「自社株買い」とは、市場に流通している自社の株式を自社の資本で買い付ける行為です。

情報関連会社QUICKによると、2022年に自社株買いを発表した国内企業は480社にのぼり、4月末時点ですでに2021年の6割超の水準に達しています。

このままの流れが進行すると、自社株の買い入れ金額が過去最高となった2021年度を上回る可能性があります。

企業による自社株買いが増えているのは、多くの企業にとってメリットがあるからです。

この記事では、企業が自社株買いを行うメリットやデメリット、株価に与える影響などについて詳しく解説します。

持っている銘柄が自社株会を発表した時、どのような影響があるかを把握しておきましょう。

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自社株買いとは

自社株買いとは

自社株買いとは、株式市場にある自社の株式を企業が自ら買い戻す行為です。

本来、企業は株式市場で自社株を売り出し、投資家に株を購入してもらう形で資金調達を行います。

こうして売りに出した株式を自ら買い戻す理由は、自社で株価や配当金の調整を柔軟に調整できるメリットがあるからです。

株主にとっても自社株買いによって発行済株式数が減ることで、1株あたりの価値が高まり利益配分が増えやすくなります。

そのため自社株買いは、配当と同じように企業の株主還元策の一つに位置付けられています。

自社株買いのメリット

自社株買いのメリット

企業が自社株買いを行うことで、以下のようなメリットがあります。

  • 配当金の総額を少なくできる
  • 株価を調整できる
  • 敵対的買収への対策となる

それぞれのメリットについて詳しく解説します。

配当金の総額を少なくできる

1つ目のメリットは、配当金の総額を少なくできることです。

自社株買いによって市場に出回っている株の総数が減れば、企業は配当を出す総数を減らすことができます。

配当総数が減った分、企業が出す配当総額も減るという仕組みです。

例えば発行済株式数が1億株で1株あたりの配当額が20円だった場合、企業が配当金を出すためには20億円(1億株×20円)の資金が必要です。

しかし、自社株買いによって発行済株式数を9,000万株に減らすことで、配当金の支払いに必要な資金を18億円(9,000万株×20円)に抑えられます。

自社株買いによって余った資金は設備投資や借金の返済、余剰資金の積み増しなどにあてられるため、企業にとって自社株買いは重要な財務戦略の一環となります。

また、1株あたりの利益が増えるため、既存株主の方に対して配当金を増やすという取り組みも多いです。

株価を調整できる

2つ目のメリットは、企業が株価を柔軟に調整できるようになることです。

自社株買いによって発行済株式数が少なくなると、1株あたりの株式の価値が高まる、すなわち株価上昇の要因となります。

企業は買い戻した株式を消却せず、金庫株として保有することもできますが、その金庫株を再び市場に売却することで、自社株買いで減少した発行済株式数が元に戻り、株価を一時的に下落させることもできます。

実際に2022年1~3月までの間、ウクライナ侵攻問題や金融政策の転換などで株価が下がった局面で、自社株買いで株価調整を行う米国企業が相次ぎました。

敵対的買収への対策になる

3つ目のメリットは、敵対的買収への対策につながることです。

自社株買いが敵対的買収への対策になるのは、以下のような理由があるからです。

  • 自社株買いによって株価が上昇すると、その企業を購入するために必要な資金が増えるため(買収のハードルが高まる)
  • 発行済株式数の減少により既存株主の議決権比率を高めることで、企業にとって都合の良い株主に多くの議決権を保有してもらえるようになるため

その結果、企業は経営の安定を図ることが可能になります。

自社株買いのデメリット

自社株買いのデメリット

自社株買いにはメリット以外に以下のようなデメリットも存在します。

  • 自社株買いするだけの資金が必要
  • 自己資本率の低下
  • 金庫株処理による株価下落リスク

それぞれのデメリットについて詳しく解説します。

自社株買いするだけの資金が必要

株式市場にある自社株を自ら買い戻すということは、当然その分の資金を用意する必要があるということです。

手元の資金が減少した結果、設備投資や事業拡大などに使用するはずだった資金が不足する可能性があります。

自社株買いを行うことで一時的に株価を上昇させたとしても、資金不足によって成長力が阻害されていると投資家から判断されると、中長期的には株価が下落する可能性もあるので注意が必要です。

