている仕組みといえるでしょう。
上場前の企業にも導入されている
従業員持株会は、「自社の株を買う」ということで上場企業のための制度だと思われがちですが、実は非上場企業でも持株会を導入している企業は多いです。
上場前の会社の株価は比較的安価であることが多いため、もし持株会に加入している状態で会社が上場すれば、従業員も大きなリターンを得られる可能性があります。
上場前の企業に勤めている従業員にとっては、持株を保有することで上場を目指す大きなモチベーションになるといえるでしょう。
従業員が持株会に入るメリット
資産運用の一つになる
持株会に入ると給与天引きで毎月自社株を買い付けていくため、強制的に資産運用することになります。
買い付け金額が給与から天引きされた状態で受け取ることになるため、買付用のお金を他に使ってしまうことなく資産として自社株が積みあがっていきます。
これまで投資をしたことが無い新入社員にも、少額から資産形成を始める手段としておすすめです。
入社時に案内されてなんとなく始めてみたところ、数年後には大きな資産となっていたということもあります。
自社株を少額から投資できる
持株会は1株いくらという通常の株取引とは違い、金額指定で積み立てていくことができます。
最低拠出金額は1,000円からが多く、千円単位で価格を決められる企業が多いです。
例えば1株あたりの金額が高い上場会社に勤務していたとしても、毎月5,000円で持株会で買い付けることもできます。
近年は単元未満株を買い付けできる証券サービスも増えてきていますが、従来の株式投資であれば100株単位での購入が普通ですから、少額から気軽に投資できるメリットは大きいといえます。
奨励金が上乗せされる場合がある
持株会には「奨励金」という、購入金額に応じて一定金額が上乗せされる制度が存在します。
奨励金がある場合は、より効率的に自社株を買い付けることが可能です。
例えば1,000円の積み立てに対して50円が上乗せされ、1,050円分の買付ができるというイメージです。10,000円なら10,500円の買付になります。
奨励金の実施有無は会社ごとに異なりますが、2021年5月に東京証券取引所が公表した「2019年度従業員持ち株会状況調査結果の概要について」の調査結果によると、2019年に持株会を導入している企業のうち、約96%が奨励金の仕組みを採用しているようです。
同調査によると、企業が上乗せする奨励金の平均は約8%であることもわかります。
預金金利がほぼ0%のご時世ですから、8%の奨励金を受け取りながら資産運用をすることは、かなり魅力的といえるでしょう。
出典:東京証券取引所 「2019年度従業員持株会状況調査結果の概要について」
配当金やキャピタルゲインが得られる
持株会で購入するのは株式ですので、価格の変化で資産も増減します。
仮に購入時の基準価格よりも株価が上がった場合は、その分が運用利益(キャピタルゲイン)となります。
配当を実施している企業の場合は、配当金を自動的に再投資する仕組みになっています。
つまり配当金を複利運用できるということです。
保有株数が1単元(100株)以上になると、振替の申請手続きをして証券会社に開設した自分の証券口座に移して管理することもできます。
持株会から移した株式は一般の投資家と同じ扱いになるため、実施している場合は配当がもらえたり、株主優待の対象にもなります。
従業員が持株会に入るデメリット
持株会にはデメリットもあります。
デメリットをよく理解せずに、利率の良い奨励金や上司からやった方がいいからと勧められて安易に始めると後悔することになるかもしれません。
持株会のメリットと合わせて、今後どう付き合っていくかの判断材料にしてください。
資産が会社に集中するリスク
従業員が持株会に入るデメリットとして、資産のほとんどが会社に集中してしまうということが挙げられます。
会社からお給料をもらいつつ、その資金を会社に投資することになるため、資産が会社に偏ってしまうのです。
この場合、仮に会社の業績が悪くなれば給与が下がる可能性がありますし、株価が下がることで株式の価値が目減りすることも考えられます。
つまり、会社の業績次第で資産が大きく左右されてしまう可能性があるということです。
他の資産に分散投資している方はいいですが、従業員持株会だけで資産運用をしている方にとっては、ややデメリットになるといえます。
好きなタイミングで売買できない
持株会で購入した株式も売却することは可能です。
しかし、通常の株に比べて必要な手続きが多く、売却までの時間もかかります。
インサイダー取引防止の観点からも売却タイミングが決められており、例えば決算前後1ヶ月は売却できない、会社のIR発表前は取引を制限されるなど、ある程度期間が決められています。
また、売却できる回数についても月に何回まで、と制限されている企業もあります。
