グリーンボンド(環境債)とは?意味やメリット・デメリットをわかりやすく解説
「グリーンボンド(環境債)」は、環境問題の解決を目指す「グリーンプロジェクト」の資金調達手段として発行される債券です。
近年はSDGsの広がりによって、国内外でグリーンボンドへの注目が高まっています。
この記事では、グリーンボンドの特徴や種類、メリット・デメリットなどについてわかりやすく解説します。
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この記事の目次
グリーンボンド(環境債)とは
企業や地方自治体等が発行する債券
「グリーンボンド(環境債)」は、企業や地方自治体、金融機関等が発行する債券の一種です。
債券(ボンド)とは、国や企業などが投資家からお金を借りるために発行する借用証書のような物で、あらかじめ定められた満期になると投資した金額が投資家に返還されます。
債券を保有している投資家には定期的に利息が支払われるため、定期預金のような安定した投資をしたいと考える方に人気がある金融商品です。
グリーンボンドの場合、調達した資金の使途が環境問題の解決に貢献するグリーンプロジェクトに限定されるという特徴があります。
「太陽光」・「風力発電」といった再生可能エネルギーや「環境不動産」など、地球温暖化をはじめとする環境問題の解決・改善のための事業がグリーンプロジェクトに該当します。
国内でのグリーンボンド市場の広がり
グリーンボンドは、日本では「環境債」と呼ばれることもあります。
環境問題への関心の高まりやSDGs・ESGの広がりを背景に、日本でも大きく注目を集めるようになりました。
日本政策投資銀行が2014年に国内初のグリーンボンドを発行したのを皮切りに、国内の債券市場でグリーンボンドの発行額が増加しています。
環境省によると、2020年には年間のグリーンボンド発行額が初めて1兆円を突破しました。
さらに2021年の発行総額は1兆8,000億円を超え、グリーンボンドの発行額は大きく伸びています。
出典:環境省「国内におけるグリーンボンドの発行・投資への期待」
2008年に世界銀行が初めて発行した
グリーンボンドが発行されるようになったきっかけは、2007年のIPCC(気候変動政府間パネル)による地球温暖化に関する報告です。
気候に関するデータや科学論文などから、深刻な地球温暖化がすでに進んでおり、大きな対策が取られないと温暖化による悪影響がさらに広がることが明らかになりました。
地球温暖化対策のためには莫大な資金や世界規模での対策が必要になります。
気候変動問題の解決を図りつつ、環境問題に関心の高い投資家の需要に応えるため、世界銀行が「グリーンボンド」の呼び名で債券を発行したのが始まりです。
出典:国際連合広報センター「気候変動に具体的な対策を」
出典:World Bank「グリーンボンド」
「ソーシャルボンド」や「サステナビリティボンド」との違い
グリーンボンドと似た言葉として「ソーシャルボンド」や「サステナビリティボンド」があります。
ソーシャルボンド | 衛生・福祉・教育といった社会問題の解決を目指すソーシャルプロジェクトの資金調達のために発行される債券 |
サステナビリティボンド | 環境問題・社会問題双方の解決を目指す事業に必要な資金を調達するために発行される債券 |
これらの債券は、どのようなプロジェクトのための資金調達手段として発行されるかによって呼び名が変わります。
簡単にいうと、環境問題に関するプロジェクトなら「グリーンボンド」、社会問題に関するプロジェクトなら「ソーシャルボンド」、その両方の性質を併せ持つなら「サステナビリティボンド」、というように区別できるでしょう。
これらの債券をまとめて「SDGs債」と呼ぶこともあります。
グリーンポンド発行に関するルール
グリーンボンドの発行について、法律では具体的に規定されていません。
グリーンボンドを発行する国や企業は、投資家から集めた資金をグリーンプロジェクトに限って使用することを明確に示しつつ、財務状況や経営ビジョンなど投資にあたって必要な情報の開示が求められます。
とはいえ発行に関する規定がまったくない場合、グリーンボンドという呼び名にもかかわらず実際には環境事業に資金が充当されない「グリーンウォッシュ債券」が市場に出回る懸念も生じます。
グリーンウォッシュ債券によって、投資家および他のグリーンボンドの発行体が不利益を被らないように、グリーンボンドとして発行される債券はあらかじめ定められたルールに則って発行されるのが一般的です。
グリーンボンドの代表的なルールには「グリーンボンドガイドライン」と「グリーンボンドの4つの原則(GBP)」があります。
グリーンボンドガイドライン
「グリーンボンドガイドライン」は、環境省が2017年3月に作成したグリーンボンドに関するルールです。
後述する「グリーンボンド原則」を参考に、日本国内の発行体向けに策定されました。
グリーンボンドと称する債券が備えるべき事項について、具体的な対応方法や対策例を用いて解説されています。
投資家に対してもグリーンボンドとしての評価基準を明示しているため、どのような点を見極めて投資判断を下せば良いのかがわかりやすいでしょう。
