年金の受給は通常、65歳から開始されます。

この年金の受給を繰り下げる(遅らせる)ことで、その後の年金の受給額を増額する事ができます。1カ月の繰り下げで0.7%増額し、最大の70歳まで繰り下げを行えば42%も年金の受給額が増えるのです。

しかし、この「年金の繰り下げ受給」はご自身の健康状態や家族構成によって、得をするのか損をするのかが変わってくるのです。

「私(ご両親や親せきなど)の場合、年金をどのように受け取るのが一番お得になるの?」

今回は、このような悩みを解決するために、「年金の繰り下げ受給」をお得に活用する方法を解説していきます。

「年金の繰り下げ」とはどんな制度?

今回ご紹介する「年金の繰り下げ」とは、年金の受け取り請求をもともと受給できる時期よりも遅く受給することを指します(請求は66歳以降)。

1カ月間の年金の繰り下げを行うごとに年金を0.7%増額させる効果があります。この繰り下げ受給を請求するためには、「老齢基礎年金・老齢厚生年金支給繰下げ請求書」を提出する必要があります。請求書については、以下のURLを参考になります。

出典:老齢基礎年金・老齢厚生年金支給繰下げ請求書|日本年金機構

URL:老齢基礎年金・老齢厚生年金支給繰下げ請求書http://www.nenkin.go.jp/service/jukyu/todoke/rourei/20140421-08.files/0000002359.pdf

記入例

http://www.nenkin.go.jp/service/jukyu/todoke/rourei/20140421-08.files/0000002360.pdf

老齢基礎年金と老齢厚生年金の違いとは?

年金の繰り下げ制度の解説で、「老齢基礎年金」と「老齢厚生年金」という2つの年金制度が挙げられますが、これらの違いはどのようなものになるのでしょうか。

簡潔に言うと、

●老齢基礎年金は、20歳以上のすべての国民が加入する年金制度です。

●老齢厚生年金は、老齢基礎年金に上乗せされる年金であり、会社員や公務員の方が加入する年金制度です。

また、年金の仕組みに関しては下記の記事で詳しく解説しております。

「年金の仕組みがいまいち分からない!」という方はチェックしてみて下さい。

【FP監修】公的年金制度を徹底解説!3階建ての内訳や給付の種類・手続方法は?

老齢基礎年金の繰り下げ受給

老齢基礎年金の繰り下げ受給を行うとどのくらい受給額が変わるのでしょうか。ここでは、繰り下げ受給の基本的な手続きと受給額についてご説明します。

1941年(昭和16年)4月1日以降に生まれた人

繰り下げ受給の増減額は、生まれた年によって2つに分けられます。1つは、1941年4月1日以降に生まれた方、もう1つは1941年4月1日以前に生まれた方になります。ここではまず当てはまる方が多い、1941年4月1日以降に生まれた方の老年基礎年金の繰り下げ受給についてご説明します。

老齢基礎年金の引き下げ請求と増減額の早見表

基本的に年金の繰り下げ受給をした場合、申し出た日の年齢に応じて月単位の年金が増額されます。1ヵ月繰り下げるごとに0.7%増額されることになりますので、式で表すと増額率=(65歳に達した月から繰り下げを申し出た月の前月までの月数)×0.007で、最大70歳まで繰り下げた場合には42.0%の増額となります。また、増額率はその後一生変わることはありません。

請求時の年齢と増額率については、以下のようになります。

出典:老齢基礎年金の繰下げ受給|日本年金機構http://www.nenkin.go.jp/service/jukyu/roureinenkin/kuriage-kurisage/20140421-06.html

例えば、68歳5ヵ月で繰り下げ請求をした場合、繰り下げ月数は前月までの月数なので、3年と4ヵ月になり、合計40ヵ月になります。増額率は40×0.007=0.28となり、普通に65歳で年金を受けとるよりも、28%増額した額の年金を受給することができます。この場合、70歳以降の年金受給額は一生、28%増額した金額になります。

また、1941年4月1日以前に生まれた方の場合は年金の繰り下げ受給による増額率が異なります。

年齢の区分は同じですが、増額率が変わり、以下の増額率になります。

出典:老齢基礎年金の繰下げ受給|日本年金機構http://www.nenkin.go.jp/service/jukyu/roureinenkin/kuriage-kurisage/20140421-06.html