売却にかかる期間は持株会によって異なりますが、証券会社に口座を開設し、持株会に手続き依頼をしたうえで証券口座に持株を移し、証券口座から売却する手続きをする流れとなります。
- 証券会社で個人用の口座を開設
- 持株会からの株式移管申請
- 会社側で手続き
- 自分の証券口座に株式が移管される
- 自分の証券口座から株式を売却する
個人で保有する株式であれば即日売却できることを考えると、持株会の株の売却は手続きに時間がかかります。
株価は毎日変動していますから、思い立った時に即時売却できない点は通常の株式運用とは異なります。
このように、資産移動の小回りが効かない点はデメリットといえるでしょう。
株主優待は受け取れない
持株会で勤務先の株式を購入しても株主優待は受け取れません。
従業員個人の証券口座で保有しているわけではなく、「持株会の名義」で株式を購入・保有していることから、個人での所有に当たらないためです。
株式投資を株主優待が目当てで行っている人もいるくらいなので、株主優待を受け取れないことは持株会のデメリットといえます。
ただ、配当金と同様で個人の証券口座に株式を移すことで、株主優待を受け取ることは可能です。
会社が持株会を導入するメリット
従業員にとってメリットの多い持株制度ですが、企業側にとってもメリットが大きい制度です。
企業が持株制度を推奨するのはなぜなのでしょうか。
安定株主(持株会)を形成できる
安定株主とは、企業の成績や株価、配当金の割合などの目先の動きに左右されず長期間株式を保有し続けてくれる株主のことをいいます。
企業にとって安定した経営をしていくためには、自社株を長期保有してくれる株主必要です。
従業員持株会を導入することで、会社側は安定した株主を獲得することになります。
持株会に加入する社員は資産形成を目的として加入しているケースがほとんどのため、自社株を長期間保有してくれます。
経営側としては安定して株式を購入してくれる「安定株主」として重宝する存在となります。
福利厚生の充実
持株会は「資産形成の一助」になることが多いため、人材採用の際の福利厚生として武器になります。
奨励金を出すことができれば、「会社が社員の資産形成を応援している」というメッセージにもなり、従業員との信頼関係向上にも期待できるでしょう。
実際に、持株会への加入者を増やすために奨励金を増額する企業は増加傾向にあります。
従業員の当事者意識アップにつながる
自社の株を持つことで、株主となった従業員は自社の株価の動向が気になってきます。
例えば「現在携わっているプロジェクトが上手く行けば株価が上がるかな」とか、「自社製品の売上が増えれば株価も上がるかも」といった形で、普段の仕事に対して当事者意識が強くなり、仕事へのモチベーションアップに繋がる可能性が高いです。
その結果、従業員が仕事で成果を挙げ、業績が向上すればそのメリットは計り知れません。
会社が持株会を導入するデメリット
業績悪化によるモチベーションの低下
株価が上がっている時は従業員のモチベーションを上げやすいですが、逆に事業が停滞して株価上昇の兆しが見えないと従業員のモチベーション低下に繋がります。
もちろん、そうならないために関係者一同で力を合わせて業績向上のためにがんばるわけですが、事業がうまくいっていない時は逆効果になってしまう可能性があることを留意しておきましょう。
バックオフィスの作業量が増える
事務的な話になりますが、給与天引きや持株会の加入管理などはバックオフィスの担当となります。
事務の仕事量が増えてしまい、当然、運営に各種コストがかかることは会社側として認識しておく必要があります。
持株会には入るべきか
持株会に入るべきか入らないべきかは、一概にどちらとはいえません。
メリット・デメリットを把握して、自身の資産状況も鑑みながら検討するのがいいでしょう。
例えば毎月の生活費に余裕があるけど貯金が苦手というような方は、持株会を貯金の感覚で始めてみるのはいいかもしれません。
もちろん株ですから価格変動はありますが、奨励金制度を活用すればお得に資産形成をすることができます。
一方で普段からしっかり資産管理できており、貯金額・資産運用額を毎月着実に増やして行けている方は、資金の小回りが効かない持株会を積極的に活用する必要はないかもしれません。
まとめ:従業員持株会は資産形成におすすめ
従業員持株会は、給与天引きで強制的に資産形成をしたい方におすすめです。
奨励金がある企業なら、効率よく資産を増やしていくことができるでしょう。
勤め先を株主目線で見られるようになるので、仕事に対しての考え方や姿勢も変わってくるかもしれません。
しかし、業績悪化時のリスクやすぐには売却できないリスク、会社が上場できないリスクなど、デメリットもあることには注意してください。
持株会に興味を持ったら、まずは自社の担当者に内容を詳しく確認してみることをおすすめします。
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