グリーンボンドガイドラインは、国際原則との整合性に配慮しつつ、国内の現状に即した形で適宜改訂が加えられています。
2022年7月には「グリーンボンド及びサステナビリティ・リンク・ボンドガイドライン2022年度版」が公開されました。
グリーンボンドの4つの原則(GBP)
「グリーンボンド原則(GBP」)は、国際資本市場協会(ICMA)によって2014年1月に策定されました。
グリーンボンドの透明性を確保し、市場の秩序を守ることを目的として都度改訂が行われています。
なお、最新の更新情報は環境省のサイトから確認できます。
グリーンボンド原則で挙げられている4つの要素について確認していきましょう。
出典:環境省「グリーンボンド原則(Green Bond Principles: GBP)」
1. 調達資金の使途
グリーンボンドにおいて最も需要なのは、調達資金がグリーンプロジェクトのために使われることです。
グリーンボンドを発行する発行体は、調達資金がどのような事業にいくら使われるかを明確に示す必要があります。
グリーンボンド原則では、グリーンプロジェクトに適する事業を以下のいずれかの目的に資する事業と定めています。
- 気候変動緩和策
- 気候変動適応策
- 自然環境保全
- 生物多様性保全
- 汚染対策
2. プロジェクトの評価と選定のプロセス
グリーンボンドの発行体は、投資家に対してプロジェクトに関する以下の事項を伝達すべきとされています。
- 環境面での持続可能性に係る目標
- グリーンプロジェクトと判断されるまでのプロセス
- 環境・社会リスク特定・管理のプロセスに関する補足情報
グリーンボンド原則では、発行体による透明性の高い情報開示を求めています。
投資家に対して十分な情報開示がなされることで、投資すべきかどうかの判断もしやすくなるでしょう。
3. 調達資金の管理
グリーンボンドによって調達される資金は、サブアカウント(別勘定)やサブポートフォリオなどの追跡できる形で管理されなくてはいけません。
投資家から集めた資金が、グリーンプロジェクトに正しく使われるかを確かめる必要があるためです。
調達資金の管理を適切に行うために、発行体だけでなく監査法人などの第三者機関も資金管理に関わることが推奨されています。
4. レポーティング
グリーンボンドでの資金調達が完了した後も、発行体は資金が適切に使われているかの報告を続ける必要があります。
プロジェクトに対してすべての調達資金が充当されるまで報告は続けられ、重要な出来事が起きた場合は公表されるべきだとされています。
報告にあたっては透明性が重視されるため、できる限り具体的な指標や目標に基づく結果報告が望ましいです。
グリーンポンドの種類
グリーンボンド原則(GBP)では、グリーンボンドの種類として以下の4つが示されています。
債券によって調達されたお金が、どの財源から返済されるかによって区別されています。
スタンダード債
Standard Green Use of Proceeds Bond(スタンダード債)は標準的なグリーンボンドのタイプです。
返済原資を特定の財源に限定せず、発行体のすべてのキャッシュフローを原資として満期に償還を行います。
お金の使い道はグリーンプロジェクトに限定されますが、返済するお金はグリーンプロジェクト以外の事業から生まれた収益でも問題ありません。
グリーンレベニュー債
Green Revenue Bond(グリーンレベニュー債)は、公的なグリーンプロジェクト事業から生まれたお金を原資に償還を行うグリーンボンドです。
例えば、廃棄物処理事業のための設備投資資金を債券の発行によって調達し、この債券の返済資金を事業収益によって行う場合、これはグリーンレベニュー債に該当します。
資金の使い道に加えて返済の原資もグリーンプロジェクトに限られる点と、そのプロジェクトが公的なものであるという点がポイントです。
グリーンプロジェクト債
Green Project Bond(グリーンプロジェクト債)は、単一または複数のグリーンプロジェクトから生まれたキャッシュフローを原資に返済を行う債券です。
返済の原資がグリーンプロジェクトに限定されるという点はグリーンレベニュー債と同様ですが、プロジェクトが公的なものかどうかを問わないという点で異なります。
証券化債
Green Securitized Bond(証券化債)は、担保付きグリーンボンドとも呼ばれ、発行体の資産を担保として発行されるグリーンボンドです。
例えば、ソーラーパネルや省エネ電化製品、電気自動車などのグリーンプロジェクトに関係する複数の資産が担保となり、この資産のキャッシュフローを原資として返済を行います。
グリーンボンドを発行する企業のメリット・デメリット
社会的評価・株価に良い影響がある
世界的にSDGsが注目されている昨今、地球環境の改善に努める国や企業が評価されるケースが増えてきています。
グリーンボンドを発行することで、環境問題の解決に対して積極的に取り組む姿勢を対外的にアピールできます。
「環境問題に熱心に取り組む企業」という評価を受けられれば、企業価値の向上にもつながるでしょう。
新たな投資家を開拓できる
現在、目先の利益や短期的な株価上昇にとらわれず、長期的な目線で企業を評価して投資を行う「ESG投資」を重視する投資家が増加しています。