こちらは繰り下げた年齢によって、増額率が設定されています。

老齢厚生年金の繰り下げ受給

それでは次に老齢厚生年金の繰り下げ受給についてご説明します。

老齢厚生年金の引き下げ請求と増額率の早見表

老齢厚生年金を繰り下げた場合は、以下の条件を満たした場合に請求を行うことができます。

・2007年4月1日以降に65歳以降の老齢厚生年金の受給権を受けとっている方

・受給権を受けとってから、1年経過した日までに、障害厚生年金、遺族厚生年金、国民年金法による年金受給、その他被用者年金各法による年金給付の受給権者となっていない方

こちらも1ヵ月受給を遅らすごとに0.7%が増額され、例えば1年受給を遅らせると、8.4%増額することになります。その他の年齢での増額率は、以下になります。

出典:老齢厚生年金の繰下げ受給|日本年金機構http://www.nenkin.go.jp/service/jukyu/roureinenkin/kuriage-kurisage/20140421-05.html

加給年金と年金繰り下げ受給の関係

加給年金とは、要件を満たすと年金の金額を上乗せしてくれる制度です。一定の配偶者や子供がいることで支給されます。

その要件には以下のようなものがあります。

・厚生年金に20年以上加入している。

・配偶者の年収が850万円未満である。(給料所得者の場合)

・65歳の時点で、同一家計の65歳未満の配偶者または高校生以下(18歳以下)の子どもがいる。

加給年金の対象となる配偶者が65歳になると、加給年金は打ち切られますが、配偶者の老年基礎年金に振替加算という加算がなされます。例えば夫が受給している老齢厚生年金に加給年金が加算されている場合、妻が65歳になり老齢基礎年金の受給権を得ると加給年金額は妻へ移動し、老齢基礎年金の額と振替加算となり受給されます。

この加給年金が年金の繰り下げとどのように関連するかをご説明します。年金の繰り下げを請求した場合には、この加給年金は繰り下げされることはありません。また、繰り下げた期間については、加給年金の支給が停止してしまいます。もし、繰り下げを検討しており、加給年金の受給も可能な方については、繰り下げをする方が良いか、加給年金を受けとるためしない方が良いか慎重に検討することが必要です。

年金の繰り下げで得するのはこんな人

ここまで、年金の繰り下げ受給についてご説明してきました。ここからは、実際に年金の受給を繰り下げた場合に、得する人とはどんな方かをご紹介します。

長生きするほど得をする

年金は受給開始日から亡くなるまで受け取ることができます。

繰り下げ受給を行うと年金は増額され、その金額はその後一生変わりません。ただし、普通に65歳から受け取っている方よりも遅くもらうわけですから、増額したとしても早く亡くなってしまうと、結局65歳からもらうよりも年金総額が低くなってしまいますので、増額したのであれば長生きするほうが得になります。

65歳の時点で独身の人は得をする

未婚や離婚などの理由で独身の方は、加給年金などの加算の受給はありません。ですので、繰り下げ受給を行うことがもらえる年金総額の得になる可能性があります。

年上の奥さんがいて、20年以上会社員または公務員勤務の人

奥さんが年上で先に老齢年金を受けとっている場合、夫が厚生年金を受けとれる権利があっても加給年金は支給されません。ですので、もし奥さんが年上の場合は、繰り下げ支給を選択するほうが増額した際のメリットを受けやすくなります。

男性の平均寿命を超えて長生きする人

一般的にいって男性よりも女性の方が長生きです。ですので、年金の受給の性別に注目した場合には、女性の方が年金のメリットを受けやすくなっています。ですが、もし男性が厚生年金も含め繰り下げ支給を請求し平均寿命よりも長く生きた場合には、年金総額が女性よりも多くなり、メリットを受けやすくなることがあります。

20年以上会社員または公務員勤務の夫婦

夫婦が20年以上会社員や公務員であった場合、原則として加給年金は支給されませんので、増額のメリットを受けるためには、繰り下げ支給をする方がよい場合があります。

年金の繰り下げで損をするのはこんな人

それでは次に繰り下げをすると損してしまう人とはどんな方かをご紹介します。

長生きができない人

これは先ほどのメリットの裏返しですが、年金は生きていなければもらうことができません。ですので、もし繰り下げ受給を請求した場合には、65歳から受け取った場合よりも年金総額が多くなる年齢まで生きなければ、得したとは言えません。例えば、年額100万円年金を受けとる場合を考えてみましょう。本来の規定通り65歳から受け取ったとした場合には、80歳で1500万円受け取ることができます。

では、1年間繰り下げ受給した場合ではどうでしょうか。80歳で受け取れる年金は、1517万6000円になります。これだけ見ると80歳まで生きた総額は、繰り下げするほうがもらえる年金額は多いこと(得)であることが分かります。しかし亡くなる年齢を下げていくと、繰り下げが必ずしも良いとは言えなくなります。