そのため自社株買いを実施する際は、短期的なメリットだけではなく中長期的な戦略も踏まえて計画を立てることが重要となります。

自己資本率の低下

自社株買いとは、発行した株式を手持ちの資金で買い戻す行為です。

その結果、自己資本比率(自己資本÷総資産)の低下にも繋がってきます。

同時に流動比率(流動資産÷流動負債)の水準も低くなることから、企業運営に対する投資家の過小評価につながってしまう恐れがあります。

このような事態を避けるためには、すでに自己資本比率が高く潤沢な現預金がある状態で自社株買いを実行する必要があるでしょう。

金庫株処理による株価下落リスク

「金庫株」とは、自社株買いで会社が取得した株式を「消却」せずに保有しつづける株式のことを指します。

この金庫株を企業が再び株式市場に売りに出すことで、株価が大きく下落する可能性があるので注意が必要です。

ここまで自社株買いを行うことで1株あたりの価値が高まると説明してきましたが、金庫株を売却することで流通する株式を増やすことになります。

つまり、1株あたりの価値が減少してしまうため、投資家から嫌気され売られてしまう可能性が高くなるということです。

企業が自ら買い戻した株式は、「消却」するか「保有」するかを選べます。

上記のような株価下落リスクも視野に入れたうえで、適切な処理方法を検討しましょう。

自社株買いが株価に与える影響

自社株買いが株価に与える影響

結論からいえば、企業が自社株買いを実施すると「株価が上昇しやすく」なります。

自社株買いが株価を底上げする理由は、以下の通りです。

  • 発行済株式数が少なくなるため
  • 1株あたりの価値が向上するため
  • 「自社株買い」というニュースに投資家の買いが集まりやすいため

それぞれのポイントについて詳しく解説します。

発行済株式数が少なくなるため

自社株買いとは、株式市場の発行済株式数を減らす行為で、その結果市場に流通している自社の株式が減少します。

仮に自社株に対する需要量が変わらなければ、単純に供給量(株式総数)のみが減少した状態となります。

すると供給よりも需要が多くなり、需給バランスの変化によって株価が上昇するという仕組みです。

1株あたりの価値が向上するため

自社株買いによって発行済株式数が減少すると、株式益利回りが高くなります。

「株式益利回り」とは、株価に対する1株あたり利益の割合を示す指標です。

この株式益利回りは「1株あたりの利益÷株価」という計算式で求められますが、企業の利益はそのままで発行済株式数のみが減少すると1株あたりの利益が増え、株式益利回りも増加します。

株式市場では株式益利回りが高いほど「割安な銘柄」だと判断されるため、自社株買いによって株式益利回りが向上した結果、割安な銘柄を求めて買い注文が入り、株価が上昇しやすくなるという仕組みです。

「自社株買い」というニュースに投資家の買いが集まりやすいため

自社株買いによって好転するのは、株式益利回りだけではありません。

上記した通り、基本的に自社株買いは投資家にとってポジティブな要因であるため、「自社株買い」というニュースが流れることで投資家の買いが集まりやすくなり、結果として株価の上昇につながります。

ほかにも投資家にとって重要な株価指標であるPER(株価収益率)やROE(自己資本利益率)の数値が改善されるため、中長期的に見ても株式市場にいい効果をもたらします。

なぜ自社株買いが行われるのか

なぜ自社株買いが行われるのか

では、そもそもなぜ企業は自社株買いを行うのでしょうか。

ここでは、企業が自社株買いを行う3つの理由について解説します。

株主への利益配分を増やすため

企業が自社株買いを行うことにより、株主への利益配分額が増加します。

会社の利益が変わらない状態で発行済株式数のみが減ると、結果的に1株あたりの利益額が増加するからです。

例えば300個の卵(企業の純利益)を10人の株主で分け合うとすると、株主1人あたりが受け取れる卵の数は10等分されて30個となります。

ここで企業が自社株買いを行い株主4人分の株を買い戻した場合、300個の卵を6人の株主で分け合うことになるため、株主1人あたりの取り分は50個に増えます。

こうして手厚い株主還元を用意すると企業の価値が高まり、投資家からの新たな資金調達がしやすくなるでしょう。

経営安定のため

企業は時として、経営者同士で同意しないまま一方的に会社が買われる敵対的買収に遭うケースがあります。

特に外部企業が50%以上の株式を取得した場合は、企業経営に大きな影響を与えます。

その敵対的買収に備える手段の一つが、自社株買いです。

自社株買いによって持ち株比率と株価を上昇させることで、相手企業は買収するために多額の資金が必要となり、敵対的買収の可能性を抑えられます。

このように敵対的買収に備えることにより、企業はより安定した経営を行えるようになります。

従業員への報酬のため

自社株買いは従業員への株式配布やストックオプションの提供など、従業員に向けた報酬アップに使用されることもあります。

ストックオプションとは、従業員や取締役が事前に決定した価額(権利行使価額)で会社の株式を取得できる制度です。

その後、業績や市場の拡大などで株価が上昇した場合、ストックオプションを売却することで多額の利益を手にできます。

従業員にとっては自分の頑張りが株価上昇に繋がり、将来受け取る儲けを増やすことになるため、組織全体のモチベーションや士気向上につながります。

まとめ:自社株買いは投資家にもメリットが多い施策

自社株買いは投資家にもメリットが多い施策

自社株買いを行うと株価の上昇や敵対的買収の抑止につながるため、企業にとっては大きなメリットがあります。

そのため、財務戦略の一環として自社株買いを実施する企業も少なくありません。

しかし、自社株買いの方法次第では逆に株価が下落することもあるので、メリットだけではなくデメリットにも注意する必要がありそうです。

いずれにせよ投資家からしてみれば、持っている株式の価値向上や配当金が増える可能性などメリットが多い施策といえます。

日々のニュースを確認しながら、投資する際の参考にしてください。

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