グリーンボンドを発行すると、それまで関わりのなかった投資家にも興味を持ってもらえる可能性が高まるため、企業にとっては新たな投資家層を開拓できるチャンスとなります。
グリーンプロジェクトに賛同してくれる投資家が多ければ、資金調達基盤の強化につながり、今後の事業拡大も期待できるかもしれません。
資本効率が悪化する可能性がある
グリーンボンドによって調達する資金の使途は、「環境を改善するためのプロジェクト」に限られます。
そのため、グリーンボンドで資金を調達したあとに事業環境や経済状況が変わったとしても、他のプロジェクトにお金を回すことはできません。
事業用の資金が潤沢にある場合は良いですが、そうでない場合は資金の使途が限定されてしまうという点がデメリットとなるでしょう。
グリーンボンドに投資する投資家のメリット・デメリット
透明性が高くリスクの低い資産運用ができる
グリーンボンドは、プロジェクトに即して発行される金融商品であり、株式や他の債券の値動きの影響を受けにくいと言われています。
株や債券といった伝統的な金融資産以外への投資を「オルタナティブ投資」といい、投資対象の分散によるリスクヘッジ効果が期待できます。
加えて、グリーンボンドは調達する資金の使い道を明確に示しているため、投資家が事業の将来性や収益性を判断しやすいという点がメリットです。
第三者機関による評価があれば、客観的な分析も踏まえた上で比較的低いリスクで投資ができるでしょう。
グリーンプロジェクトに協力的な姿勢を見せられる
グリーンボンドへの投資は、ESGやSDGsへの間接的な支援につながります。
投資による利益を得られるだけでなく、グリーンプロジェクトに協力的な姿勢を社会に向けて発信できるメリットがあります。
今後は、環境保全に直接貢献できない投資家がグリーンボンドに投資するケースも増えてくると予想されます。
リターンを得られない可能性がある
近年はSDGsへの注目が高まっていますが、環境改善を主軸とした事業に取り組む企業はまだそれほど多くありません。
初めてグリーンボンドの発行に取り組む企業も多く、想定通りにうまく資金調達が進まないケースも考えられます。
投資家がグリーンボンドに投資したいと考えても、発行量が少ないために好きなタイミングで投資できない可能性もあるでしょう。
グリーンボンドに投資をする際は、しっかりとプロジェクトの内容や進め方を見極めた上で、投資の判断を行いましょう。
資金が正しく使われないリスクがある
「グリーンボンドガイドライン」や「グリーンボンド原則」などの発行に関するルールはあくまでも自主的な規制であり、実際どのように資金を使うかは発行体の「善意」に委ねられます。
今後グリーンボンドが普及していくと、この善意を利用して不正を行う事業者が出ないとは限りません。
一見すると環境問題に寄与するプロジェクトに見えても、実は環境問題の解決に貢献しないばかりか、環境に負荷をかける事業だったという可能性も考えられます。
意に反してグリーンウォッシュ債券に投資してしまわないためにも、グリーンボンドで調達した資金がどのように使われるかは慎重に調べる必要があるでしょう。
日本で発行されたグリーンボンドの事例
日本においても、地方公共団体や金融機関、事業会社などさまざまな企業がグリーンボンドを発行しています。
例えば東京都は、2017年以降毎年定期的にグリーンボンドの発行を続けています。
調達した資金の用途は、東京五輪関連施設の環境対策やスマートエネルギー都市づくり、上下水道施設の省エネ化などさまざまです。
金融機関としては、日本政策投資銀行といった政府系金融機関のみならず、メガバンクや証券会社、信託銀行などもグリーンボンドを発行しています。
金融機関の場合、グリーンプロジェクトを行う企業に向けた融資のために、資金を調達するケースが多いようです。
事業会社でのグリーンボンド発行事例はさらに多岐にわたります。以下はその一部を抜粋したものです。
企業名 | 発行時期 | 発行目的 |
日本電産 | 2019年11月〜2021年3月 | 電気自動車向けトラクションモータの製造設備への投資および研究開発費 |
オリックス | 2020年1月〜2022年4月 | 太陽光発電事業や再エネプロジェクト、クリーン輸送プロジェクトなどの費用 |
アサヒホールディングス | 2020年3月 | 廃棄物焼却炉の更新・新設および発電施設新設資金 |
まとめ:グリーンボンドとは環境問題に対応した債券
グリーンボンド市場は、世界中で急速に大きくなっています。
グリーンボンドは投資家にとって、SDGsに貢献しつつリスクの低い投資ができるメリットがあります。
しかし、グリーンボンド市場はまだ成熟しきっていないゆえに、しっかりとプロジェクトや発行体を見極めないと思わぬ不利益を被る可能性があるかもしれません。
グリーンボンドへの投資を検討する際は、メリット・デメリットをよく考慮した上で慎重に投資先を判断しましょう。
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記事監修者
マネカツ編集部
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