年齢を下げて77歳の時点を計算すると65歳で受給開始の場合は1200万円、66歳で繰り下げ受給開始の場合は、1192万4000円となり、繰り下げないほうがもらえる年金総額が多くなってしまいます。このように、年金受給を繰り下げる場合には、繰り下げる年齢に応じて、何歳まで生きなければならないかが変わってくるので、長生きできない可能性があるのであれば、繰り下げを少し考えることが必要になってきます。

自身が65歳で子供が高校生以下の人

65歳の段階で、子どもが高校生以下の場合には、加給年金が加算されます。この加給年金の前提条件としてはメリットでご説明した厚生年金の受給していることがありました。ですのでもし繰り下げを請求していた場合には、加給年金の受給対象にならず、年金総額が少なくなることがあります。また、子どもが高校を卒業する加給年金がもらえなくなることも覚えておきましょう。

年下の奥さん、20年以上会社員または公務員勤務の人

加給年金は、妻が65歳になるまで夫の年金に22万4,300円上乗せされ、また、妻の加給年金には特別加算額が加わるため、夫は年間39万円ほどを受け取ることになります。妻が年下であればあるほど、この加給年金を長い間受け取ることができるため、妻の年齢によっては繰り下げ支給をしてしまうことで、受け取ることができる年金額が少なくなってしまうことがあります。

老後年金の繰り下げに関する注意事項

最後に年金の繰り下げを行う際の注意点をご紹介しておきます。繰り下げを検討されている方は参考にしてみてください。

繰り下げができなくなってしまうタイミング

年金の繰り下げは、老齢基礎年金の受給権が発生して1年以上経ち、日本年金機構に対して老齢基礎年金・老齢厚生年金支給繰下げ請求書を提出することで、その翌月から増額された年金を受けとることができます。しかし、この繰り下げは、繰り下げ時期を待っている間に他の年金の受給権が発生した場合には繰り下げをすることができなくなります。

例えば遺族年金や障害年金が挙げられます。そのため、もし繰り下げ年齢までに配偶者が亡くなった場合には、その時点の繰り下げ増額率で年金を受給するか、65歳までさかのぼって年金を一括で受給するかを選択しなくてはならなくなります。

老後基礎年金の権利が出てから繰り下げ請求する

繰り下げ請求をする場合には、老齢基礎年金の受給権利が出てから請求することができます。早い段階で年金の繰り下げを自身で決めることはできますが、請求するには年金受給の権利が出ることが必要ですので、繰り下げ請求を行う際にはまず年金の受給権利を得てから請求してください。

繰り下げをしても振替加算額は増額されない

会社員の妻などであれば、65歳から加給年金の受給資格を失い、老齢基礎年金+「振替加算」を受けとることになります。この振替加算が加算される妻は注意が必要です。年金の繰り下げを請求した場合には、この振替加算も繰り下げられてしまうのですが、年金とは違い、振替加算額については増額がありません。

遺族が交代して繰り下げ請求することはできない

もし繰り下げ受給を請求している際に請求者が亡くなった場合、その遺族が繰り下げ請求を続けることはできません。未支給請求について遺族が行うことができる場合は、本来の65歳で請求したとし、決定された年金額で支払いが行われます。

年金を受給するか否かのハガキ(または封書)は必ず見る

当たり前ですが、年金の受給を受けるかどうか決める際には、必ず送られてくるハガキまたは封筒を確認しましょう。65歳になると、日本年金機構から「年金請求書」が送られてきます。

年金は自動的に支給が始まるものではなく、自分で年金を受けとる手続きをしなくてはなりません。年金請求書、戸籍謄本等の自分の生年月日がわかる書類、受取先の金融機関の通帳、印鑑などの共通書類のほかに、条件ごとの書類を準備し、申請を行ってください。以下のURLに請求に必要な書類についてまとめてあります。

出典:支給開始年齢になったとき|日本年金機構http://www.nenkin.go.jp/service/jukyu/tetsuduki/rourei/20141128.html

年金の繰り下げを視野に入れてライフプランを考えましょう

いかがだったでしょうか。今回は65歳になったら受け取るだけでよいと思っていた年金が増額する、繰り下げという制度についてご紹介しました。

この制度は、確かにもらえる年金の増額に繋がるのですが、繰り下げてしてしまうことで受け取る金額が減ってしまう場合など、人によってはデメリットになってしまうこともあります。

今回の説明で繰り下げを考えてみようと思った方は、一度ご自身の年金状況を振り返ってみてください。将来の生活資金に関わることですので、得するか損するかじっくり考えてみることが大切です。

監修:上津原 章(ファイナンシャルプランナー)